砂漠の国の神子様騒動
かつて、余所者の神が手駒の聖女を使って勝手に世界を良くしようとした。神の御使であり、己が権力を持つ人間であると認識した聖女たちはそれはもう好き放題に行動した。
傲慢に振る舞い、強欲に奪い、色欲に濡れ、怠惰になった。そのくせそれを指摘されると怒り、憤怒の形相で喚き散らかし、暴食を貪る。聖女とは程遠い、まさに悪魔と言うべき者と変化した。
この砂漠の国の王子が愛する妃は、そんな悪魔の被害者だった。たおやかでこの国では珍しい金の髪、美しい白い肌。綺麗なものを愛する王子が惚れ込むのも無理はなかった。追放されてきた彼女を慈しみ、口説き、彼女以外の妃はいらないと宣言するほど入れ込んだ。
そんな愛する妃のところに神子様は現れてしまった。神子様からしてみれば、掘って出た先がそこだと言うのだから災難だが、妃は神子様を見た後悲鳴を上げて倒れた。その声を聞きつけた王子が怒り、神子様を牢屋に入れようとした。妃に仕えていた侍女の1人が神子様であることに気がつき、担ぎ上げて神殿まで走っていなければ危うく処刑されていただろう。
神子様の御髪と眼は金と見間違えるほど眩い黄色。小麦色の肌と相まって国で愛される太陽の花を表すようなお姿。この国に伝わる神子の伝承に描かれた姿と同じ姿であった。……ただ、お顔が妃を追放した悪魔とよく似ていたらしい。
神子様は即座に神殿によって保護されたが、王子は納得がいかず神殿に兵を率いてやってくる始末。さてどうしたものかと神官たちが考えあぐねる中、神子様はなんてことないと言わんばかりに口を開いた。
「あたしさ、一応この国の王様とお話ししてきてねってととに頼まれてんの。連れてってくんね?」
口調が、軽い。そんなことを神官たちは思ったが、神殿長がドタバタと王へ取り次ぎのために動き始める。幸い騒ぎを聞いていた王の判断は素早く、すぐに王子を叱って武装を解かせた。
そして謁見の間は微妙な気配に包まれた。神子様は王の前でも平常心、件の王子は今にも射殺さんばかりの眼光で神子様を睨みつけ、そんな王子の後ろに妃が隠れて見ていた。隠れるんだったら来るなよと神官たちは思ったが、悲しいかなそう言うことは許されない。微妙な空気の中、神子様が口を開いた。
「あんね、おーさま。あたし、ととからこの辺の魔力が乱れてるから直しておいでって言われてんの」
あまりにも軽い口調に、近衛騎士が剣に手をかけた。王は軽く手を上げて近衛騎士を制す。
「んでもねー、原因1発でわかるわ。そこの人!」
びしりと神子様が指を指した先には――妃。王子の顔がどんどん恐ろしいものへと変化していく。妃は泣きそうになっており、異常な殺気が謁見の間を満たしていく。
「は? なんであたしそんな目向けらんなきゃいけないの? あんたさっきっからずーーっと被害者ヅラしてんけど……ととに挨拶もしてないヤツがこの国の魔力乱してんの、わかってる? 認められてない魔力が長いことあるせいで乱れてんの。そんなこともわかんないの?」
その言葉に王子は動いた。剣を抜いて、一閃。神子様の首を刎ねんと振るったその剣は、即座に砂に変わって辺りに散らばった。そして。
「うちの子に何しやがるお前!」
美しい蹴りが王子自慢の顔面に炸裂する。神子様を守るように抱き抱え、同じ色の瞳を爛々と輝かせて王子を見下す。神官たちと王は一斉に跪き、騎士たちはその重圧に押し潰されるようにして地面に伏せる。
「とと!」
「ごめんなー俺が頼んだばっかりに!えーっと」
「ゴヨーの第一子のタキだよ、とと!まーた覚えるの忘れてる」
「いやーすまんすまん、うちの子は覚えられないぐらいいるからな!」
