冒険者ギルドへ
街に着いた。
石畳の道。木組みの建物。鎧姿の衛兵。荷物を積んだ馬車。
歩いている人々は服装も顔立ちも様々だが、どこかこちらの世界っぽい垢抜けなさがある。
「ファンタジーだな」
遊は小声で言った。感嘆でも呆れでもなく、確認するような口調だった。
街に踏み込んだ瞬間、周囲がざわついた。
「……なんだ、あの青い髪の若者」
「目が銀色だぞ。貴族か?」
「いや、あんな服装の貴族はいないだろう」
神様が整えた外見が目立っているらしい。遊は構わず歩いた。
目的地はすでに決まっていた。神様が記憶として叩き込んでくれた情報の中に、ちゃんとあった。
冒険者ギルド。
この世界で傭兵や冒険者が登録し、依頼を受けるための組織。
情報収集と現状把握には最適な場所だ。
ギルドの扉を開けると、熱気と騒音が一気に飛び込んできた。
肉の焼ける匂い。酒の匂い。汗と埃と金属の匂い。
大きなテーブルを囲んで屈強な冒険者たちが飲み、笑い、怒鳴り合っている。
遊はそれを一瞥して、受付カウンターに向かった。
カウンターの向こうに、女性がいた。
短く切った赤髪。きびきびとした目つき。愛想はそこそこで、仕事はできそうだった。胸元の名札に「エリス」とある。
「いらっしゃい。登録?」
「はい」
「じゃあ名前と、使えるスキルを教えて。ざっくりでいいよ」
遊は少し考えた。
全部正直に言うと面倒なことになりそうだが、嘘をつく理由もない。
「ユウ。スキルは……一応、魔法が全部使えます。剣もそれなりに」
エリスは書類にペンを走らせながら「ふーん」と相槌を打った。
そして固まった。
「……ちょっと待って。全部、って言った?」
「はい」
「火も水も土も風も?」
「全部です。闇と光も含めて八属性」
エリスはゆっくりと顔を上げた。それから遊をじっと見た。
遊は普通の顔をしていた。嘘をついている感じでも、盛っている感じでもない。
「……鑑定、受けてくれる?」
「構いません」
鑑定室に連れて行かれた。
小さな部屋に、水晶球が一つ置いてある。その前に、白衣を纏った老魔導士が座っていた。
エリスが耳打ちすると、老魔導士は「また新人の嘘自慢か」という顔をしたが、「一応やってみましょう」と水晶球の前に遊を促した。
「手を当ててください。本当のスキルが表示されます」
遊は言われた通り、水晶球に右手を乗せた。
球は一瞬、沈黙した。
そして──爆発するように、七色に輝いた。
光が部屋中に満ちた。老魔導士が椅子から立ち上がり、その拍子に杖を取り落とした。エリスが息を呑んだ。
球の光が収まったあと、空中に文字が浮かんだ。
全魔法適性。剣術神域。無限再生。神の加護──
「……」
老魔導士は長い沈黙のあと、震える声で言った。
「二属性で天才、三属性で伝説扱いです。しかし……これは」
「記録にないですか」
「百年分の記録を見ても、存在しません」
遊は「そうですか」と言った。
エリスはしばらく遊を見て、それからため息をついた。笑っているような、困っているような顔だった。
「……あんた、何者?」
「ただのゲームオタクです」
「意味がわからない」
「私もよくわかってないです」
エリスはもう一度ため息をついて、書類を取り出した。
「わかった。ランクは仮Cでスタートにする。本来Gからなんだけど、どうせすぐ上がるから」
「助かります」
「条件がある。しばらくは私が担当になる。変なことしたらちゃんと報告すること。いい?」
「変なことって具体的に?」
「街を壊すとか、国を滅ぼすとか」
遊は真顔で頷いた。
「それはしないです」
「……絶対?」
「絶対です。面倒くさいので」
エリスはまた何とも言えない顔をしたが、了承のスタンプを書類に押した。
こうして遊の、この世界での生活が始まった




