◇9
食後のコーヒーをひと口飲んで、カップを置くカーラ。
「シーラ、サラサ、あしたは皆で森に行きましょう。サラサの実力も見ておきたいし。いい機会だから、シーラもそろそろ自分の力の使い方を学びましょうか」
「いいの?!」
シーラの顔が輝く。
「よろしくお願いします」
サラサはぺこっと頭を下げた。
「気負わなくて大丈夫よ。これからふたりが一緒に行動する以上、力の相性も見ておきたいし、シーラの力は特殊だから、注意点の説明も」
そう言って、カーラはデザートのケーキを頬張る琥珀狐と精霊に目線をうつす。
「レフとプラシノも付き合ってくれる?」
レフの尻尾がふさふさと揺れた。
「いいわよ! 私は力技なら教えられるけど、繊細な魔力操作はプラシノが得意だからね。しっかり教えてもらうと良いわ」
プラシノも、すい、と空中を滑るように飛びながら言う。
「魔力量ではレフはカーラと並ぶからな。大技はレフ担当ってことだ。レフの言う通り、細かなところは俺に任せろ」
「なんだかんだで仲が良いのよ」
こそっと、シーラがサラサに耳打ちする。
「なるほど。お互いを、信頼しているんだね」
◇
森のそばの草原まではすぐだった。
カーラは馬で、シーラとレフはカーラの馬に相乗りで。
プラシノは一足早く、転移して戻っていた。
サラサは移動の間だけ、翼竜の姿に戻る。服はシーラに持ってもらった。
少し遅れて、もう一騎の馬が近づいてきた。
颯爽と馬から降りた男性は、シーラと同じ金色の髪と空色の目をしていた。
「昨日は紹介できなかったわね。夫のコランよ」
「よろしくね。話は聞いたよ。シーラが無理を言って連れてきたんじゃないかい? 何かあったら、遠慮なく言ってくれて良いからね」
そう言ってにこやかに笑う美青年。
屈託のない笑顔が、シーラのそれと重なる。
カーラもコランも、シャツに革のパンツというラフなスタイルだった。
大袈裟な護衛もいない。
「パパったら!」と、シーラがプリプリ怒っている。
サラサは首を振って言う。
「はじめまして……! いえ、僕の意思でついてきたので! ありがとうございます」
「よし! じゃあ初めましょうか。ーーまずは、サラサの全力を見せてくれる? いちばん威力の高い魔法を、私に向けて発動して」
「はい?」
カーラににこにこしながら軽く言われて、頭が混乱する。
「え、えっと、僕は確かに罠にはまって捕まっていたけど、それは力を使い果たした隙をつかれたからで……」
わたわたとしながら説明をする。
「子供でも竜種なので、そこそこの力はあるというか……。えっと、つまり、大丈夫? カーラが強いのはなんとなくわかっているけど、怪我はさせたくないよ」
「大丈夫だよ、私がいるから」
と、コランは言うけれど。
「えっと……。こんなことを言ったら失礼かもしれないけど、カーラほどの魔力は感じないよ?」
サラサの素直な言葉に、コランは苦笑する。
「見てみればわかるよ」
「うーん」
「大丈夫、レフも俺もいるからさ」
いつのまにか、プラシノが大人の姿になっていた。
プラシノの結界は、出会った日に見た。あれならば、万が一は無いか。
「わかった。僕の使えるいちばん強い魔法は、竜巻だから、それを打つよ。ーーじゃあ、行きます」
右手をカーラのほうに向ける。
カーラの笑顔は揺るがない。
コランがカーラの隣で、サラサと同じように右手を出した。
「ーー竜巻!」
サラサの上空の風が一気に渦を巻く。
ひと呼吸おいて、風の渦はカーラめがけて突進した。