ステータスがおかしい
目を開けると、森だった。
青い空。木漏れ日。足元に柔らかな草。風が吹いて、木の葉がさらさらと揺れている。
鳥の鳴き声がする。どこかで川の音もする。
遊は仰向けのまましばらく空を眺めて、それから起き上がった。
「転生、成功か」
感慨はなかった。「新しいフィールドに来た」という感覚に近い。
体を確認する。身長が少し伸びた気がする。体つきも引き締まっている。顔は触ってみても変化がよくわからなかったが、転生前に神様が「見た目も整えておいたよ」と言っていたので、たぶん悪くはなっていないだろう。
「ステータス、オープン」
神様から教わった呪文を呟くと、半透明のウィンドウが目の前に現れた。
遊は無表情のまま、それを読んだ。
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【ステータス】
名前 :田所 遊(異世界名:ユウ)
年齢 :17(転生時)
職業 :勇者(★★★★★)
HP :999,999 / 999,999
MP :999,999 / 999,999
攻撃力:99,999
防御力:99,999
魔力 :99,999
速度 :99,999
【スキル】
・全魔法適性(全8属性)
・剣術:神域
・無限再生(致死ダメージ無効)
・言語理解(全言語自動習得)
・気配遮断:極
・神の加護(常時発動)
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遊は三秒ほど無言でウィンドウを見つめた。
「……神様、やりすぎでは」
返事はなかった。風が吹いて、まるで笑っているようだった。
全魔法適性。剣術神域。無限再生。数値は全部カンスト。
MMORPGで言えば、最強装備を全て揃えたキャラクターをニューゲームで始める状態だ。
序盤のフィールドにこれで乗り込む。そのシュールさを想像して、遊はふっと息をついた。
「……まあ、いいか」
不満はなかった。
強いならそれでいい。どうせゲームをするなら最強のほうが楽しい──遊はそういう人間だった。
ウィンドウを閉じて、立ち上がって、歩き始めた。
木々の隙間から、遠くに街が見える。石造りの建物。煙突から上がる煙。
(あそこが最初のフィールドか)
遊は特に急ぐでもなく、森の中を歩き出した。
歩き始めて五分もしないうちに、魔物が出た。
オオカミより一回り大きい、黒い体毛の獣だ。黄色い目が遊を捉えて、低く唸った。
遊は足を止めて、相手を眺めた。
敵意はある。ただ、何かを測るように動かない。
(ゲームで言えばエンカウント、か。でも)
遊が視線を向けた瞬間、獣の動きが止まった。
全身がぶるりと震えて、それから──ゆっくりと、地面に伏せた。
尻尾が小さく揺れている。
「……降参?」
遊は首を傾げた。獣は顔を上げないまま、小刻みに震えている。まるで巨大な何かの前に立っているような、そういう震え方だった。
(神の加護、ってスキルのせいか?)
後でちゃんと調べようと思いながら、遊は獣の横を素通りした。
獣はずっと伏せたまま、遊が完全に見えなくなるまで動かなかった。




