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廃人ゲーマー、異世界のラスボスを秒で倒す  作者: 大輔
転生の始まり

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12/23

第十二話 グレンの依頼】

 ラドの支援申請が通ったのは、盗賊の件から五日後だった。


 エリスが直接上に話を通したこともあり、通常三ヶ月かかるところを二週間以内に物資が届く手配になったという。遊はそれを「よかった」と思ったが、特に表には出さなかった。


 その日の午後、グレンに呼ばれた。


 二階の部屋に入ると、グレンは地図を広げた机の前に立っていた。今日は表情がいつもより固い。


「座れ」


 遊は座った。


「一つ、頼みたいことがある」


「依頼ですか」


「正式な依頼ではない。ギルドマスターとして個人的に頼む話だ」


 グレンが地図の一点を指で叩いた。街から北東に三日ほど行った場所に、小さな印がついていた。


「ここに廃村がある。十年前まで人が住んでいたが、魔物の大量発生で全員避難した。それ以来、手つかずになっている」


「はい」


「最近、その廃村の周辺で魔物の動きが異常になっている。偵察に行ったCランクの二人組が帰ってこなかった」


 遊は地図を見た。廃村の周辺には森が広がっていて、街道からも外れている。


「帰ってこなかった、というのは」


「生死不明だ。最悪の場合も想定している」


「なぜ正式な依頼にしないんですか」


 グレンが少し間を置いた。


「状況がわからないうちに依頼を出すと、腕に覚えのある冒険者が大勢向かって、被害が広がる可能性がある。まず一人で実態を掴んでほしい。お前なら単独でも危険は少ないと判断した」


 遊は地図をもう一度見た。


「偵察だけですか」


「偵察が主だ。ただ、消えた二人を見つけられるなら保護してほしい。戦闘は状況次第で判断してくれ」


「わかりました」


「断っても構わない。これは命令じゃない」


「行きます」


 グレンは遊を見た。


「理由を聞いていいか」


「帰ってこなかった二人が気になります。それと、状況不明のままにしておく方が気持ち悪いので」


 グレンは低く笑った。


「お前らしい理由だ」


「褒めてますか」


「褒めてる」


 遊は明日の朝に出発することにして、部屋を出た。



 夜、宿屋の部屋で遊は荷物を確認した。


 水と食料を三日分。着替えは最小限。武器はナイフだけ。魔法が使えるので、装備に重さをかける必要はない。


 準備を終えて、寝台に横になった。


 天井を見ながら、今日で転生してから何日経ったか数えた。三週間と少し。引きこもりだった頃と比べると、毎日誰かと話して、毎日どこかへ出かけている。


(慣れてきた)


 この世界のことが、少しずつわかってきた。魔物の種類、街のルール、人の動き方。ゲームで言えばチュートリアルが終わって、メインフィールドに出る手前くらいの感覚だ。


 偵察の依頼が、その区切りになる気がした。


 遊は目を閉じた。眠りは早かった。



 翌朝、出発する前にエリスに声をかけた。


「北東の廃村に行ってきます」


 エリスが手を止めた。


「グレンさんから話、聞いた?」


「はい」


「……気をつけて」


 いつもより声が真剣だった。


「消えた二人のこと、気にしてるんですか」


「ダリルとサラって言って、うちのギルドに登録してる冒険者だよ。Cランクで、まだ若い。十七と十八だ」


 遊と同い年か、一つ上だった。


「できるだけ見つけます」


「できるだけじゃなくて、絶対に」


 エリスが遊をまっすぐ見た。珍しく、強い目だった。


「わかりました」


 遊は言い直した。エリスが少し表情を和らげた。


「あと、自分も無事で帰ること。それが第一条件だから」


「はい」


 遊はギルドを出た。


 朝の石畳はまだ人が少なく、静かだった。北東の方角に向けて歩き始めながら、遊は頭の中で地図を広げた。


 三日の道のりで、状況不明の廃村。消えた二人。異常な魔物の動き。


 情報が少ない。だからこそ、慎重に進む必要があった。


 遊にとってそれは、難易度の高いダンジョンに踏み込む前の、あの緊張感に似ていた。嫌な感覚ではなかった。


 むしろ、少し楽しみだった。


 それが自分でも意外で、遊は少しだけ歩く速度を上げた。

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