◇10
コランが何を言ったのか、風の音で聞き取れなかった。
わかったのは、サラサの竜巻が立ち消えたということだけ。
「えっ? はっ? なんで?!」
「これが私の能力だよ。訓練に最適だろう? いつも付き合えるわけでは無いけどね」
「見ればわかる、か。はぁー……」
サラサの心配は杞憂だったというわけか。
「パパもなかなかやるでしょう?」
「うん。シーラのパパ、すごいね」
「へへ」
「サラサもなかなかの威力だったわよ。じゃあ次は、シーラの力の説明をしましょうか」
と、カーラが真面目な顔で言った。
「カーラの力と私の力を引き継いだシーラは、特殊な力の発現をしてね。自分自身の魔力がそんなに多くないところは私と同じなんだ。そして、シーラの能力はーー相手の力を吸い込んで、変換して放出する」
コランの言葉をすぐに理解できず、サラサは問い返した。
「吸い込んでっていうのは、さっきみたいに消えるっていうこと?」
「そうだ」
「どんなに大きな力でも?」
「さっきのくらいならいけるかな。ママの全力の魔法は、まだ試した事がないから、わからない」
横からそう言ったのはシーラ自身だ。
「変換っていうのは、どんなふうに?」
「最適と思われる魔法に変換する。属性はいろいろだ。まぁ、シーラのさじ加減ひとつだな」
「たとえば火魔法を使う魔物には水魔法に変換してお返しする、みたいな感じ。物理攻撃をしてくる魔物には何もできないから、森に出かけるときなんかは護衛が必須なのよね……」
そう言って、シーラは小さな唇をとがらせた。
「ママみたいに強かったらよかった」
「シーラ。あなたのママとくらべたら、全人類が弱いから」
「そうだよ、匹敵するのはコランの姉ちゃんくらいだろ」
レフとプラシノが口々に言う。
「そんなに強い人が、まだいるんだね……」
シーラと初めて会ったあの時、下手に暴れなくてよかったとサラサは思った。
追手を振り切るためなら多少の戦闘は覚悟していたが、害意ある魔物と認識され討伐されていた可能性もあったのだ。
「あとは、そうねぇ。特性上、毒とかそういう魔法は吸い込ませないように注意しているわ。説明はそれくらいかしら。あとは実践あるのみだから、試しに狩りをやってみる?」
カーラの言葉に、サラサはどうしようかとシーラを見た。
その目がきらきらと輝いていて、ああやるんだねと頷いた。
「最近、ブラウンボアが増えすぎて植物を食べ尽くされるって苦情が領民から上がってきていたのよね。ブラウンボアは、土魔法も使うから、シーラの練習にもちょうどいいのではないかしら。皆で100匹ほど、お願いできる? 回収は、こちらでするから♡」
にこにこと言うカーラ。ただの訓練で終わらず、実利をとるのはさすがである。
「よし、俺がいるから安心しろ、我が弟子ども!」
謎にテンションが上がっているプラシノ。最初に会った時にそんな事を言っていたけど、やっぱり弟子にされていたのか。というか、シーラまでカウントされている。
「私もいるから、安心してね」
と、レフ。
「はい、がんばります!」
「がんばろうね、サラサ!」
ブラウンボアは故郷にもいた。比較的狩りやすい魔物だ。数だけなら楽勝だーー。そう、サラサは思っていた。