福笑いの村
ここは小さな“福笑いの村”。
雪がたんぽぽのようにふわふわと落ちてくる。
ついに僕にもこの時がやってきた。
妻が妊娠し、もう直ぐ産まれるという段階。
この村では、自分の子供がお腹にいる間に、福笑いゲームをして子供の顔が決まる。
目や鼻や口など、パーツは妊娠した時点で決まっている。
妻が目隠しをして夫がサポートするか、夫が目隠しして妻がサポートするか。
その決断は各夫婦に委ねられる。
夫婦の協力が必須である。
そして、この村ではイケメンよりも、非イケメンが歓迎される。
より面白い顔を作り上げた夫婦は賞賛され、イケメン顔を作り上げてしまった夫婦は「夫婦の絆がまだまだだな。」などと非難される。
僕の父はこの村の長老だ。
いつも僕に言ってくるのは、
「この村一の福顔にするんだぞ。」だ。
しかし僕は人を幸せにする顔よりも、イケメンを作り上げて子供にはこの村を出ていってもらい、誰にも縛られることのない幸せを掴んでほしい。
妻にもその話をすると納得してくれた。
その日がやってきた。
僕が目隠しをし、妻が声を出してサポートしてくれる。
僕は何かのパーツを手に取った。
「それは目よ。左、左、もう少し左。ストップ!」
こんな調子で全てのパーツを揃えた。
完成宣言する前に妻に最終確認した。
「本当にこれでいいか?」
僕はまだ目隠しをしてるので妻を信じるしかない。
「これで間違いないよ。」
その言葉を聞き、完成宣言した。
そして目隠しを外すと、最高のイケメンとなっていた。
僕は想像以上の出来に思わず妻と抱き合った。
しかしそれを見ていた長老は言った。
「なんのつもりだ。」
「僕たちはこれから出ていきます。今までありがとうございました。」
そうして妻と一緒に出ていき、隣町へ行った。
妻の陣痛が始まり、病院へ行った。
病院のスタッフは不気味なものを見るような目で僕たちを見た。
助産師が無事、赤ちゃんを取り上げた。
顔は僕たちが作り上げたものと同じ出来になっていた。
アパートに帰り、いよいよ3人での生活が始まるというところで、妻が赤ちゃんの顔を見て悲鳴を上げた。
なんと、顔のパーツが全てずり落ちていたのだ。
何度も取り付けようとしたが、ダメだった。
僕はすぐに長老のところへ戻り、怒りながらどういうことかを聞いた。
すると、村を出れば顔のパーツはずり落ちるとのことだった。
悪魔の村だと思った。
しかしずっとのっぺらぼうなんて可哀想。
どうしようもなく、3人で村に戻った。
すると長老が言った。
「もう一度チャンスをやろう。」
長老が今度は妻に目隠しを渡した。
そして僕がサポート役である。
僕らはもうこの村から逃げられないのだと思い知り、より非イケメンになるように、面白い顔になるようにサポートした。
そして、完成宣言をして妻が目隠しを取ると、赤ちゃんを見た途端、大声で笑った。
長老も、僕も、大笑いした。
その声に釣られて、村のみんなも集まってきてみんなで笑った。
ああ、やはりこの村が僕たちの居場所だったんだ。
その日、僕たちは一生分笑った。
何ならスッキリして、この村で住むという運命もスッと受け入れられた。
僕は長老の息子として、笑顔の絶えない村を存続させようと心に誓った。