表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

◇19

「ーー10秒で来るぞ」


 大人の姿になったプラちゃんが、険しい顔で言った。


 皆のまわりにはプラちゃんの結界も張ってあるし、レフちゃんの大事な毛は肌着の中に仕舞った。

 大丈夫。シーラならできる。

 だって、パパとママの子供だもの。


「初撃をさばけ。絶対にシーラに怪我ひとつさせるな」

 プラちゃんの言葉に、レフちゃんの体にも力が入る。


 目を閉じて深呼吸する。

 何もできなきゃ、ただのお荷物だ。でも、きっと、シーラにしかできないことがある。


 シーラの勘は、よく当たるわね。ママもそう言っていたし。


 目を開けた瞬間、地面がぐにゃりと歪んだ。


 次の瞬間には、結界ごと全員空に浮いていた。


 プラちゃんだ。さすがの反応速度。こんな時だけれど、あこがれちゃう。


 さっきまで立っていた地面にはぽっかりと穴が空き、ゴポゴポと泡をたてながら、暗い色をした水が湧いている。


「なんの魔物だ? ありゃ」

 と、プラちゃんの声。

「こんな動き、見たことないわ」

 と、レフちゃん。

「僕も、わかりません。たしかに、敵意は感じないけど……」

 と、サラサ。なんだか歯切れが悪い。


 どうやら、地面の液状化は攻撃ではなかったらしい。

 地中を移動した先に浮上すると、ああなってしまうのかしら。


 水の中から、何者かの視線を感じる。


 シーラは目を細めて、その目を探した。


 水面が揺らぐ。水の奥から伝わるのは、覚えのある感情。

 ああ、これはーー


「サラサと一緒だ」


「えっ」

 サラサが嫌そうに顔をしかめる。

「竜種ってこと?」


「ああ、そうじゃなくてーーはじめてサラサに会った時を思い出したの。この子も怖がってるわ。迷子の子供みたいに」

「僕は怖がってもいないし、迷子でもなかったけどね」

 と、小声でぶつぶつとこぼす。


「ごめんごめん。そんなふうに感じたの。居場所のない子供みたいな、不安というか」

「それなら、まぁ……」

 と言いつつも、納得はしていなさそうだ。

 竜種はプライドが高いのかしら。


「プラちゃん。穴の近くに結界を運んでくれる? あの子と話したい」

「わかった」

 ゆっくりと、水たまりのそばに降り立つ。

 

 ざわっと、水面が揺れた。


 この子がここに来たのは偶然なのか、それともシーラと引き合ったのか。

 確かめなければ。


「怖くないよ。ねぇ、私の言葉はわかる? 何か困っているのではない?」


 そろそろと、迷いが捨てきれないようにゆっくりと、それは浮上してきた。

 離れたふたつの黒い目が、じっとシーラを見ている。


「はじめまして。こんにちは! 私はシーラよ」

 なるべく明るい顔で、そう声をかけた。


 それは大きな大きな蛙のような姿をしていた。

 つるんとした皮はところどころが黒くまだらになっている。

 もともとの模様だろうか。それにしては、なんだか嫌な感じもする。


「私のところに来たのは偶然?」


「わからない。強い魔力から逃げてきた。そしたら、こっち、だと思った。だから」

 もごもごと、蛙は話す。


「そう。困っているの?」


 蛙はこくこくと頷く。

 ぱちゃん、と、水が音を立てて揺れた。


「山の上で、綺麗な池を見つけた。だから入っちゃった。そしたら、それは真っ暗な水になった。たぶん、罠だった。幻覚だったかも。体が黒くなって、嫌な感じがした。でも、おれはまだマシなほうだ」


「他にも誰か、池に入っちゃったの?」


「大きな荷物を持ったにんげんの女が、その水を飲んだ。たぶん、おれとおなじ、綺麗な水だと思ったんだと思う。止めようとしたけど、おれの姿を見せたら驚くと思って、迷っている間に飲んでしまった。女は様子がおかしくなった。おれ、おれは毒があまり効かない。毒を吸い取るスキルもある。だから、何とかして治せるんじゃないかと思って、こっそりあとを追った。女の家に道をつなげて、眠らせて治療しようとした。でも、ただの毒とは違うみたいだった。呪いみたいなものかもしれない。いくら吸い取ろうとしても、少しだけマシになるだけで、なかなか治らなかった。ほかの人間は、そのあいだに女の家にやってきて、おれを見たから閉じ込めた。女が治ったら、みんなを逃しておれはひとりで逃げるつもりだった。でも」


「でも?」


「大きな魔力が近づいてきた。何かわからなかったけど、見つかったらやられるかもしれないと思って、怖くなって、ひとりで逃げた」


「それで、今なのね」


「嬢ちゃんの魔力なのかな、こっちはあたたかくて、光って見えた。だからこっちに引かれたんだ」


「うん、それなら僕も覚えがある」

 と、サラサが言う。

「そうなの?」

 シーラが聞きかえすと、サラサは頷く。

「うん」


「何だか照れるわね」

 やっぱり私の魅力がーー。


「トラブルに巻き込まれやすい、とも言えるけどね。僕が言うのも何だけど。話の通じるやつばかりとは限らないから、気をつけてね」

 トラブルメーカーみたいに言うじゃない? じっさい、そうなのかしら。

「うっ。わかったわ……」


「シーラ。その魔力って」

 何かずっと考えこんでいた、レフちゃんが言う。

 言いたいことはシーラにもわかる。近づいてきた大きな魔力の正体だ。


「そうね、話を戻すわね。うん、レフちゃん。きっと、それは、白おじよねーー」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