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爆ぜた種が根を伸ばす

三者三様

それは警察署での業務でも

何ら変わる事はなかった。

むしろレッテル張りというのが

いかに役立たないものかを

思い知らせる事が多かった。


純粋な悪意を持って、

やむを得ない状況に追い込まれて、

単に金や快楽を求めて、

特に何の理由もなく、

老いも若きも

男も女も

皆等しく凶暴な社会の敵に

成り果てていた。

事実、自分がここに来るキッカケを作った、

あの強盗犯達は皆逮捕歴が無く、

金に目が眩んで化け物に成り下がった

20代の男達だった。


そんな連中と自分の境界が揺らぐ中で、

先輩に言われた一言が頭から離れない。

「同じ化け物になりたくないなら、

法律以外は信じるな、自分の事も疑い続けろ」

今となってはその言葉が身に沁みてわかる。


「いよいよこの時が来た‼︎」

官給品の机、椅子が並び、

プロジェクターが照らされている

署内の会議室に県警本部から

送り込まれてきた警部殿の

威勢のいい声が響く。

「今日の一斉摘発は一重に

被害者の無念を晴らすべく

5年という長きに渡って

執念の捜査を続けてきた

我々の努力の結晶である‼︎」

眉間に皺が深々と刻まれ、

横暴許すまじといった決意の眼差しが

捜査員一人ひとりに向けられた。

「生命、財産を脅かす巨悪に

怯む事なく立ち向かった、

諸君の働きに感謝するとともに被疑者逮捕に

全力をあげてほしい‼︎‼︎以上だ!」

全捜査員が一斉に立ち上がり敬礼する。


忌まわしい記憶の残る繁華街の近くに

鎮座する文字が縦看板だけでなく

窓にも刻まれているような

ごくありふれた6階建ての雑居ビル。

ここにはある時は暴力である時は

奸計で財を奪い取り、

罪なき者の生命すら省みようとはしない

化け物どもが蠢く悪の巣窟があるのだ。

早くこの害悪を除かなければと逸る気持ちを抑え、

左隣の捜査員と歩調を合わせ、

建物の中へと入っていった。


青白く明滅する蛍光灯の光が

階段を妖しく照らしている。

10人以上の捜査員が2列の縦隊を組んで

階段を登っていく。

防刃ベストの重みが増していくような

錯覚を覚えながら一段ずつ足を乗せていくと

列の先頭が目的の扉に到達した。

握りしめた拳でドアを3度叩くと

男が部屋の中から顔を出そうと扉が開いた。

すかさず捜査員が扉と枠の間に手を突っ込み、

強引にこじ開ける。


「警察だぁ‼︎‼︎大人しくしろ‼︎‼︎」

「何だよ‼︎いきなりよぉ‼︎‼︎」

「鹿山と影野出せ‼︎、それとガサ‼︎‼︎」

「勝手に入んな!レージョーはどうしたよ、

レージョーはよぉ‼︎‼︎」

「そんなもんいくらでも見せてやるよ‼︎どけ‼︎‼︎」

堰を切ったように男達が部屋になだれ込む。

暴力団の事務所というより

一般企業のオフィスといった趣きの室内には

容姿も体格も服装も異なるが

修羅のような雰囲気を

放っている男達がひしめき合っていた。

殺気を孕んだ視線を受けながら、

事務所の奥へと進んでいくと

また列の先頭から声が聞こえた。

「鹿山!影野!

傷害の容疑で逮捕!」

背中越しに2人の男の眼前に逮捕状が

突き立てられるのが見えた。


そして、どこか悟ったような鹿山と

やれやれバレたかと言った様子で

息を吐き出す影野の

手にしっかりと手錠がはめられた。

僕たちはその瞬間を見届けた直後、

証拠品の押収に取り掛かった。

異常な数の情報端末と充電器、

それとは対照的に探さなければ見当たらない

紙媒体の資料を段ボールに詰め込む。

先ほどまでボール紙の板っ切れだったそれは

質量を持った実体となりズッシリと

我が身にのしかかる。

少々堪えたが、複合機を運んでいる仲間に

比べればなんて事のない重さの箱を外に運び出す。

階段を降りビルの外へと歩き出すと

赤やら白やら黄色やらといった閃光が

投げつけられた。

そこで蠢く人影や投げかけられる視線

を意に解することなく、

既に鹿山と影野を乗せた車両の荷台に押収品を置く。

そしてまた、他の証拠品を抑えるために

階段を駆け上がる。


階段の往復を6回繰り返し、

その度に段ボール箱の重みが

増していった。

所轄の警察官が任される、

手柄に繋がらないような仕事だったが、

誰かに手錠をかけるよりは余程マシに感じられた。


まさか、この証拠品の中に

あの夜の黒幕に繋がる手掛かりがあるとは

その時は知る由もなかった。

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