1/31
序章
名前を聞けば、
こんなに、思い出に変わらなかったのに。
病院の廊下で、あの子は倒れていた。
僕が走り寄ったのは──ただ、それだけだった。
「17日後に会おう」
そう言った君は、
……もう、いなかった。
教室の片隅で、ひっそりと涙をこぼす女子がいた。
誰も気づかないように、陽向はそっとその場所へ歩み寄る。
「大丈夫?」
優しい声が、静かに響いた。
女子は驚いたように顔を上げ、小さくうなずく。
「辛かったよね。」
その言葉に、女子の瞳がほんの少しだけ柔らかくなる。
「一人じゃないよ。」
陽向は無理に力強く言うのではなく、ただそっと隣に寄り添った。
教室の中で一番輝く彼の優しさが、静かに伝わる瞬間だった。
彼はこの物語の主人公、陽向文月。
彼の出会いと別れ、喪失、希望の物語。