表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/30

◇17

 (ハク)がその敷地に足を踏み入れた瞬間、ぞわりとねばついた空気が足元から這い上がってくる感覚があった。


 白が探していたものーー魔物の気配。

 その魔力の、残滓のようなものだった。

 おそらくもう本体はこの村にいないだろう。

 しかし行方不明の人々は、まだこの家にいるかもしれない。


 村のまわりに、魔物の侵入を防ぐ結界を張る。

 これで本体が戻ってきても、危害を加えられる心配は無いだろう。


「あなた方はここにいてください」


 そう言い置いて、扉を壊す。


 その場は騎士たちがうまくやるだろう。

 白は家の中に残された気配のより濃い方へと、急ぎ進む。

 



 寝室だろうか。

 部屋の中にできた、大きな穴。そこには小さな池のような水たまりがあった。

 

「ふむ」


 水の近くに住む魔物だろうか。

 少し生臭いような匂いが、残っていた。


「この部屋には、生き物はいないな」


 水たまりを避け壁沿いを移動し、隣の部屋につながる扉をあける。


「大丈夫か」

 小走りに駆け寄った先には、特に顔色の悪い初老の女性、痩せぎすの老人、中年の男女と寄り添うように倒れた、少年ふたり。

 聞いていた人数とは合致する。

 毒の匂いはしない。脈はある。初老の女性以外はただ眠っているようだったが、念のため全員に回復魔法をかける。

 初老の女性も、幾分、顔色が良くなった。


「う、ううん……」


 最初に目を開けたのは小さなほうの少年だった。

 人間の年齢はよくわからないけれど、子供といっても差し支え無さそうだ。


「話せるか? 具合は? 何か覚えているか?」

 ゆっくりと問いかけると、徐々にその目が焦点を結んだ。

 上体を起こし、白を見る。

「えっとーー神様ーー? おれ、死んだの?」

「神になった覚えはないが」

 人間でもないがな、と、心の中で付け足す。


「おれ、生きてるーー?」

 そうだーーと、少年は急に目を見開いた。

「化け物、化け物に閉じ込められたんだ」

「危害は加えられたか? 見たところ外傷はなかったようだが」

「それは……いや」


「あいつは、俺たちをどうこうする気はなかったかもしれない」

 別の声が言った。

 白が振り返ると、中年の男が起き上がっていた。


「起きたか。ーーロズ?」

「ああ」

 中年の男ーーロズは気だるそうに頭に手をやって、白を見た。

「果物ばかりだったが、食事も運んできた。言葉は通じなかった。だか敵意は感じなかった」

「そうか」


「あいつは?」

「我がきた時にはもういなかった」


 あるいは、自分よりも強い魔物の気配をーー白の気配を察して、逃げたのかもしれなかった。


「姿は? 覚えているか」

 白の問いに、ロズと息子は答えようとしてーー当惑した表情になる。

「あ、ああ、えっと……あれ?」

「どんなのだっけ……暗くて……大きくて……」


 幻惑だろうか。証言に期待はできなさそうだった。


「ああ、大丈夫だよ。わかる範囲で。ーーこの村には結界をはった。数日はもつだろう。他の家に移って体を休めてくれ。その間に、我々が対処にあたろう」




「今日はもう遅い。村に滞在してください」

 村長の厚意で、空き家を白たちに融通してくれた。

 村の女たちが手慣れた様子で食事や寝床を整えてくれる。

 村人が下がった後、騎士たちと食事をとり、それぞれあてがわれた客間に分かれた。


(我一人であれば、夜道も問題はないのだが)


 万が一、村に何があった時、姿が見えないと後々問題になりそうだ。

 今日は大人しく、朝まで村に引っ込むことにした。


 そう決めたちょうどその時、腰に下げたコンパクト型の通信具が光った。

 鏡に魔力を通した魔道具で、同じものを持つ相手と離れていても通話ができる。


 白が通信具を開くと、そこには友人たちの一人娘ーーシーラの顔が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