神様、ミスをする
【第一話 廃人の死に様】
田所 遊が死んだのは、レイドボス第三形態の体力バーが残り2%になった瞬間だった。
享年二十二歳。死因は心臓発作。
三日間、水とエナジードリンクだけで生きながらMMORPG『エターナル・クロニクル』の最終ダンジョンに挑み続けた結果だった。
遊の最後の記憶は、画面の前で崩れ落ちながら思ったことだ。
(あと2%だったのに)
悔しさより、その事実だけがあった。
目を開けると、白だった。
床も、天井も、壁も、空気さえも。光でできた空間の中で遊はぼんやりと自分の手を眺めた。
「……ロード画面?」
「違うよ」
声がした。振り返ると、白いローブを纏った老人が立っていた。長い白髭、穏やかな目。だがその瞳の奥には、宇宙みたいな何かが渦巻いていた。
「死後の世界だよ、田所遊くん」
「ああ」
遊はそれだけ言った。
死んだことを認識して、少し考えて、『エターナル・クロニクル』のデータは消えないと気づいて、安心した。
「……普通もっと動揺するんだけどね」
「ゲームでも死んだらリスポーンするじゃないですか。なんとなくそういうもんかと」
老人は額に手を当てて目を閉じた。神様特有の「こいつは……」という顔だった。
老人は気を取り直して、単刀直入に話し始めた。
「君に謝らなければならないことがある。君の死は、本来起こるはずがなかった」
「というと?」
「私の管理ミスで、ある人間の寿命の糸が一本狂ってしまった。その余波が君に届いてしまったんだ。要するに……巻き添えだよ」
遊はしばらく無言だった。
神様のミスで死んだ。普通なら激怒するか泣き崩れるかするところだろう。
「まあ、いいですよ」
「……よくないよ?」
「どうせ引きこもりで、ゲームしかしてなかったんで。人生に執着はあんまり。それより詫びがあるなら聞きますけど」
老人はまた額に手を当てた。それから深呼吸して、言った。
「異世界への転生を提案しよう。チートスキルつきで」
「ゲームみたいな世界ですか?」
「剣と魔法のファンタジーだ」
遊は一秒だけ考えた。
「やります」
即決だった。




