婚約者
ハンプステア王国は、ほどほどに大きな島国。海の幸あり。山の恵みあり。山から海へ流れる澄んだ川は畑を潤し、豊かな実りをもたらしていて、国民もみな穏やか。
しかし、平穏すぎて変化がないそうです。
「そこで、年に一度のビックイベントがあるんだ!」
金髪イケメンこと、アンソニー様は目を輝かせて言いました。
「一年の年の終わりに、聖女召喚の儀式を行うのだよ!城の地下に、召喚専用の部屋があって、そこで聖女召喚!」
なるほど、床が光っていたのは、魔方陣が稼働していたということなのね。
「まあ、だいたい失敗するんだけど。」
「失敗するのですか?」
「そうだね、だいたい、魔方陣が光ることもなく、静かに終わるね。」
アンソニーは、開かれた窓の外に、そっと目をやり、窓からの心地よい風を受けて目を閉じました。ああ、絵になる、、、
「君は、20年ぶりに召喚に成功した。」
「20年!?」
「まあ、結構、そのくらい間隔が空くんだよね。前回召喚されたのは、僕の母だから。」
「お母さまですか。」
「聖女は第一王子と結婚することになっているからね。」
結婚!?なにっ!!
「ええと、、アンソニー様はおいくつですか?」
「僕?19歳だけど?あ、君はいくつ?」
「17歳です。」
19歳?召喚が20年前ってことは、召喚されてすぐ結婚→出産ってことだよね?うわー、無理。無理無理。
「17歳かぁ、年回りはちょうどいいね!」
すっかり乗り気のアンソニー様。そりゃそうか、最初からそのつもりなんですものね。はぁ。どうしたものか。
訳のわからない状況に、ため息をついたところに、騒々しい音が聞こえてきました。
「うるさいわね!通しなさい!許可とかどうでもいいのです!!」
部屋の外の廊下を足早に進んでくる足音。カツカツとした高い響き。ヒールかな?
「アンソニー!!」
開け放してあった扉から、青みがかったプラチナブロンドの女性が姿を現しました。ゴブラン織りのような凝った模様のふんわりとしたドレスを身にまとい、頭には大きなピンクのリボン。
「マリー!なんの用だい?今日は忙しいと伝えてあったはずだけど、、」
「聖女召喚に成功したって聞いたわ!ほんとなの!?」
マリーと呼ばれた女性は、真っ赤な顔でアンソニーに詰め寄りました。なんだか急いでいるみたい。
「ほんとうだよ、マリー。聖女様、、、こちら、僕の婚約者のマリア・ユペールです。」
私は椅子から立ち上がり、軽く会釈をしました。こちらの国の流儀は分からないけれど、これでよかったかな?
ん??婚約者?
「マリー、こちらは召喚された聖女の、、」
「本当に召喚されてしまったのね!!!」
アンソニー様の言葉を最後まで聞かず、マリア様は叫びました。怒鳴り声というより、悲鳴に聞こえました。
「ああああ、だから嫌だったのよ!!聖女召喚、大抵は失敗するけれど、代々第一王子の結婚適齢期には、なぜか成功するじゃない。な・ぜ・か!!!あああ!いや!」
ほうほう、代々、第一王子のお嫁さんは聖女なんですね。
「マリー、落ち着け!聖女様の前だ。おい、エメラルダ、マリーを連れていけ。」
「かしこまりました。」
マリア様の後ろからついてきていた、いかにも侍女というエプロンドレスの女性が、マリア様を引き摺るようにして部屋を出ていきました。
「騒々しくてすまないね。さて、、何の話だったっけ?」
笑顔さわやかなアンソニー様。まるで何事もなかったかのよう。婚約者ですって。これだから、イケメンは信じられない。