◇14
おおっーー
と、集まった村人からざわめきが起こった。
「研究所の長殿が自ら来ていただくとは、誠にありがたい事でございます。それで、異変ということですが……騎士団ではなく研究所が主導で動かれるということは、もしや疫病の疑いが……?」
副村長の顔にあらわれた不安が、いっそう濃くなる。
白は一瞬、驚いたような顔をした。
「ああ、いや。当初、我にきた依頼は、調査におもむく騎士たちに加護の魔道具を融通してくれというものだったのだがーー。我が同行した方が確実ゆえ、来ることにしただけだよ。いまは研究所も人手が増え、数日の間、我がおらずとも問題はないのでね」
「なるほど、そうでしたかーー。ありがとうございます」
「して、早速だが、副村長殿が把握しておられる村の異変の話を、聞かせていただけるかな? 何でも良い、小さなことでも漏らさず教えてくれ」
「わかりました。まずは私の自宅へいらしてくださいーー」
そういうことになった。
副村長の自宅で、副村長と白がテーブルに向かい合って座っている。
白の後ろには騎士たちが控えていた。
副村長夫人が、ふたりの前に紅茶を置く。
村人たちは皆、庭で待機していた。
「そうだな、最初に副領主殿の話をしておこうか」
そう、白が口火を切った。
「はい。まさかこちらからご報告する前に動いていただけるとは、夢にも思わず……」
副村長は手拭いで汗を拭く。
しかも、副領主自らの指示という話なのだ。
小さな村の動向など、末端の役人に気をかけてもらえるだけでもありがたい話だというのに。
「この村は仕事に真面目で、近年の記録では納品が遅れたことなどなかった。それなのにここ数日、納品がなく、さらに遅延の連絡もない。いいかげんな事をする人たちではないから、これは村に何かあったのだろうと心配されていたよ」
「なんと……!」
白の言葉に、神に祈りそうな勢いで、副村長は手を合わせる。
「その信頼は皆の努力の賜物でございます。まさか公爵家の方々が見ていてくださったなんて……」
副村長はすぐに重大な事に気づき、はっと顔を上げた。
「やはり、納品が滞っていたのですね」
「そちらでは把握していなかったのか?」
「納品担当の者がーー、一家全員、連絡が取れないのです。通常、体調や家の都合で納品が出来ない場合、代わりの者に連絡が行きます。しかし今回はそれもなく、上役である村長まで行方知れずで……」
白の表情が、少し厳しくなる。
「わかった。まずは村の見取り図を。今時点でわかっている分だけで良い、連絡がとれない家に印をつけてくれ」
「わかりました。外に待機している者にも聞き取りを行います」
◇
「村長、ロズ一家、タラさんーーここは女性のひとり暮らしです。皆ここ二日ほど、誰も姿を見ておりません」
と、副村長が申告する。
ふむ、と、話を聞いた白は頷いた。
「皆、近い場所にかたまっているのだな」
「や、やはり疫病の類でしょうか」
副村長の問いに、白は首を傾げた。
「失踪する疫病というのも、おかしな話だ。どちらかというと、魔物の仕業の可能性のほうが高いのでは。私どもがそれぞれの家をあらためさせていただく。その後、判断するとしよう」