◇6
「と、いうわけでぇ。今日からサラサもここで、わが家で暮らしたいの!」
おねがいっ! と、手を合わせてお祈りポーズのシーラに、やれやれとシーラのママーーカーラは肩をすくめた。
カーラの銀色の髪はいつもぴかぴかで、翠色の目は吸い込まれそうな魅力を持ってる。
シーラの自慢のママだ。
「仕方ないわね。私もシーラくらいの頃にレフと出会ったのだし。きっと、縁が巡ったのだと思うわ」
「やったぁ、ママ大好き!」
飛びついたシーラを抱っこして、ママは続ける。
「でもこれからは、名付けの前に相談すること!」
「はぁい」
「縁を結ぶということは、その相手の一生を左右することよ。よくよく考えなさいね」
「はいっ!」
「壊れた広場の修繕および、翼竜飼育のための事務関連の手続きについては、ロナルド殿に引継ぎいたしました」
「ありがとう、エリアスさん。ご苦労様でした」
「いえ」
ややこしいところはあなたの兄上殿にまわしたので。と、平然と言う。
カーラはくすくすと笑う。
「そうね。ロニー兄さまには何か差し入れをしておくわ」
「今日もこっちには顔出さないかな?」
と問うたのはシーラだ。
「たぶんね。領主の仕事を継いだとはいえ、あっちでやる仕事もたくさんあるから」
「そっかぁ」
(ロニーおじ、会いたかったなぁ)
残念さが顔に出たシーラの頭を、カーラは優しく撫でた。
「週末にはこっちにも来ると思うわ。明日はクッキーでも焼いて持っていきましょうか」
「うん!」
「サラサ。ご挨拶が最後になってごめんなさいね。わが家へようこそ」
居心地悪そうに立っていた少年に歩み寄り、声をかけるカーラ。
「カーラ様」
少し緊張した面持ちで、サラサはこの屋敷の女主人に、ぎこちなく一礼をする。
「よろしくお願いいたします」
「様はいらないわ」
「カーラ、さん」
「ええ。よろしく」
ふわりと笑ったあと、真剣な顔でカーラは問う。
「いくつか確認させて。あなたの意思で、この子といたいと思ってくれたのよね?」
「はい」
「それはどうして?」
「面白そ……ごほん」
(おもしろそうって言おうとしたわ、いま)
シーラは信じられないという顔をサラサに向けた。
(私の魅力に惚れ込んだのではなかったのね……)
「助けてくれたことで、好意的な感情を持った事は、きっかけのひとつです。いちばんの理由は、……なんとなく?」
(な、なんとなく?)
ずるりと絨毯の上に転けそうになる、シーラ。
しかし続く言葉に、胸があったかくなる。
「この人だと思った。それじゃ、答えにはなりませんか?」
「いいえ、十分よ」
にこりと笑って、カーラは続ける。
「人と、暮らしたことはある?」
「……はい」
少し迷ったあと、サラサは首肯する。
「ここには、どれくらいいられるのかしら?」
「ママっ」
シーラは思わず口を挟んだ。
(どれくらいだなんて。サラサが良いなら、ずっといてほしいのに)
サラサは言う。
「許されるなら、ここにずっといたいと思ってます」
「そう。意地悪な言い方をしてごめんなさいね。もしかしたら、待ってる人がいるのではないかなと思ったのよ」
「いません。ーーもう」
「辛いことを思い出させたかしら」
「いえ。大切な記憶なので、辛くはありません」
顔を上げて言うサラサに、カーラは目を細めた。
「では、あなたを信頼します。シーラを頼むわね。良いお友達になってやって」
「はい! あの、ありがとう」
「いいのよ。自分の家だと思ってくつろいでね。来客用の部屋をひとつ、あなた用に準備させるわ。細かい決め事は、おいおい相談しましょう。何か困ったことがあったら、すぐ私か、主人か、家の者に言ってね。あとで紹介するわ」
「はい」
「私からもありがとう! ママ」