◇22
「元上司の気配、しますねぇ」
キオはそう言ってしゃがみ込み、枯れた下草をつまみあげた。
泉も沼も、水辺と呼べるものは、もう、ない。
その場にあるのは、命を失った植物と、骨になった動物の死骸だけだ。
白は変わらず厳しい顔だ。
「……そうか、封印は簡単に解けるものではないと思ったが」
パンパンと手を払って、キオが立ち上がる。
「本体かどうかはわかりません。あのレベルになると、あちこちに眷属はいますさかい」
「……この地に現れたのは、偶然だろうか」
考え込む白に、キオは首をひねる。
「いまさら仇打ちでっか? どうでしょうね? あの元上司に心酔するような物好きに、心当たりはありませんな。まぁ、オレが知らんだけかもしれへんけど」
「見張りを強化しておこう。二度と、この国土を戦場にはさせん」
キオはははっと笑って、細めた目で白を見やる。
「あんたも変わった魔物やなぁ。人間より人間らしいわ」
「そんな我を受け入れてくれる人たちがいたからね」
ふふっと笑って、白は言う。
「ずいぶんと、居心地の良い場所を得てしまった。……情もわくというものだ」
◇
プラシノの能力で、スマラグドスの屋敷へと転移した。
「おかえりなさい!」
白は、かけよってきたシーラを受け止める。
「ただいま。いい匂いがする」
プラシノも白の肩の上で鼻をひくひくさせている。
「絶対うめぇじゃん、このニオイ。白、さっさと報告すませよーぜ」
キオとは、転移前に別れた。
「ふっふっふ。でしょお? 今日はレフちゃん監修の麺料理よ! 焼き料理もあるわよ!」
小さな体をふんぞりかえらせて、シーラが得意げに言う。
白はシーラの頭を撫でて、にこりと笑う。
「楽しみだな。じゃあ先に報告を済ませてくるよ。カーラ、一緒にいいかい?」
「ええ」
エプロンを外して、カーラはシーラの前にしゃがむ。
「あとはお願いね」
「任されたわ!」
「頼もしいわね」
シーラの頭を撫でてから、カーラは白とプラシノとともに厨房から出て行った。
よし、と、レフが立ち上がって、指示を再開する。
「じゃあトッピングを用意しましょうか。シーラ、そこの緑の細い野菜を細かく切れる?」
「りょーかい!」




