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廃人ゲーマー、異世界のラスボスを秒で倒す  作者: 大輔
王都への道

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第六話 王都の夜、噂の重さ

ギルドの提携宿は、大通りから一本入った路地にあった。


『銀の燭台亭』という名前で、外観は地味だが中は清潔だった。一階が食堂兼酒場、二階と三階が客室。受付でリオンの封筒を渡すと、主人が中を確認して「長期部屋でよろしいですか」と聞いた。長期部屋は少し広く、机と棚がついている。値段は通常の七割。


「はい」と答えて、鍵を受け取った。


部屋は三階の端だった。窓から王都の街並みが見える。屋根が続いて、その向こうに白い尖塔。夕暮れの光が石畳に反射していた。


荷物を置いて、一階に降りた。飯を食う前に、周囲の情報を集めておきたかった。酒場は情報が集まりやすい。前世のゲームでも、酒場のNPCは重要な情報源だった。


食堂はそこそこ賑わっていた。冒険者らしき客が数人、商人風の男が二人、地元の住人とおぼしき老人がひとり。ユウは端のテーブルに座り、シチューとパンを注文した。


隣のテーブルの冒険者二人組が、声を潜めて話していた。



「また出たらしいぞ、東区の近くで」


「魔力汚染か?」


「らしい。犬が三頭、目が濁って暴れたって話だ。住人が怪我した」


「東区って、貴族の屋敷が多いとこじゃないか。面倒なことになるな」


「もう面倒になってる。ギルドに正式な調査依頼が来たって話だ。でも誰も手を挙げないらしい」


「そりゃそうだ。原因不明の魔力異常だろ。何が出るかわからない依頼なんて、割に合わない」



ユウはシチューをすくいながら聞いていた。


東区。さっきトバスが「妻の実家がある」と言っていた区画だ。貴族の屋敷が多いということは、政治的に敏感な場所でもある。そこで魔力汚染が出始めているなら、ギルドだけの問題では済まなくなってくる。


もう一方のテーブルでは、商人風の男たちが話していた。



「王都に勇者が来るって話、聞いたか」


「また噂か。何度目だ」


「今度は本当らしい。神殿の方から話が出てるって聞いた」


「神殿が動いてるなら本気か。でも勇者なんて、ここ数十年出てないだろう」


「そうだな。魔王が動いてるって話もあるし、タイミングとしてはおかしくない」



ユウの手が一瞬止まった。


魔王。


その単語は、この世界に来てから初めて聞いた。ゲームで言えば、ラスボスに相当する存在だ。チュートリアルを終えてフィールドを歩き回っている段階で、ようやくラスボスの名前が出てきた。


(序盤から出るには少し早いな)


そう思ってから、ここがゲームではないことを改めて認識した。早いも遅いもない。世界は自分のペースで動いている。


「魔王って、今どこにいるんですか」


気づいたら口に出していた。


商人の男二人がこちらを向いた。ユウは少し間を置いてから「すみません、聞こえてしまって」と付け加えた。


男たちは顔を見合わせてから、片方が答えた。


「わからんよ。北の方だって話もあるし、もう王都に近いって話もある。どれが本当かは誰も知らない」


「そうですか」


「冒険者か。若いな」


「Aランクです」


男たちがまた顔を見合わせた。今度は少し驚いた顔だった。


「若くてAランクか。じゃあそのうち魔王討伐に駆り出されるかもな」片方が笑いながら言った。冗談のつもりらしい。


ユウは笑わなかった。


「そうですか」と答えた。



夜が深くなって、食堂の客が減ってきたころ、ユウは部屋に戻った。


机に手帳を広げて、今日集めた情報を整理した。


魔力汚染の範囲が広がっている。東区まで到達しているなら、発生源は王都に近い場所にある可能性がある。あるいは、複数の発生源が点在していて、それぞれが少しずつ漏れ出している。


井戸の構造物。


それが鍵かもしれない。古い井戸が街道沿いに点在していて、その底に何かある。人工的な構造物なら、誰かが作ったものだ。いつ、何のために作られたのか。


そして、魔王。


ユウは少し考えた。魔力異常と魔王の関係は、今の段階では不明だ。繋がっているかもしれないし、別の問題かもしれない。情報が少なすぎる。


(明日、リオンに聞いてみるか)


手帳を閉じて、窓の外を見た。


王都の夜は明るかった。街灯の魔道具が通りを照らしていて、人通りはまだある。眠らない街だ。前世では部屋の窓から見下ろすのはいつも同じ景色だったが、ここは毎日少しずつ違う顔を見せる。


(悪くない)


いつの間にかそれが口癖になりつつあった。


ユウは窓を閉めて、ベッドに横になった。天井を見ながら、魔王という単語を頭の中で転がした。ラスボス。最終目標。ゲームなら最後に戦う相手だ。


でも今は、それより目の前の井戸の方が気になっていた。


順番通りに進める。それが、長年のゲームで染み付いた習性だった。



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