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1章「花の少女」
陽向は検査の帰り道。ふと曲がり角の先に、誰かがしゃがみ込んでいるのが見えた。
「……っ、う、ううっ……」
微かに聞こえる嗚咽と、喉を詰まらせるような呼吸音。
駆け寄ると、それは同じ歳くらいの女の子だった。
顔色が悪く、額には玉のような汗が浮かんでいる。
彼女の指先は細かく震え、肩も小刻みに揺れていた。
「大丈夫!? ねぇ、大丈夫!?」
返事はない。ただ苦しそうに胸を押さえながら、目をうっすらと開ける。
陽向は慌てて立ち上がり、ナースステーションの方へ駆け出す。
「誰か! 誰か来て!! 誰か倒れてる子がいる!!」
叫び声が廊下に響いた――
その時、彼女が落とした小さなキーホルダーが陽向の足元に転がった。
それは、花の形をした飾りだった。
彼はそれを拾い、手のひらに包み込む。
「すぐ戻るから…絶対、助けるから……!」