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「シーラ! 待たせたわね」
「レフちゃん!」
ふかふかの毛皮にぎゅううとしがみつく。
琥珀色の毛並みだから、琥珀狐っていうのだって。
琥珀狐のレフちゃんはママのお友達。ふつうの琥珀狐はしゃべったりできないけれど、レフちゃんは特別なの。
ん〜。綺麗好きなレフちゃんはいつも石鹸とお日さまの匂いがする。
心ゆくまですーはーと吸い込んで、ぱっと顔を上げた。
「エリアスと屋台に行くの。レフちゃんも一緒が良い」
レフちゃんはすぐに尻尾をふって答えてくれた、
「いいわよ。今日の打ち合わせはもう終わったから。私も市場調査したかったし」
「またお店増やすの?」
「ふふふ。そうなの、今度は立ち飲みって言ってね、庶民派のお酒の飲めるお店をね……」
なぁんだ。子供は入れないお店か。つまんない。
シーラの気持ちが伝わったのか、レフちゃんは前足をシーラの手にのっけた。
「次のお祭りには屋台も出しましょうね。ボールとかおもちゃを掬うゲームとか面白いのよ!」
「やる! 絶対よ」
「約束」
「約束ね」
「お待たせしました」
そう言って現れたのは、背が高くて赤茶色の髪の毛の男の人。優しい目は紫色で、同じ色のピアスをしている。このひとが、エリアスだ。
「エリアス、レフちゃんと街に行きたいの。護衛をお願いできる?」
「ロナルド殿から聞いております。馬車の手配もしておきました」
「ありがとう」
「よろしくね」
「ついでにプラシノも呼ぼうか。このあいだ話した時、街に行きたがってたし」
そう言って、レフちゃんは目を瞑った。
「わーい! 呼ぼう呼ぼう」
レフちゃんとプラシノちゃんーー森の精霊であり、森の次期首長だーーは、いつでも念話で話せるんだって。
親友をこえたお友達って感じで、うらやましい。
シーラもそんなふうに皆と繋がってみたいけど、パパゆずりの魔力の性質のせいで、繊細な魔力操作は苦手なのだ。
パパゆずりの金色の髪も空色の目も気に入ってはいるけれど、魔力だけはママに似たかったなと、誰にも聞こえないため息をひとつ落とした。