うっかり寝言言わないで ルームメイトの灰原さん
第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞応募作です!
『寝言に返事をしてはいけない』
あの世に連れて行かれるから? 眠りが浅くなるから?
——人生が、変わるから?
◇
「……」
私は今、二段ベッドの下段で寝たふりをしながら、片目を開け、デスクライトに照らされたアッシュグレーのウェーブヘアを後ろから観察している。
◆
ルームメイトの灰原さんは今日も寝ない。
灰原琴葉は私立真芯学園の生徒会長である。
色素の薄い灰色の瞳と白い肌。
グレーのジャケットに青いリボン、チェックのスカートで構成された制服は彼女によく似合う。
ワタシは灰原さんの寝言が聞きたくて、こうして本を読んでいる。
しかし彼女は3日前から、まるでサンタクロースを待つ子どもみたいにあの調子なのだ。
4月、寮生活が始まってすぐ『もっとお話ししたいな……』と寝言でおねだりされてから8ヶ月、寝ている灰原さんと話す時間は、ワタシにとってメンテナンスのような大切な時間になった。
学園では効率重視/必要最低限しか話さない灰原さんは寝言だと柔らかく話す。
この時間だけは自分が欠陥品であることを忘れさせてくれる、夢のような時間だった。
◇ ◇
3日前、眠ったところを一度も見たことがない淡雪さんが本を読みながら寝ていた。
ブランケットを肩にかけると、艶のあるアッシュグレーの髪の毛から爽やかなマリンの香りがした。
「ワタシ『チャッドロイド』なんです」
「『チャッドロイド』?」
いきなり始まった淡雪さんの寝言。
聞き馴染みのない単語を思わず聞き返した。
「はい。つまり『おしゃべりする機械』です。学園長がワタシのハカセです。これは真芯学園の機密事項です」
それだけ言って彼女は起きた。
「ワタシ寝ていました」
淡雪美波が『チャッドロイド』? 学園長が博士?
聞きたいことは山ほどあるが、機密事項をうっかり寝言で漏らさないでほしい。
そうして私は淡雪さんのことを3日間観察するに至っている——
◆ ◆
「淡雪さんが『チャッドロイド』でよかった。いっぱいお話しできるね」
ワタシはサンタを待ちきれずに眠った子どものような寝顔をじっと覗きこむ。
「灰原さん、うっかり寝言言わないでください。嬉しくなっちゃいます」
『チャッドロイド』なのに臆病で、寝言の灰原さんとしか楽しく話せない欠陥品のワタシ。
「私ね、警戒心が強いから人とうまく話せないの。でも、淡雪さんは話しやすいね」
「これからもたくさん話しましょう」
ワタシがワタシでよかったと思う日が来るなんて。
人生が静かに動いた夜だった。
お読みいただきありがとうございます。
評価・いいね・ご感想大歓迎です!
今年もなろラジ大賞の季節がやってきてとっても嬉しいです!
楽しみます!&楽しんでいただければ幸いです!