◇28
キオがちらりと、包みの端っこをもったいぶりながらめくる。
「こっ、この白くてぷにぷにしたコは……!」
「はあ、マシュマロですな」
「キオ、マシュマロ知ってるの?!」
このおやつはケイトの店でも未発売だから、屋敷内でもまだ知ってる人間は限られている。
キオは珍しく焦った様子で咳払いをした。
「ん゛んっ! ケイトさんから、聞きましたんでね、ほら、大切なお荷物の事は知っとかんと」
(本当かしら)
隠し事の匂いがプンプンするけれど、いまはそれどころじゃないのだ。
「……────まぁいいわ、デザートまで大事にしまっておいて。あなたも、手伝ってくれるんでしょ?」
キオは意外そうにシーラを見て、にっこりと笑った。
「承知しました」
(何よ、普通の笑い方もできるんじゃない)
今の笑い方は胡散臭くなかったわね、と、シーラは思った。
(いつもそうやってればいいのに)
◇
「ねぇ、さっきの男の子は?」
シーラが問いかけると、恰幅の良いご婦人は汗を拭いて顔を上げた。
「アランかい? いま、火おこし用の枝を集めてるよ」
「ちょうどいいわね。ありがとう」
礼を言って、シーラはサラサのもとに駆け寄った。
「サラサ!」
「うん」
「アランに言って、子供たちを集めて。動ける子だけね。皆でかまどを作る手伝いをしてもらうわ」
「了解、探してくるよ」
しばらくして、サラサたちが戻ってきた。子供たちも一緒だ。10人はいる。皆持てるだけの枝を集めてきたらしい。
「かわいた木を選んで、こういうふうに、空気が入るように積んでくれる?」
シーラが見本を見せると、子供たちは仕事をもらったのが嬉しいのか、きらきらとした目で頷いた。
「わかった」
「着火は私たちがするから」
「うん。消し炭にしないように気をつけようね」
サラサが不穏な事をぽろっとこぼす。
口に出したら本当になりそうだから、やめてほしい。
「大丈夫よ、たぶん」
「そうだね。でも、子供たちは避難させようね」
「もちろんよ」
(あ、そうだ)
と、シーラはひらめいた。
「着火前に、かまどの土台部分を作っちゃいましょう。私の土魔法でつくれば、多少の衝撃じゃ崩れないわ」
魔法の微調節もずいぶんと上手くなったし、消し炭にする事はないけれど、念には念をだ。
「サラサ、魔力をお願い」
「はいよ」
ボールでも寄越すような気軽さで、サラサは魔力を放った。
光の玉のようなそれは、スピードをあげてシーラへと飛ぶ。
シーラはそれをキャッチボールのように手のひらで捕まえた。
シュン、と魔力が消える。
子供たちが手品を見るように目を丸くして、おおっ!と声をあげた。
シーラはとらえた魔力の一部分を再錬成して、土魔法で半球のかまどを作った。
てっぺんと、正面に穴をあける。
威力のある魔法だけが魔法じゃない。
ふたりの特訓の成果はこんなところでも役立つのだ。
ついでに残った魔力で、かまどの中の枝木をしっかり乾燥させておいた。
これをあと三つくらい作ればいい。
さて解体の方はどうかなと見やった先に、見慣れた笑顔がいた。
「ザロ!」
「おうおう、やってるな! 見てたよ、嬢ちゃん、魔法が上手くなったじゃないか! よし、今日はごちそうだ! 屋敷でいちばんデカい鉄板も持ってきたぞ」
頼もしい料理長は、自分より大きな鉄板を軽々と持ち上げた。
「わーい♡」
「こっちも終わったよ」
「白おじ!」
「危険な状態の人はいない。怪我人は治療済み。あとは休息と栄養だな」
「よし、俺の出番ってわけだな! 解体の済んだ肉からどんどん運んできてくれ!」




