第6話 【相生魔術・召晃奥】
降り頻る宝石林檎の魔獣を各々のやり方で滅しやり過ごす三人であったが、突如、宮廷魔術師は剣一本で暴れ続ける騎士に対してその手を伸ばし、とある要求をした。
「おい、騎士リンド・アルケイン。俺にその剣をよこせ」
「え、なんと? お望みであればいいですけど、それまで僕に丸腰でいろと! はははは、あいにく一介の騎士は宮廷暮らしのあなたより懐事情が厳しいので、余分を持ち合わせちゃいませんよ」
騎士リンドの腰元には鞘が一つ、そして片手に剣が一本。彼の持ち合わせはそれだけである。それ以上の余分な武器を彼は持たない変わった性分なのだ。
「チッ、無鉄砲なヤツめ(オーバーウェポンの長時間運用になるとはな。魔力集光し、発する散る鏡のフォトンパワーが落ちつつある。────私の運星まで、他者の凶兆に引っ張られたとでもいうのか)」
軽く舌打ちをした宮廷魔術師も、オーバーウェポン【散る鏡】しか持ってきていない。しかし、先ほど兎の棲むクリスタルツリーを倒した時に、誰かにオーバーウェポンを披露する如くか、必要以上に派手にやりすぎたようだ。それが仇となったのか、今、散る鏡の放つ魔光弾の威力・光量が落ちつつあると魔術師の男は察していた。それにこれほどの連戦、未知の大型魔獣に対しての長期運用は彼の慧眼をもってしても想定していなかったのだ。
「であればっ、お使いなされて!」
そんな騎士と魔術師のやり取りを盗み聞き横目に見ていたレイ・ミラージュは、魔獣と戦いつつもお困りの銀髪の男に対し、隙を見て、懐に隠していた短い物体を投げつけた。
回転し飛んできたそれを手に受け取った宮廷魔術師は、金の紋様を施されたその黒筒を開けた。そして、水の流れのように舞い、喰らおうと舌なめずりし襲ってきた宝石林檎の魔獣どもを軽やかな身のこなしで次々に斬り刻んだ。
「フム、切れ味はまずまずか」
宮廷魔術師は乱れてしまった銀髪を掻き上げながら、手元に握っていたミラーウェポンを見る。それは短刀であり、懐刀。レイ・ミラージュのもしものために隠し持っていた、金色の柳の紋様をされた黒鞘の懐刀であった。
この世では珍し気なウェポン。その短い刀のなかなかの切れ味を、また片手間に魔物を捌き確かめつつ、宮廷魔術師の男は念入りに興味深そうに見入っていた。
「当然マジックミ……じゃなくてっ! サブのミラーウェポンは持っておくものなので! そう何度も教えられていますからっ。──もちろん、オーバーウェポンよりはお気に召されないでしょうが!」
レイは強気にそう言った。役に立ったその懐刀のことを饒舌に語りかけたが、喉元寸前でこらえて。若干の皮肉混じりに、銀髪の男へと言い切った。
「フンッ────」
「言い返せないとはお珍しい。(お株を奪う、騎士顔負けの動きはやめてもらいたいが)」
騎士リンドも彼女の言葉に乗じて、いつもの返しの言葉が出てこなかった魔術師へと口を挟んだ。
「お前もサブとやらを持て」
それでも魔術師は騎士に対して忠告した。このような用意の良いサブのミラーウェポンを、剣一本ではなく、騎士のお前がちゃんと持っていれば良かったのだと言いたげに。
「ははは、ここを生きて帰れて、なおかつ、この剣が欠けていれば考えます」
「剣一本の向こう見ずのお前が、『生きて帰れて』だと」
「そういう日が今日だっただけですよ! ははは! じゃあそちらはお任せします! これ以上、あなたのような自由人の腕前を見ていると、ヤル気が削がれてしまうので!!」
