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怒りを抱いて根は伸びる

一つの命が生きていける範囲などごく限られている。


世界は広いと言っても大海に出た蛙は

塩水に殺されるし、

広い世界を見ているような渡り鳥だって、

不毛の砂漠では干涸びる。

人間だってその例に漏れない、

だから故郷と記憶に縛られる。

県警本部と合同で検挙したあの犯罪組織の

押収品の中から這い出てきた一つの事実が

僕にその事を教えてくれた。


「由紀………」

SNSのチャット画面に

忘れようとも消えず、

二度と見る事のないと思っていた

笑顔が映し出された。

胸を抉り取られたような痛みと喪失感、

同時に頭から怒りと冷たい感覚が迸るのを感じ、

決意を固めさせた。

「……ヤツに…ヤツに会わなければ………」


板を隔てた向こう側、

薄緑色の大気が覆う部屋の中に

刑務官に連れられて

1人の男が入ってきた。

向かい合う座席に腰を落とす。

その動作には何の感情も

読み取れなかった。

「………申し訳ないですけど……誰ですか?」

忘れもしない…

妹の命を奪った男、榊野霹靂が

言い放った言葉がそれだった。


「……風間由紀って娘の事…覚えてますか?」

「…風間………風間ねぇ……」

誰の事だかさっぱりわからんという態度が

言葉を聞くより痛く伝わってくる。

「…貴方がここに入る事になった事件……

あれの被害者の女の子の事です…」

「うぅん?…あ、あぁ!……」

「私は彼女の兄です…」

「なるほどなぁ……道理で存じんワケだぁ…」

吐き捨てるような言葉には大して合点がいったという

ような感じを受けなかった。


「そのお兄さんが今さら何のようで?」

「……覚えているかわかりませんが…」

鞄から印刷されたコピー用紙を取り出し、

勢いよく透明の板に叩きつける。

「このチャットでやり取りした人……

会った事ありますか?」

「ぜんっぜん!…まぁったく!…」

「本当ですか⁈」

「今更嘘付いてぇ、なんか得しますかぁ?」

「じゃあ、どうやって知り合ったんですか⁈」

「あんま覚えてねぇから誰とはいえねぇけどよぉ、

ソイツじゃねぇ誰かさんに頼まれたのは

間違いねぇかなぁ〜」

「本当にそうだと言い切れますか?」

「さぁな!そんときゃ半分トンでたからわかんね

…大体人殺しの依頼する癖に

正体明かすマヌケっているんですかねぇ……」

そう呟くと人を馬鹿にした様にクックッと笑った後、

僕を見据えてこう答える。


「もっとも、俺は殺そうと思ってなかったけど…」

「………というと?」

「いやぁね……それ読んだらわかるけどさぁ…

俺はそのぉ…ユキちゃん?とエッチしてみねぇか

みたいな事聞かれてさぁ、普段通りヤッたわけよ」

相変わらずヘラヘラと悪びれる様子もなく、

寧ろ自らの行いを誇るかの様に

榊野は話を続けた。

「ただ、俺って変態でさぁ…

人が死にそうになって苦しんでる所で

グッときちゃうんだよねぇ…これがさぁ…」

そういうと榊野は右手の人差し指を

机の下の自分の股間を示す様に指差した。

「実を言うとさぁ…

今お兄さんの顔見てビンビンなんだよねぇ」

「…………そうか」

「その怒ってて俺のことを

心底見下すような苦しい顔が

ユキちゃんよりも唆るんだよなぁ…」


ガダッ‼︎ゴドガドッ‼︎


座っていた椅子が倒れるを確かに感じながら、

勢いよく立ち上がる。

榊野が何かを期待する眼差しを向けるのを

無視して面会室を後にしようと歩き出す。

この場を離れなければ理性のタガが弾け飛ぶことは

間違いなかった。

檻の向こうの化け物が叫ぶ。


「お兄さん!

俺みたいになってもしょうがないよぉ!」

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