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偵察魂

 

「まあ、かわいい♡」


 考子は親友の真理愛(まりあ)の家に遊びに行っていた。

 彼女は半年前に出産して、目のぱっちりとした真ん丸お顔の女の子を育てていた。


 恐る恐る腕に抱かせてもらって、イナイイナイバ―をしていると、赤ちゃんがニコッとこぼれんばかりの笑顔を見せた。

 その瞬間、考子の体の奥から溢れんばかりの母性が湧き出てきた。


「可愛すぎて夢中になっちゃう」


 右手で体を支えて、左手で赤ちゃんの頭を撫でた。


 すると、「気をつけてね。まだ頭のてっぺんは閉じていないから」と真理愛は心配そうに赤ちゃんの頭に手を置いた。


「ほら、ここはペコンペコンしてて、まだ骨が固まっていないのよ。柔らかいからなるべく触らないようにしているの」


 考子はそこをじっと観察した。

 頭のてっぺんが周期的に動いているように見えた。

 赤ちゃんの拍動と連動しているのがよくわかった。

 真理愛によると、赤ちゃんが泣いた時にも膨らむことがあるのだという。


「頭を洗う時は大変ね」


 考子は自分が赤ちゃんを沐浴させている姿を思い浮かべた。


「それは大丈夫。ガーゼで優しく洗えば問題ないから」


「そうなんだ、良かった。でも、いつまでこんなに柔らかいの?」


「え~っとねー、そうだ、1年半から2年くらい経ったら閉じるって先生から聞いたわ」


「そんなに? 結構時間がかかるのね」


「そうみたい。赤ちゃんの脳はどんどん大きくなっていくから、発達段階にある間は閉じないでいるみたいよ」


「へ~、人間の体ってよくできているのね。感心しちゃう」


「本当にそう思うわ。でも、あなたはいいわよね」


「何が?」


「だって、旦那さんが産婦人科医だもの。なんでも教えてくれるから羨ましい」


「うん。まあそうだけど……」


 曖昧(あいまい)に答えたあと、でも知識と診察経験だけではわからないものがあるのも事実だわ、と思った。

 どんなに優れた男性産婦人科医でも妊娠や出産は経験できないからだ。

 こればかりは経産婦に勝ることはできない。

 とはいえ、多くの妊婦を診てきた新の経験や医学知識には客観性や普遍性があるのも事実だ。

 その客観性に基づくアドバイスは確かにありがたいし為になる。

 そういう意味では、産婦人科医が夫で、経産婦が親友で、自分は本当に恵まれた環境にいるんだなと改めて思った。



 赤ちゃんが寝たので、真理愛が入れてくれたハーブティーを2人で楽しんだ。


「これ美味しいわね」


 考子はほっこりとした表情になった。


「そうでしょう。私の大好きなローズヒップよ。妊娠中も良く飲んでいたの」


「ハーブはカフェインが入っていないから安心して飲めるって聞いたことがあるわ」


 考子が聞きかじりを口にすると、真理愛は少し首を傾げた。


「そうでもないのよ。飲まない方がいいハーブティーもあるの」


「えっ⁉」


 考子は思わず大きな声を出して目を丸くした。


「そんなに驚かないでよ。こっちがびっくりするじゃないの。それに、赤ちゃん大丈夫かな」


 心配そうな顔になった真理愛はベビーベッドを覗きに行った。


 しかし、しばらくして戻ってくると、大丈夫よ、というように目配せをした。

 すやすやと眠っていたようだ。


「よかった」


 安心しながらも考子が、ごめんなさい、と顔の前で両手を合わせると、真理愛は、いいのよ、というように微笑んで、中断したハーブティーの話を続けた。


「私が妊娠中、カフェインは胎盤から胎児に入っていくって聞いたから、コーヒーは止めてハーブティーにしていたんだけど、ハーブティーの中には子宮を収縮させる作用があるものもあるから気をつけた方がいいって言われたの」


「誰から?」


「産婦人科の先生からよ」


「えっ、産婦人科医?」


 そんなことを聞いたことがなかった考子は頭の中で新を小突いたが、

「それでね、飲んでもいいものリストを貰って、その中から自分の好きな香りのものを選んでいったの」という真理愛の声で今に戻った。


 すると彼女は台所の引き出しからそのリストを持ってきてテーブルに置いた。

 エクセルの表だった。

 左欄がOKなもの一覧、右欄がNGなもの一覧になっていた。


「コピーするから持って帰ったらいいわ」


 印刷機のコピー機能を使って刷り上がった1枚を渡してくれた。


「ありがとう。助かるわ。これからも色々教えてね」


 考子は左欄に記載されているローズヒップという文字を見つめながら、穏やかな気持ちでカップを口に運んだ。



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