表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃人ゲーマー、異世界のラスボスを秒で倒す  作者: 大輔
王都への道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/23

第一話 旅の始まり、あるいは何も考えていない男の朝

朝靄の中、ユウは街の南門をくぐった。


背負っているのは冒険者用の革鞄ひとつ。着替えが三日分と、干し肉と堅パンが少々。あとはポーチの中に金貨が数枚と、グレンからもらった封筒が一通。


荷物が少ないのは深く考えた結果ではなく、単純に「必要なものしか持たない」という前世からの習性だ。ゲームキャラクターのインベントリは容量有限。無駄なものを詰め込むのは下手なプレイヤーのやることだと、十年以上の経験が告げていた。


もっとも、今の自分に「容量」という概念はほぼ存在しないのだが。


「王都まで約五日、か」


ギルドでもらった地図を広げる。街道は整備されていて、途中に宿場町がふたつ。魔物の出没頻度は「中程度」と記されている。Aランク冒険者にとっては、ほぼ観光ルートに等しい。


ユウは地図を折りたたんで鞄に戻し、歩き出した。


特に感慨はなかった。


前の街での出来事を振り返ったり、これからのことを不安に思ったりという感情が、そもそも薄い。ゲームで言えば「次のフィールドへ移動する」程度の感覚だ。ただ、ひとつだけ頭の片隅に引っかかっているものがあった。


――また来る?


別れ際にエリスが言った言葉。あのとき自分は「たぶん」と答えた。嘘ではない。本当に「たぶん」だった。戻る理由があれば戻るし、なければ戻らない。それだけのことだ。


なのになぜか、その「たぶん」が少しだけ重かった。


(……バグか)


自己診断してみたが、原因不明。ユウは思考を打ち切って街道に視線を戻した。


朝の街道は人の往来が少なく、歩きやすかった。


三十分ほど進んだところで、ユウのスキル「気配遮断極」が周囲の情報を静かに拾い始めた。といっても、脅威らしい気配はない。鳥の羽ばたき、草むらを駆けるなにか小さな生き物、それから――


「……人が、三人」


街道から少し外れた林の中。隠れているつもりらしいが、気配遮断極の前では丸見えだ。殺意はない。ただ、じっとこちらを窺っている。


追いはぎにしては静かすぎる。


ユウは歩調を変えずに進みながら、軽く周囲を分析した。三人の体格は大人ひとりと子供ふたり。武器らしき金属の気配はあるが、構えていない。


(逃げてる側、か。たぶん)


立ち止まって、林の方向に声をかけた。


「隠れなくていいですよ。通り過ぎるだけなので」


しばらく沈黙。


それからがさりと葉が揺れて、男が出てきた。年齢は三十代後半。肩に擦り傷、服に泥。目が充血している。後ろに子供が二人、男の子と女の子。どちらも十歳前後で、怯えた目でユウを見ていた。


「……冒険者か」


男がユウの腰のベルトを見た。剣が下がっている。ギルドの認識票も見えていたはずだ。


「そうです」


「追われてる。馬車ごと荷物を奪われて、妻は……」


男の声が途切れた。


ユウは一秒待った。続きは来なかった。


「わかりました」とユウは言った。「追ってきた連中は今どこですか」


「街道の一本東、たぶんまだ野営してる。四人組で、剣を持ってた」


「そうですか」


ユウは地図を頭の中で展開した。一本東の道。距離にして三百メートルほど。


「少し待っててください。すぐ戻ります」


男が目を丸くする前に、ユウはすでに歩き出していた。


野営地はすぐ見つかった。


焚き火の跡と、散らばった荷物。馬車の残骸。四人の男たちが地面に座って酒を飲んでいた。略奪品を広げて笑い合っている。


ユウは気配遮断極を切った。


四人が一斉にこちらを向いた。


「あ? なんだてめえ」


「冒険者です」とユウは答えた。「その荷物、返してもらえますか」


男たちは顔を見合わせてから、笑い出した。


「一人で来たのか、ガキが」「度胸だけはあるな」「いい剣持ってるじゃねえか、それも置いてけ」


四人が立ち上がり、剣を抜いた。


ユウはため息をついた。ため息、というより、単純に息を吐いただけだったが。


「理由がないと動けないタイプなので、一応聞きますけど」


一歩踏み出す。


「返す気はないですか」


「あるわけねえだろ」


「そうですか」


次の瞬間、四人は全員地面に倒れていた。


ユウは剣を抜いていない。ただ、それぞれの首の後ろを正確に打っただけだ。死んではいない。しばらく起きないだけ。


散らばった荷物をひとまとめにして、ユウは野営地を後にした。


男は荷物を受け取って、しばらく黙っていた。


子供たちは荷物の中から毛布を引っ張り出して、ぎゅっと抱きしめていた。


「……礼を言う」男がようやく口を開いた。「名前を聞いていいか」


「ユウです」


「どこへ向かってる」


「王都」


男はまた黙った。それから、少し迷うような顔をして言った。


「俺たちも王都へ行く予定だった。妻の実家がある。……よければ、一緒に歩いてもらえないか。子供たちが怖がっていて」


ユウは子供たちを見た。女の子の方が、おずおずとこちらを見上げていた。泣いた跡が残っている。


「わかりました」


理由はある。それで十分だった。


四人は街道に戻り、王都へ向けて歩き始めた。


子供たちの足音が、朝の街道に小さく響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