表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃人ゲーマー、異世界のラスボスを秒で倒す  作者: 大輔
王都への道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/23

第五話 白刃と封筒

扉の向こうは、思ったより静かだった。


広い執務室。窓から王都の街並みが見える。棚には分厚い書類の束が並んでいて、机の上にも書類が積まれていた。整理されているが、量が多い。よく使われている部屋だとわかる。


机の前に人が立っていた。


二十代後半、といったところか。長身で、白に近い銀髪を後ろで束ねている。服装は質素だが、姿勢が良い。目が鋭い。値踏みでも警戒でもなく、ただ純粋に観察している目だ。


ユウはその人物を見て、直感的に思った。


(強い)


スキルの感知ではない。もっと単純な、動物的な察知。この世界に来てから感じたことのない種類の圧力が、部屋の中に薄く漂っていた。


「グレンの紹介か」


声は低く、淡々としていた。


「はい」とユウは答えた。「ユウといいます。Aランク冒険者です」


「リオンだ」


それだけ言って、男は手を出した。封筒を求めているらしい。ユウは鞄から取り出して渡した。リオンは封を切り、中の手紙を広げた。


読む速度が速い。視線が文面を滑るように動いて、十秒もしないうちに手紙を置いた。


「グレンが直筆で紹介状を書くのは珍しい」


「そうなんですか」


「滅多にない。あの男が筆を取るときは、よほどのことだ」リオンがユウを見た。「北の街でSランクの魔物を単独で討伐したと書いてある。深淵鬼だ」


「はい」


「本当か」


「嘘をつく理由がないので」


リオンが少しだけ目を細めた。怒ったわけではないらしい。何かを測っているような間だった。


「魔力異常の報告もあると聞いた」


「街道沿いで二箇所、古い井戸から魔力が漏れているのを確認しました。一箇所は北の廃村の近く、もう一箇所は王都から三日ほどの距離の林の中です。魔力汚染種の目撃もあります」


ユウは手帳を取り出して、メモしていた場所と状況を読み上げた。リオンは黙って聞いていた。途中で手元の紙にいくつか書き留めている。


「井戸の底に構造物の感触があった」とユウは付け加えた。「自然の井戸ではないかもしれません」


リオンの手が止まった。


「構造物? どう確認した」


「風魔法で空気を送り込んで、反響を見ました。確証はないですが、石か金属の何かがある感触でした」


「……深さは」


「かなり深いです。反響が戻るまでに時間がかかりました。十メートル以上はあると思います」


リオンは少しの間、窓の外を見た。何かを考えているらしかった。ユウは黙って待った。


「魔力汚染種の変異具合はどの程度だった」


「鱗の黒変と目の充血。動きは鈍かったです。初期段階だと思います」


「初期、か」リオンが小さく息を吐いた。「それが救いだな」


「広がっているということですか」


「可能性がある。王都周辺でも似たような報告が出始めている。規模はまだ小さいが、出所がわからない」


ユウは少し考えた。


「根が繋がっているかもしれないです。廃村の井戸と、街道の井戸と、王都周辺の異常。点ではなく、線か面で考えた方がいいかもしれない」


リオンがユウを見た。今度は少し違う目だった。


「冒険者にしては、分析が早いな」


「ゲーム……習性です」


「ゲーム?」


「なんでもないです」


リオンは一瞬間を置いてから、それ以上追及しなかった。



転入登録の手続きは、リオンが直接担当者に指示を出して、その場で進めた。


ランクの引き継ぎ確認、戦績の照合、新しい認識票の発行。通常なら数日かかる手続きが、一時間ほどで終わった。


新しい認識票を受け取りながら、ユウは思った。権限を持っている人間が動くと早い。ゲームで言えば、運営が直接バグ修正をするようなものだ。


「しばらく王都に滞在するか」とリオンが聞いた。


「しばらくは、はい」


「なら、魔力異常の調査に協力してもらえるか。報酬は出す。Aランク依頼扱いにする」


ユウは少し考えた。


断る理由がない。むしろ、根本原因が気になっていた。廃村の井戸の件は解決していない。繋がっているなら、調べる価値がある。


「わかりました」


「決断が早いな」


「考えることがなかったので」


リオンがまた少し目を細めた。今度は、かすかに表情が動いた気がした。笑ったわけではないが、笑いに近い何かだったかもしれない。


「宿はどこだ」


「まだ決めてないです」


「ギルドの提携宿がある。紹介しよう。長期滞在なら割が良い」


「ありがとうございます」


リオンが書類に何か書いて、受付に向けて封をした小さな封筒を用意した。ユウは二度目の封筒を受け取った。今日だけで二本目だ。


「明日の朝、もう一度ここへ来てくれ。調査の詳細を話す」


「わかりました」


「あと」とリオンが付け加えた。「グレンによろしく伝えておいてくれ。手紙を書くのが億劫な男だから、口頭で構わない」


「次に会ったときに、たぶん」


リオンは何も言わなかった。ただ、小さくうなずいた。



ギルドを出ると、王都の午後の日差しが強かった。


大通りに人が溢れている。どこかで鐘が鳴った。宿を探して、飯を食って、明日に備える。やることは単純だ。


ユウは歩き出しながら、リオンのことを考えた。


強い。それは間違いない。ただ、それ以上に、頭が動く人間だという印象があった。情報の整理が速く、判断が早い。感情で動かない。


(似てるかもしれない)


そう思ってから、少し違和感を覚えた。


自分と似ている人間を見て、何かを感じるということ自体が、以前はなかったことだ。


(……またバグか)


四度目の自己診断。原因不明のまま、ユウは宿に向けて歩き続けた。王都の石畳は、前の街より少し硬い音がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