◇11
「おっ……っと」
ブラウンボアから飛んできた岩をよける。
岩は後ろの木に当たり、メキメキとめり込んだ。
サラサは思わず、呟いていた。
「ブラウンボアって、こんなに魔力が強かった……?」
サラサの記憶では、天敵に対する目潰しが目的というか、人間が泥団子を投げる程度の威力しかなかった気がするのだけれど。
(大陸かわれば、生き物も変わる? に、したって)
カーラもそうだけれど、この土地は魔力の大きいものが生まれやすいらしい。
土地の力によるものなのだろうか。
「これを100匹かぁ。軽く言ってくれるよ」
20匹くらい倒した今で、なかなかの運動量。背中にじんわり汗をかいている。
「サラサ!」
シーラの声が響いた。
気を抜いたところを後ろから狙われたらしい。
シーラが岩を吸い取って、炎にしてお返しした。
直撃したブラウンボアは、一瞬にして丸焼きになる。
「ごめん、ありがとう」
プラシノの結界で怪我はしないとはいえ、当たったら痛そうだ。助かった。
シーラは自分の事を弱いと言うけれど、比較対象がおかしいということはよく分かった。
(まわりの人間がすごすぎて、自信をなくすパターンだな)
しかし、シーラも普通に考えたら十二分に戦力になる。
子供なのに戦力になる。その時点でおかしいのだ。
プラシノは木の上から、シーラたちの結界の保持と、とばっちり魔法による森の延焼や破壊を防いでいる。
レフは少し離れたところで成り行きを見ているけれど、時々、危ない場面に飛び入ってはシーラやサラサの手助けをした。
あんなに小さな前足なのに、レフの爪の一撃で、ひときわ大きなボアが倒れた。
風魔法をのせているらしい。
(あと80匹弱くらい?)
少し、新手の出てくるスピードが遅くなった。ひとつの群れが駆除し終わったのだろうか。
もう少ししたら移動したほうが、効率が良いかもしれない。
カーラとコランは、もっと厄介なやつが出たらしいから、そっちを仕留めてから合流すると言って別れた。
(領地を守るって、地味な仕事の積み重ねなんだな)
まさか副領主と夫人自ら魔物討伐とは思わなかった。
この大陸がそうなのか、この領地が特殊なのかはわからないけど。
◇
「終わったぁー!」
草の上に仰向けに倒れ込む。
たぶん100は超えた。と、思う。
何度か移動したけれど、もう新手が出てこないということは、一帯のボアは狩り尽くしたのだろう。
「レフちゃん! 飲み物お願い!」
「はいよ〜」
レフが四角い箱から瓶に入った飲み物を取り出す。
シーラがそれを受け取り、サラサにもくれた。
「仕事のあとの一杯! おいしいよ!」
「ありがとう」
透明の飲み物だ。蓋を外して、ごくりとひとくち。
「ーー!? ッゴホッ」
口の中にいきなりシュワっとした泡がはじけて、驚いてむせてしまった。
びっくりしたけれど、清涼感のある甘さが疲れた体に心地よい。
「何これ?」
「サイダー。美味しいでしょお」
わかってて黙っていたのだな。
にししと笑うシーラの顔が、いたずらっ子の見本のようだ。
「お疲れ様〜!」
どこかで見ていたのだろうか。夫妻がやってきた。
汚れひとつない夫妻の姿と、汗と泥まみれの自分の姿をみて、力量の差を思い知る。
「がんばったわね!」
カーラがシーラとサラサの髪をわしゃわしゃと撫でる。
遠慮のなさが本当のお母さんみたいで、少し嬉しかった。