騎士リンド・アルケインはそう短刀で華麗に林檎を刻みつづける魔術師に告げた。そして、剣を片手にマントをはためかせ、今指で高く指し示したターゲット、〝巨大なクリスタルタートル〟の鬱蒼と樹木茂る背中を目指し駆けていった。
(やはりお前は死ににいきたいのか、ミラーナイツ末席、いや、世界ガライヤの外……【魔境】の漂流者リンド・アルケイン)
魔術師はその緑のマントと、燃えていくようなオレンジ鮮やかに靡く髪の行く末を、訝しみ見ながらそう心中でつぶやいた。
「って、あの人はまた仕掛けたのですか!!」
「それがヤツだ。ここに行き場のないヤツの命の遣いようだ」
「命の……使いよう?」
レイ・ミラージュは、オレンジ髪の騎士が前のめりに突き進み起こす、赤い魔獣を散らす激しい剣風を目に据える。
同時に銀髪の男が静かにつぶやいた言葉に、どこか自分の懐で深く信条とする「あふれる冒険」とは異なる意味合いを、その見据える騎士の背に重ね、なぜか感じてしまった────────。
森の中で暴れ続けるオレンジの風は、いかに阻もうが止まらない。宝石林檎や青林檎、毒毒しい色合いの魔の果実でさえも、寄らば斬られる鋭い剣風に砕けゆく運命だ。
「騎士か木こりか分からないが。今日のリンド・アルケインはもしかすると、──尋常じゃないぞ! うおぉ!!」
木を薙ぎ倒していくのは騎士、剣士。飛び込み果敢に乗り込んだ巨大魔獣の背、甲羅の上に背負い込む魔のクリスタルの森の景色を蹂躙していく。剣に力を込め暴れ回る一陣のオレンジ風はもうその剣が折れるまで、止まりはしない。
そんな騎士の果敢な攻勢に乗じて、遠隔で魔術師の操るオーバーウェポン【散る鏡】は、巨大魔獣の腹へと潜り込み魔光弾を照射した。熱量を上げたビームが防御の薄い腹を斬るように焼き、首無しの巨大亀魔獣の唸り声が地にどよめいていく。
だが、そんな手応えにも魔術師の表情に笑みはない。垂れる頬の汗をローブの袖に拭いながら、遠く浮かぶ散る鏡に号令をかけ、自分の元へと戻していく。
(やはりミラーのフォトンパワーが落ちている。核となる邪気孕む破鏡がまだ見当たらんとなれば、この陸亀を屠るには魔力と時間がかかる。幾度か足を焼き切っても樹木のように根が束になり再生をするとなれば、それも直接のダメージにはならず賢いやり方ではない……。やはり、腹の中の供物が尽きる前に、〝アレ〟をやるしかあるまい────)
魔術師は周囲の林檎の魔獣と依然戯れているレイを見つけ、発するその声のボリュームをいつもより上げ、告げた。
「おい、ミラーウェポン屋のオンナ。しばらくこの身を任せたぞ。私はこれより散る鏡を集め、【相生の魔術】を行使するための瞑想に入る」
「はぁ!? ちょちょっ、何をおっしゃって……! いっ、いきなり任せるなど、大それた作戦があるとしても、まともな説明というものを!?」
「魔光弾を垂れ流すだけでない、あの亀を黙らす〝オーバーウェポンの真の使い方〟をお礼に見せてやるというのだ。それともこのままチマチマやりたいか。馬鹿げているな」
魔術師は、彼の魔力に呼応し金の柳揺れる黒鞘に納めた懐刀を前に突き出し、そう説明を求めたレイにまた告げる。
「お礼!? おっ、オーバーウェポンの真の……? その瞑想とは……どれぐらい」
お礼の意味はきっとその懐刀、彼女が貸し出し中のミラーウェポンのことだ。異様に金の柳の紋様が騒ぎ揺れ出した鞘の様を見て、レイは魔術師の言う〝瞑想〟に一体どれだけの集中を要するのか、心を落ち着かせ冷静に問うた。