あっけらかんと言ってみせるのは曲がりなりにも神である、四大元素の一角を担う土男神様。この国の祭神だ。
「で、王ってどれ?」
「わ、私にございます。我らが土男神様」
恐る恐る王が手をあげれば、強烈な重圧が和らいでいく。皆がゆっくりと顔をあげ、御尊顔を拝謁する。土男神様は首を傾げると、すぐに笑顔に変わった。
「うんうん! お前は覚えているぞ! ちゃぁんと手順を踏んで俺に嫁を見せて子供も見せたヤツだ! 偉いぞ偉いぞ!」
それに比べて、と土男神は王子と妃の方を見る。2人は重圧に耐えられなかったのか、いまだに伏せっており顔を上げられていない。土男神様は大きなため息をつきながら神子様を撫でた。
「お前はダメだ。嫁御を手に入れたのにきちんと挨拶もしていない。ああ、嫁御の国のことは残念だが……風のがお気に入りに手を出されたと怒り狂っていたからもうないはずだ」
だが、と土男神様は続ける。
「俺はあまねく大地と共にある神だ。生まれ出る命も、死んで行く命も受け止めてやる。きちんと勉強をし直して挨拶に来ればちゃーんと許してやろう! ついでに魔力の乱れも直そう!」
「とと甘ーい」
「うん? 甘くはないぞ。罰としてしばらく砂ばかりになるが、備えはあるだろう? それじゃあ頑張るといい! 俺への敬意を忘れるなよ!」
そう言って土男神様が謁見の間から消えると、すぐさま砂嵐が宮殿ごと壊す勢いで襲いかかった。
◆
被害は甚大、されど備蓄はあるので国民は飢えない。王子と妃は神殿に強制的に連行され、今では神官見習いとしてビシバシ教育されているという。又聞きではあるが一応は許される雰囲気らしい。雰囲気だけだが。
「聖女って流行りだけどさー、聖なるものが正しいわけないじゃんねー」
「……あの、神子様。そうくっつかれると些か恥ずかしいのですが」
「んー、女同士だしいーんじゃない? あなたのことはととが気に入ってるみたいだし」
神子様はあの後ひょっこりと戻ってきたと思えば私と一緒に生活している。他の神官たちは皆土男神様の監視に怯えているが、どうやら土男神様は神子様に取り返しのつかない害を与えない限りは手を貸さないらしいので平和な日常を送れている。
「理不尽だけど、ととは四大元素神の中で一番優しいからねえ。あなたはちゃんとあたしを守ろうとしてくれたから取り立ててあげんねって言ってたよ」
「……それは、嬉しいですが」
「んふ、そしたらもっと一緒にいられんねえ」
ぐりぐりと神子様が頭を押し付けてくる。
土男神様の神殿は他の神殿と比べても家出してきた人が多い。そして迫害に悩む他種族が逃げ込むこともあり、ある意味暮らしやすいことで有名な神殿だ。
神子様の御母君もそうだったらしい。ご自分が望んだわけではない妊娠をして、土男神様の慈悲で神子様を産んだのだと神子様自身が言っておられた。なので自分には腹違いのきょうだいも種違いのきょうだいもたくさんいるのだと笑っていた。
「きょうだいたちは多すぎてわかんないし、人間の理に当てはめると全然親子じゃないんだけど、親子だからね。好きになる系統は一緒なんだ。頑張る子って、だーいすき!」
むふんと笑顔を見せる神子様にうっかり絆されそうになる。言動は少々子供染みているが、顔は本当に一級品なのだ。神子様の性別を超越した顔には本当に恐れ入る。
「あ、もしかして次代を紡げないとか心配してる? だいじょーぶ! ととに生やしてもらうから!」
前言撤回。誰か助けてください。
神官ちゃん→災難
神子様→お嫁さんみっけた!
土男神→お嫁さん見つけたか〜よかったな〜!
その他質問はあれば活動報告で答えます。




