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◇30

「かまどの火だって、かまどを破壊せずにうまくつけられたのだし、パンだっていい感じに炙れると思うのよ」


 近頃の特訓で、かなりコツをつかんだし、レフちゃんプラちゃんとこっそり自主練だってしていた。

 いまなら氷魔法で、氷のわたあめだって作れそうだ。


「うん、その自信は大切だと思うよ」

 含みのあるいい方なのが少し気になるけど、そう言ってから、サラサは魔力を手のひらの上で遊ばせた。

「なるべく小さい魔力を放出するよ」


「うん、お願いね」

 サラサからキャッチした魔力を、シーラは火と風の属性に変化させる。

 火は最小に、パンの上を滑らせるように動かす。

 そのまわりに風を巡らせ、熱風が行き渡るように調整する。

 とっても、難しいけれど。


「うん、できるっ!」


 ひとところに停止して焦がさないよう、満遍なく炎を動かす。

 やがてあたりにただよいはじめた、パンの焼けるいい匂い。


「よしっ」


 最後のパンを焼き上げ、シーラが額の汗を拭うと、サラサがパチパチと拍手した。

「いい感じ。シーラ、本当に魔力操作が上達したね。別人みたいだ」


 褒められて、もちろん悪い気はしない。

「でっしょお? 本気出したらこんなものよ! アランたち! こっちも配ってくれる?」


 呼ばれてとっとこやってきたアランが、目を輝かせた。

「て……シーラ様はすごいね、あったかいパンなんて、いつぶりだろう」




 あたたかいスープに、香ばしいパン。

 ザロ特製、絶妙な焼き加減のステーキ。

 デザートのマシュマロまで、皆で美味しくいただいた。


 シーラはゆっくりと、談笑するひとたちを見渡した。

 椅子などないので、皆地面に座って過ごす。

 その顔は一様に、人心地がついたように、ほころんでいた。


「よかったわね」


「僕たちも役にたてたね」


 同じことを思っていたのか、となりでサラサが頷いた。


 


 片付けを手伝っていると、シーラよりもっと小さな女の子が走ってきた。


「あっ、あの、ありがとう! おはなしにでてくる、おしろのおりょうりみたいだった!」


「ふふ、ザロのお料理は格別でしょ? でも皆が手伝ってくれたから、食べられたのよ。ありがとう」


 シーラが笑いかけると、少女は顔を真っ赤にして、いそいそとポケットから紐のついた塊をとりだした。

「こっ、これ、おれいなの」


「あっ、こら、リズ。そんなガラクタ」


 少女を追いかけてきたアランが、ポリポリと頭をかいた。


「シーラ様は姫さまなんだから。もっといいものいっぱいもってるよ、って言ったんだけど」


「どれ、見せて? 綺麗ね」

 シーラはしゃがみ、リズと目線を同じにして、手もとをのぞきこんだ。


 宝石、の、原石だろうか。

 黒く輝く石に、裂いた布でつくったループ状のひも。 

 リズお手製のネックレス、なのだろう。


「この石、ひろったの。きれいでしょ?」


「シーラ」


 心配そうに口を挟んだサラサを、シーラは目線と笑顔で制止した。


「ありがとう。ねぇ、リズ。この綺麗な石はどこで拾ったの?」


「えっとね、山ふたつむこうの、がけちかくの草っぱらのほう」




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