「枝にとまった小鳥が嘴を囀り羽を休める程度の、ほんの少しの間だ。その間に内なる魔力を重ね練り上げる必要がある、分かるな。よって、今よりオーバーウェポンは、ただの武器ではない、我が深心を映すそのための鏡だ。では、たのんだぞ──」
そう丁寧に言い、【散る鏡】を自身の周囲に展開した。魔術師の男を中心に星のように軌道上に乗り、鏡たちが静かに回り始める。既に目を閉じているということは、〝瞑想〟にもう入ったということだ。黒いとんがり帽子に垂れ下がる長い銀の髪が、不思議に起こるそよ風に、揺らぐ──。
「アちょっと!! もうっ、なんでこうなって……そこっ!!」
さっそく無防備に目を閉じ佇む銀髪の男へと、飛び付いてきた林檎を、反応したレイは白杖で叩き返して砕いた。
「オーバーウェポンがただの武器ではない……シンシンを映すための…鏡……? ……もう知らないっ! こっちも〝ただの武器〟じゃないんだからっ! プロトロッドで! かかってきなさい! ────なるべく私にっ、ネ!!」
オーバーウェポンがただの武器でないのなら、ここまで魔獣を砕き続けたプロトロッドもただの武器ではない。
レイ・ミラージュは露払い役を買って出た。今この瞬間この時間だけは、正気でない、鏡の星を宙に回し、祈り佇む銀髪の魔術師様の身を守るために。
それが男の彼女へと見込み宛てた挑戦状だというのならば、いかなる命運をご勝手に託されようと、子爵令嬢レイ・ミラージュは受けて立つ。
白杖に込めた白き光が、次々と忍び寄る赤き邪悪を熱く撃ち抜いた────。
まるで大地を背負うクリスタルタートルの広い背の上で、煌めく樹木を今薙ぎ倒し、獰猛に這い走る大蛇がいる。その大蛇が首を曲げ執拗にその毒牙で狙うは、オレンジ髪の騎士。
巨大亀の背で剣一本で景気よく暴れていたところ、急に現れた新たな大魔獣に、騎士リンド・アルケインは喰われないように必死にその足で舞い続けた。
「こいつ!? あ、そうか! もしかして!」
リンドは大蛇に追われながらも、その少し窮屈そうに見えた大蛇の動きの不自由さに、何かを気付いた。そしてリンドは後ろへと大きく飛び下がった。
「これなら届かないか。ははは」
そんなにトパーズの眼で睨んでも、ルビーの舌をちろちろお茶目に出しても、大蛇の首は届かない。まるで鎖と首輪に繋がれた犬小屋の獰猛な犬のように、それ以上首を前には突き出せないのだ。それもそのはずだ、その大蛇は殻に籠っていたこれまで姿を見せずにいた首無し亀のご尊顔なのだから。背に乗り暴れ続けた異物であるリンドのことを腹に据えかねて排除しようと赴いたが、可動範囲、伸縮範囲はそこまで。亀の頭が出てきた方とは逆の甲羅の大地の後方へと下がった、オレンジ髪の騎士の行った悪知恵にはかなわなかった。
何度かトライしてはそれ以上先には進めない体構造上のエラーを起こした。大蛇もそれで分かったのか、諦めてゆっくりとオレンジ髪の獲物のことを名残惜しそうに睨みながら、荒れたクリスタルの森を這い引き下がっていった。
「フゥ……痒いところに頭を伸ばしてくるとは驚いた。あ、でもどうする? これじゃ逆にヤル事が無くなってしまっ──ぅガッ!??」
リンドが吹き出ていたことに今更気付いた頬を痒く伝う冷汗を手に拭い、大蛇が退き消えゆく様を考えながら眺めていたところ──
しかし、ソレは下から飛び出てきた。立つ地の真下から一気に伸び出てきた、そんなありえない大蛇の勢いと奇襲に騎士の身は、宙高々と強烈に突き上げられた。
空に浮かばされたリンドは崩れた体勢で、後ろ目に下方を確認すると。天にまで伸び立ち上った大蛇がこれ見よがしにその大口を開け、落ちてくる獲物をそのまま労せず飲み込む瞬間を待っていた。
