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第4章:2
陽向は、彼女の腕からそっと手を離すと、何も言わずにその場を離れた。
クラスの誰かが「ありがとう!」と声をかけてきたけれど、彼はただ軽くうなずくだけだった。
彼女の視線がまだ自分に向けられているのを、背中で感じた。
けれど、振り返ることはなかった。
──なんで、助けたんだろうな。
自分でもよくわからなかった。
他人に興味を持たなくなって久しいのに、身体だけが勝手に動いていた。
教室に戻り、無言で自分の席に座る。
窓の外には、どこかで降り出しそうな曇り空。
陽向は目を伏せたまま、さっきの少女の顔を思い出す。
どこかで見たような気がする。けれど、思い出せない。
机にひじをつき、ぼんやりと窓の外を眺める。
胸の奥に、さっきの出来事が静かに残っていた。
──あの感覚、何だったんだろう。