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偵察魂

 

「最悪だよ」


 新が機嫌の悪い表情で帰ってきた。

 勤務先の病院の経営悪化と、それに伴う職員の待遇悪化が院長から告げられたのだという。


「常勤医師は年俸制(ねんぽうせい)だから今年の収入に変化はないけど、このままの状態が続くと来年の年俸は大幅に下げざるを得ないと言われたよ。それと、人件費を削減するために非常勤の医師を大幅に減らすらしいんだ。それだけでなく、看護師の夏のボーナスは30パーセントもカットされることになった。このまま患者が減り続ければ、冬のボーナスはもっと減らさざるを得ないと言うんだ。看護師の多くが困惑した表情を浮かべていたよ」


 新の勤務する病院は地域の中核病院なので、新型コロナウイルスに対して最前線で対応をしている。

 しかし、新型コロナウイルスの感染を恐れた患者が外来に来なくなるだけでなく、入院も手術も減り、そのせいで病床の稼働率も大きく落ち込むことになった。

 その結果、病院の経営状態が大きく悪化したのだ。


「国民の命を守るために体を張っているのに、一生懸命やればやるほど病院が赤字になって、そのせいで職員の給料が下げられるなんてあり得ないよ」


 看護師の夏のボーナスを全額カットすると表明した病院に比べたらまだマシだが、それでも看護師の士気は大幅に低下したと新は言った。


「新型コロナ感染の危険性が最も高い職場で体を張ってへとへとになるまで働いているのに、ボーナスはカットされ、人から後ろ指をさされ、子供は学校で虐められ、なんのために頑張っているのかわからないと泣き出す看護師もいて、居たたまれなかったよ」


 国も厚労省も病院に丸投げ状態で、経営支援をしない現状は歪だった。

 慰労金として1人最大20万円を支給する程度であり、それは雀の涙ほどの効果しかなかった。


「このままでは医療体制が崩壊しかねない。政治家や役人がもっときちんと現状を把握して迅速に対応しない限り国民の健康を守る事はできない」


 新のぶつけようのない怒りがリビングの壁にぶつかって部屋を揺らしていた。

 その怒りは日本中の医師や看護師の怒りと共鳴して日本全体を揺らしていた。

 しかし、その揺れを感じる政治家や役人は皆無だった。

 それを見た新型コロナウイルス変異株が不気味な笑いを浮かべていた。



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