上へ軽々と弾き飛ばされ、強い風にぶち当たり、オレンジ髪が激しく靡く。それでも硬く手放さずにいた一本の剣に力と魔力を込めて、リンドは上手く身を強引に捩りながら姿勢制御を図る。
なんとか剣に込めたエネルギーを借り、空中で姿勢を正し、顎を開けて待つ大蛇の真正面に見据えた。そんな彼のすぐ真下に、ふと、銀の蜻蛉が一匹、通り過ぎた。
その銀の煌めきが一瞬リンドの目を横切ると、何かを一粒、下へと落下させた。
【ミラーナッツ】だ。クリスタルツリーを共に討ったときにも、彼女、レイ・ミラージュが用いた。遠隔で起爆可能のマジックミラー商会製のサブのミラーウェポンだ。
その最後の一粒のミラーナッツが、大蛇のあんぐりと開けた大口へと投下され──爆発した。
フラッシュする爆光と、また吹く風、ミラーナッツの起爆した威力がリンドの真下に鳴り響く。
『そんなところで遊んでないで離れてください! 【ソウジョウの魔術】とやらを使われます!』
騎士のオレンジ頭の右にとまった銀蜻蛉が、彼の耳元で、そう呟き指示を出した。ざらついた音声で聞き取り辛いが、まぎれもない彼女の声だ。
「(あのこの髪留めの蜻蛉?)ソウジョウ? もしかしなくても──僕も知らないヤツか! 宮廷魔術師様とキミの気遣いは分かった! なら、死ぬ気のヤル気で、でりゃぁ!」
煙る光景を突き破り現れた、先走り、噛みつかんばかりの大蛇の怒りを、リンドは後方に身を捻り宙返りするように躱した。
そして、顎下、喉元に突き刺した剣を滑らせる。ジェットコースターのレールにでもするように、オレンジ髪の騎士がうねる大蛇のコースを〝自由に落下〟しながら刃鋭く青い魔力の火花を散らし駆け抜けていった。
「騎士リンド・アルケイン! ご丁寧に空に敷かれたッ、大蛇ぐらいのアトラクションじゃ、怖くはないゾぉ!! ハハハッ!!!」
ヤル気を見せる彼を止められるものはいない。誰かに求められる今、一瞬一瞬こそが、騎士リンド・アルケイン、彼の懸けて生きる全てだ。
騎士はその剣で大蛇の腹を切り裂きながら降りてゆく。そしてそのうねる蛇のレールの中途を強く蹴り、蜻蛉の報せの通りに従い離脱した。
風に打たれるオレンジ髪の若者が、思わず笑いながら、大蛇の首の立ち上った亀の甲羅の舞台から地へと向かった。
▼
▽
騎士リンド・アルケインが前で一人、巨大亀の魔獣を相手に、剣一本の獅子奮迅の働きを見せるなか、離れた地上の森では────
長い銀髪、纏う紫のローブがひらり揺蕩い、やがて起こる風はより強まり騒ぎ始めた。
そんなこれ見よがしに滾る一つの膨大な魔力のありかに、引き寄せられるように集まって来た──魔獣の群れに二人は囲まれた。
レイの険しい表情は、背にする彼の様子を一目確認しようとちらり振り返る。だが相変わらずの瞑想中。銀髪の魔術師様はレイのする表情とは対照的に、どことも知らない夢の中だ。
彼がおっしゃっていた「小鳥が囀り、羽を休める程度の時間」は、もう、とうに過ぎているのではないか。そんな愚痴さえも、今は魔術師の男の露払い役であるレイ・ミラージュは口に出せない。
そしてそんな事情など知らない魔獣たちは、容赦なく二人に襲いかかる。
「こっちもプロトロッドの真の使い方……お父様にナイショでこの森で練り上げた秘策や秘術のひとつだって!」
黒髪から汗水散らし終わりのない、杖を振るい魔獣を砕きつづけるディフェンスに、レイはちまちまやることをついに諦めた。そして、思いっきり握る白杖を、両手で地に突き立てた。
「私の魔力は、ちょっと揺れるんだからぁ!!」
