第1章:2
陽向「もう大丈夫? どこか痛いところとかない?」
少女「……ありがとう、」
小さな声だった。だけど確かに笑ってた。
顔は伏せたままだけど、その声が嬉しそうだった。伏し目がちにそう言った彼女の指先が、そっと毛先をいじっていた。
小さな癖。それが、そのときの僕にはただの仕草にしか見えなかった。
陽向「あ、そうだ。これ――」
ポケットから、黄色いひまわりのピンを取り出す。さっきランドセルにくっつけていた飾りだ。
なんとなく、彼女に似合いそうだと思った。ただそれだけだったけど、なぜか強く渡したくなった。
陽向「これ、あげる。キミに似合いそうだし……お守り代わり?」
少女「……ひまわり?」
陽向「太陽みたいな花でしょ。元気になれる気がするんだよな、これ見てると」
少女は、ほんの一瞬目を見開いて、それから視線を落として笑った。
そのままそっと両手でピンを受け取り、ポケットに大事そうにしまった。
少女「ありがとう。大切にするね」
陽向「……えっと、名前、聞いてもいい?」
少女「だめ。秘密」
陽向「ええー、どうして?」
少女「いつか、また会えたら。そのときに教えてあげる」
陽向「また会えたら……?」
少女「うん。17日後。ここで、また会おう? きっと、来るよね?」
陽向「……うん。絶対に」
少女「ふふ、約束ね?」
彼女はそう言って、小さな小指を差し出した。陽向も、戸惑いながらもそれに応えた。
—あの約束が、僕の“17日間”を変えてしまうなんて、あのときはまだ知らなかった。
伏線を結構はってあります。