盗み聞き
夕暮れの外出は、すでに城門を閉めたからという理由で許可が下りませんでした。
頭がクリアになっている状態で、一刻も早くマリア様に会いたいのに。明日の朝にはまた、過去を忘れた自分になってしまっているかもしれません。
落ち着かず、城の庭を徘徊していると、木陰に人影が見えました。
あれは・・・!!
そっと、ヒールの靴を脱ぎ、悟られないよう近づいてみました。まちがいありません。
「もう時間がないんだ。」
「仕方ないことです。何度お話しても、変わりませんわ。」
「僕は納得いかない。そんな、、、簡単に捨ててしまえるような時間を過ごしてきたわけじゃない。」
「それは私も同じです。でも、どうしようもないではありませんか!」
アンソニー様とマリア様の声です。
「明日の夜、迎えに行く。」
きっぱりとした声で、アンソニー様が言いました。
「え?」
「準備、してあるんだ。君の屋敷に迎えに行くから、裏口から見つからないように出てきて。そのままコールダーの港から船に乗って、アムステール王国へ行く。」
「なにをおっしゃいますの、急に!」
「前から準備していたんだ。一緒に行こう。」
「あの方はどうなさるの?あの方を放っていくのは、あまりにも可哀そうですわ。こんな見知らぬところへ召喚されて、最近は記憶も怪しいことが増えて・・・」
「それは・・・」
お二人は、、、お二人は、、、
「お二人は!!!愛し愛されているのですね!!!」
思わず、叫んでしまった・・・
植え込みから頭を突き出し、突如現れた私に驚き、大きく見開かれた、アンソニー様、マリア様の瞳。
「あ、すみません。ちょっと立ち聞きしちゃって・・」
沈黙。
「かっ、駆け落ちですかね。あはは。」
「そっ、そんなこと致しません!何もご心配なさらないで、、」
やさしいマリア様は、目に一杯涙をためて否定しました。
「いいんですよー。私、お二人の気持ちが知りたかったんです。だって、おかしいでしょう。私が来たから結婚止めちゃうなんて。ねえ?」
「それは、、元々、聖女の召喚が成功したらそうなるお約束でしたから。」
マリア様、お優しい。
「そうだ、我々が君をここへ呼んでしまったのだ。僕たちの婚約は、聖女が出現するまでの一時的なもの。だから、恋に落ちるなど、あってはならないことなんだ。」
アンソニー様も、よくわかってらっしゃいます。
「でも、婚約していた9年間は、長かったでしょう。お二人にとって。」