宝石林檎の魔獣たちの種飛ばす弾丸をも、体に到達する前に無効化し弾く。向こう見ずの体当たりを仕掛けてきた林檎をも、突き破れぬ白光するバリア膜に触れては跳ね返る振動で、林檎の中に忍ぶ破鏡ごと砕けた。
レイにもまだ披露していない秘術があった。それは彼女の特殊な魔力の性質を、彼女と相性の良いプロトロッドを媒介に拡散し、拡大しつつ、その場にとどめること。自分の身、呑気に突っ立ち瞑想する魔術師をも、その白い球状の魔力膜にくるみ一緒に守ったのであった。
しかし、秘術はしょせん秘術。できれば秘したまま出さぬが吉、彼女の試行した術もどきは長くはもたない。ただプロトロッドに魔力を込めて、空間に歪む不完全な球体の魔溜まりを制御する、守りを固めたレイ・ミラージュと集る魔獣たちの我慢比べであった。
「勝手に頼まれ、勝手に寄ってたかってェ、こんなところでくたばるならっっ、可愛くて強いレイ・ミラージュにッ、転生した意味も……ないでしょぅがああああ!!!」
ただの日本人の柳玲じゃない、ただ可愛いだけじゃない、彼女は強い。
子爵令嬢レイ・ミラージュは失敗しない。
魔獣に食い破られかけていた振動する彼女の白き魔力はまた強まり、その球体の魔力シールドをもっと大きく押し広げた。彼女の発する言葉と気合に呼応するように、強まった。
自分の身は自分で守る。それだけじゃない、ご勝手に追加し課せられたどんな困難なミッションも、自身レイ・ミラージュと父ベル・ミラージュから譲り受けたプロトロッドならば、立ち向かえないほどではない。
レイは尽力する。魔力と体力と気力、その尽きぬ限りに。寄ってたかってこの一身に魔獣どもに挑まれても、彼女の挑むその心の方が遥かに強い。
そして、待ち侘びたその時は来た────。
魔術師の男の周囲を軌道に沿って回っていた鏡の星はそのスピードを上げ、複雑に交差しながら、紫のローブの元から銀髪を逆立て、天へと散る鏡が昇っていく。
そして、魔術師は祈るように握っていた懐刀の刃を今、勇ましく抜いた。
魔力滾り、柳の紋様が揺れ、その刃までを妖しく光り黄金に染める懐刀を、指揮棒のように操りながら、勇ましくその乾いた唇から宮廷魔術師は唱えた。
【深き闇を裂き、熱よ集え!】
【我が闘志を燃やし、木偶を祓え!】
【虚を滾らせ魔と顕れろ!】
【あまねく熱星が滴る時、爆ぜる全ては滅と識れ!】
【さぁ、今、鏡界を破り、我が深心より光り来たれ────】
【召晃奥!!!】
高く舞い上がった上空で、散る鏡たちをツギハギ合わせ、整い一つになった美しき大鏡に映し出されたのは、まるで〝宇宙〟。光の尾を引く何かが煌々と走り迫る、壮大な鏡のキャンパスで。
虚が魔を生み、木が火を生み、火が木を燃やすよう、高まりつづけた魔力にやがて熱星が生まれ落ちていく。
相生の魔術は、今、成された。
大鏡に映し出された宇宙を燃え駆けて、やがて狭苦しい鏡面の世界を貫き、この世の境界をまたぎ顕れた。
天より来たれし隕石のように風をつぶして降り注ぐ、青、赤、黄、白、黒。巨大魔獣の背にする甲羅の大地、森に墜ちては激しく爆発していく鮮やかな光の星たち。
【相生魔術・召晃奥】
オーバーウェポン散る鏡が映し出した彼の深心の宇宙より来たれし熱星群が、クリスタルタートル、その巨大なる八足の化物の姿を余すことなく、着弾した熱く膨張する光に呑み込んだ。
開かれたその黄金の瞳、魔力渦巻く風に逆立つその銀髪。
ジラルド公国お抱えの宮廷魔術師バーン・シルヴェット、オーバーウェポンの真の力を引き出す全てが規格外のその男に、倒せぬ敵はいない────。