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廃人ゲーマー、異世界のラスボスを秒で倒す  作者: 大輔
王都への道

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第八話 貴族の訪問、あるいは面倒の始まり

ギルドに戻ると、受付の女性が少し困った顔でユウを待っていた。


「お客様がいらっしゃっています。ユウさんをお訪ねで」


「私をですか」


「はい。……貴族の方です」


ユウは少し考えた。リオンが言っていた通りになった。情報が早い。


「わかりました」


応接室に通された。


待っていたのは、四十代とおぼしき男だった。濃紺の上着に金の刺繍。背筋が伸びていて、座り方が作られている。貴族としての振る舞いを体に染み込ませている人間の姿勢だ。隣に若い従者が立っていた。


男がユウを見た。


「君がユウ殿か。Aランク冒険者の」


「そうです」


「私はヴァルク・セドラン。王都西区を治める辺境伯の家の者だ」


辺境伯。貴族の中でも上位の爵位だ。ユウには貴族の序列についての深い知識はないが、上の方だということはわかった。


「座ってくれ」


「立ったままで大丈夫です」


ヴァルクが少し眉を上げた。貴族に対してそういう返答をする冒険者は少ないのかもしれない。ただ、怒った様子はなかった。むしろ、わずかに口元が動いた。


「率直な人だ。それは好ましい」


「ありがとうございます」


「早速だが、魔力異常について情報をお持ちだと聞いた。街道沿いで複数の井戸を確認したとのことだが」


「昨日報告した内容であれば、ギルドを通していただければ」


「もちろんそうする。ただ、直接話を聞けるなら、その方が早い」ヴァルクが少し前のめりになった。「我が家の屋敷の近くでも、魔力汚染の兆候が出ている。昨夜の東区の件もそうだが、西区でも先週から犬や猫の様子がおかしい。家人が不安がっている」


「それはギルドに」


「ギルドは動きが遅い。政治的な配慮が入るから、決断が遅くなる」ヴァルクが率直に言った。「君は独立した冒険者だ。ギルドとも繋がっているが、特定の組織の縛りを受けない。そういう人間に動いてもらいたい」


ユウは少し考えた。


言っていることは理解できる。ギルドが政治的な配慮で動きを制限される場面は、ゲームでも何度もあった。独立した冒険者が動く意味は、確かにある。


ただ。


「私はすでにギルドマスターから依頼を受けています。その調査の中で西区の情報も扱える可能性はありますが、私が貴族の依頼を直接受けることで、ギルドの動きに支障が出るかもしれません」


「……慎重だな」


「損得より順番の問題です」


ヴァルクが従者と目を合わせた。それから、少し考える様子を見せてから言った。


「では、ギルドマスターに話を通した上で、情報共有という形はどうか。依頼ではなく、情報提供の協力として。金は出す」


「リオンさんに確認してからでないと、返答できません」


「それで構わない」ヴァルクが立ち上がった。「話が早くて助かる。こちらの連絡先を渡しておこう」


従者が名刺のようなものを差し出した。ユウは受け取って、手帳に挟んだ。


「もうひとつだけ聞いてもいいか」


ヴァルクが立ち去り際に振り向いた。


「君は、魔王についてどう思う」


ユウは答える前に、相手の目を見た。探っている目ではなかった。純粋に、どう考えているか知りたいという目だった。


「今の段階では情報が少なすぎて、何も言えないです」


「そうか」ヴァルクが小さく笑った。「正直な人だ」


「たぶん」


ヴァルクが部屋を出た。従者が軽く頭を下げてから続いた。



廊下でリオンが待っていた。


どこかで見ていたらしい。腕を組んで壁に寄りかかっていた。


「うまく対応した」


「そうですか」


「ヴァルクは悪い人間じゃないが、情報を集めるのが好きな男だ。あそこで依頼を即答していたら、後が面倒になっていた」


「面倒になるのが嫌なので」


「そうか」リオンが歩き出した。「ヴァルクとの情報共有については、俺から話を通しておく。お前は気にしなくていい」


「ありがとうございます」


「ただし」リオンが少し声のトーンを落とした。「お前の名前が貴族の間で広がり始めている。Aランクで若くて、魔力異常の情報を持ってきた冒険者。興味を持つ家はヴァルクだけじゃない。しばらく、余計な接触には気をつけろ」


「全員にヴァルクと同じ対応をすれば大丈夫ですか」


リオンがわずかに間を置いた。


「……たぶんな」


「たぶん」をリオンから聞くのは初めてだった。それが少し意外で、ユウは何も言わなかった。



宿に戻ったのは昼過ぎだった。


食堂で昼飯を食べながら、今日起きたことを整理した。


魔法陣の存在。百年以上前の仕掛け。王都を囲む円形の配置。貴族が動き始めている。魔王の噂。そして、自分の名前が広がっている。


情報量が増えた。でも、まだ核心には届いていない。


ゲームで言えば、メインクエストの序盤から中盤に差し掛かったくらいだ。情報が出揃い始めて、本当の問題の輪郭が見えてくる段階。ここからが面白くなる。


(面白い)


その感想が自然に出てきたことに、ユウは少し驚いた。


前世でゲームをしていたときの感覚に近い。でも、それより少し温度が高い。画面の向こうの話ではなく、自分が中にいる。


(バグか)


今度は自己診断を途中でやめた。


原因を探すより、先に進む方が性に合っていた。スープを飲み干して、手帳を開いた。書くべきことが、また増えていた。



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