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◇13

「タモの村の様子がおかしい?」

 コランの書斎ーー

 書類から顔を上げ問い返した夫に、カーラは頷く。

「ええ、あの規模の村にしては、出荷管理のきっちりとした村でね、納品が遅れた事なんてなかったのよ」

「タモというとーー薬の原料にもなる葉茎菜類も栽培している村か」

 ふむ、と、コランは熟考して顎をさする。

「薬草の流通が滞ると困るな。村人の様子も一度見ておいた方が良さそうだ」

「騎士団から数名を派遣しましょうか」

「ああ。頼む。念のため、加護の魔道具をーー」

「ええ。研究所に融通してもらうように頼むわ。何事もなければ、良いのだけど」



          ◇



「タラさん、今日は家にいたかい?」

 妻に聞かれて、農夫は首を振る。

 渡せずに持ち帰った、握り飯の入った容器を、机に置いた。

「いや、留守みたいだ。倒れてるんじゃないかと窓から覗いたけど、いなかったよ」

「また山むこうの娘さんのところに行ったんじゃ?」

「何日も空けずにか? それも変な話だなぁ……」

「まぁ、また明日見に行ってみたら良いよ。それで会えなかったら村長の耳に入れよう」

「そうだな」



 ……………………

 ………………



「村長もいない?」

 農夫は耳を疑った。

「ああ、昨日も用があって訪ねたんだが、朝も夜も留守だったよ」

 そう言った村人以外にも、話を聞きつけた数名が集まっていた。

 皆一様に不安げな顔をしてしいる。

「どうなってるんだ?」


「副村長は何も聞いていないらしい」

「そういえば、わしの隣のロズ一家もここ数日姿を見ていないぞ……毎朝家の前を掃除していた奥さんも」

「ロズのところは作物の運搬を担当しているだろう。領主さまへの納品は滞りなくできているのか?」

「その采配は村長がやっていたから、わしは何とも……」

 副村長は白い髭をさすりながら、細い声で言う。


 何か、不気味なものがこの村に迫っている気がして、農夫はぶるりと体をふるわせた。

 少しの沈黙のあと、誰かが口火を切った。


「なぁ、領主さまにご報告したほうが良いんじゃないのか」




「その必要はない」

 

 突然の予期せぬ返答に、場の皆が注目する。


「はて、どなたかな。いつの間にいらしたのか……」

 当惑した副村長の声とは反対に、その白髪の男は毅然とした声でいう。

「失礼、自己紹介が遅れたな。我は(ハク)と申す」


 静かな話し方で、声量は小さい方だと思うのだが、不思議とよく通る声だった。

 長い白髪は肩のあたりでゆるく結われている。

 日に当たったことがあるのかと疑いたくなるくらい白い肌。対照的な赤い唇も相まって、怪しげな美しさをかもしていた。


 はて、幽霊か魔物かと疑いたくなる人間ばなれした容貌だが、しかし身につけている服装は上等そうな白シャツに深緑色のパンツ。そしてローブという、しごく人間らしいものだった。


 男の後ろには、スマラグドスの騎士と思しき鎧を着た者が数名、控えている。

 ただの護衛にしては、ものものしい装備だ。


「あっ」

 と、誰かの声が漏れた。


 農夫は気づいた。きっと、声の主もこれに目が留まったのだ。


 ハクと名乗った男の胸につけられた胸章の紋ーー狐と植物が模された紋に、三つの星ーーそれはスマラグドスの幹部である事を示していた。


 副村長が村を代表して前に出た。深く一礼をして、挨拶をする。

「失礼をいたしました。副村長のロジと申します。失礼ながら、ハク殿はスマラグドスの将軍どのでございましょうか」


「いや、我は軍人ではない。公爵家研究所の管理者である。この村に何か異変が起きているようだから調べてほしいと、副領主よりの依頼で来た」

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