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二日酔いでも問題があれば考える

 朝は、ご多分に漏れず、二日酔いが森を苦しめた。夢の中でさえ、広田が現れて、見たこともないプログラムソースをディスプレイに表示させては、おかしいおかしいと連呼するが、どこが変なのか全然わからない、これはもう悪夢としか言い様のないものだった。

 ただ、唯一安心できたのは、今日は土曜日であることだった。森は、酒臭い息を吐いて再び目をつぶった。


 ふと、昨日の夕方から始まった葬儀の様子が思い起こされた。森は課や部の面々から、集められた香典を持って、会社の代表という名目で出席をしていた。課長も部長も参列すべきなのに、二人とも別のプロジェクトの障害対応のために顧客先で雪隠詰めに遭い、遠い現地で陣頭指揮を長期にわたって取っていた。そのため管理職の香典代は森が肩代わりする羽目になった。


 人の葬儀に出るのは初めてだった。ひょっとしたら、棺に入った広田の顔を見ることになるのだろうかと思ったが、既に荼毘に附されていた。それほど多くない参列者の中に混じり、焼香が始まると前の人を見ながら見よう見まねでなんとか乗り切った。


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 森の頭の中、思考の隙間をかいくぐってそれが、ぽかりと浮かび上がる。


 俺が新人の頃は、ファームウェアってのを作っていてな。酒の席、電車の中、時折広田は昔話をした。


 え、ファームウェアって何ですかって?今やアプリ開発が主流のウチの会社では、作ることはもうないし、周辺機器にウチの親会社の製品のロゴを付けても今はどこかのOEMで、こっちで作ってもドライバーだけだから知らなくても当然だな。


 まぁいろんな機械を制御するプログラムとでもいうかな、何個もあるモーターを回したり、機械についているセンサーを監視したり、PCとケーブルを通じてデータをやりとりをしたり、とね、


 ロボっトの制御みたいなものかって?まぁそれに近いかもしれないけど、俺が作っていたのは驚くほどレベルが低いぞ、最初に価格ありきだったからなぁ、RAMが何個、ROMが何個までと決められていてさ、CPUも8ビット1個だぜ。


 メモリ足りなくなったらどうするんですか?だって。そりゃもう努力してプログラムを見直して、ワークメモリも使い回したりして、決められた容量に収めないといけないのさ、ハードが先にできあがっているから、ファーム屋の意見は言っても無理。まぁだいたい、最初にアセンブルしてできあがった時は、メモリがオーバーしているのが常でね、そこから無駄なものを削って削って、どうにか収めるのだけど、不思議とやれば入ってしまうものなんだよな。


 今はメモリは使いたい放題だし、メモリリークを除けば、メモリについて意識する事も少ないものなぁ、ガベージコレクションもOSがやってくれたりするけど、俺みたいに古い奴にいわせれば、自分の作ったプログラムは自分の掌の上でお行儀よくして欲しいのだよね。知らない間にOSがこっそりやってくれたりすると気持ち悪くって。


 

 当時のOSってDOSでしたっけ? 


 若いのに、良く知っているね。でも残念でした、開発環境は最初はCP/Mだったかな、後でDOSに変わったけどね。でも、ファーム上で動くOSは当時はハードに合わせて最初から自作だよ。


 OSから作るんですか?


 当たり前だよ、だってそのハードで動くOSがねぇもん。でも、おかげでCPUの動きとかよく分ったものさ、ちゃんとしたプラットホーム上で動くアプリを作ってばかりいると、判らねぇだろ


 確かに判らない、亡くなる前に指摘された案件、原因はもっと深い処にあるのだろうか?ぼんやり頭が、また元の問題に戻ってきた。


 森は、目をつぶりながら、会社で相談できそうな人間を頭の中で探した。古くから広田と伴に働いていた人物といえば、現在出張中の柴田部長くらいしか思い浮かばない。しかし、管理職にならず、現役を続けてきた広田とは違い、自己研鑽に努めプロジェクトに背を向けても上の役職に昇りつめようとした柴田と広田は回りからは犬猿の仲とも言われ、どちらかと言えば、口を利くのも億劫だ。


 あとは、若村先輩か・・・この会社からリクルート活動で、森の大学にやってきて、しつこく森を勧誘した張本人だ。ゼミの先輩でもあるだけに、訊きやすくもあったが、彼は確か親会社から発注されたプロジェクトの開発のために、契約上は作成請負にもかかわらずまるで出向みたいになっていて、最近は当社で姿を見ていない。


 だめだ、判らない。二日酔いで痛い頭に、更に追い打ちを掛けられている気分だった。寝よう、今日はとことん寝よう・・・と思っていると、今度は嘔吐感がこみ上げてきた。


 気持ち悪さが、寝かせてもくれない、彼女は口を押さえながらトイレに駆け込んだ。



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