◇1
私には家族がいっぱいいる。
みんな大好きだけれど、最近はちょっと、みんな、小言が多すぎる。
遠くに行きすぎだとか、ひとりで森に行くなだとか、つまみぐいは良くないわだとか。
かわいいこには、旅をさせろと言うのだし。
人目を忍んだお味見こそ、最高のひと口だし。
もう来月には8歳になるのだから、ちょっとばかし目をつむって、ほおっておいてくれたら良いのに。
まったく、過保護なんだから。
ぷりぷりしながら廊下を歩いていたら、棒……じゃなくて、人間にぶつかった。
「ぶにゃん」
尻餅をつきそうな寸前に、ひょいと持ち上げられた。
「廊下ではちゃんと前を見るんだぞ〜。シーラ」
「ロニーおじ!」
敬愛の気持ちを込めて、ぎゅううと首に抱きつく。
これはロニーおじ。ママのお兄ちゃんだ。
優しい翠色の目も、お月さまの色の髪も、ママとお揃い。
「だって、ママたちがうるさいんだもの。今日だって、ぶとうかいに行きたかったのに、屋敷を出るところで見つかって止められちゃった!」
ロニーおじは首を傾げた。
「うん〜? 今日催される舞踏会なんて、あったか?」
「ちがうわ、ぶとうかい! 街外れのコロッセオでやってるのよ!」
「し、シーラちゃんよ。あれは子供の行くところじゃないぞ〜」
ロニーおじの顔がひきつる。どこからそんな情報を、と呟いている。決まっているじゃない、お忍びで街歩きをしていたら聞こえたのだし。
「しゃかいべんきょうよ!」
「そういう言葉はよく覚えるんだよなぁ……」
くいくいっと、みみたぶをひっぱる。大事なことだから聞いておかないと。
「ロニーおじは、シーラの味方でしょ?!」
「うん、もちろんだとも! でもね、シーラ。もしシーラが喧嘩に巻き込まれたりして怪我でもしたら、ママたちが心配するだろう? まだ子供なんだから、危険な場所には近づかない事だ」
またそれだ。こどもあつかいはうんざりなのに。
「こどもだからじゃなくて、シーラが出来損ないだからでしょ……」
知ってるもん。ママが子供の頃は、森が遊び場だったって。ママは小さい時から強かったから。
でも、シーラは……弱いから……。
「出来損ないなもんか! みんなシーラのことが大好きなんだよ」
ごしごしと袖で目をこすって、ロニーおじに言ってやるの。これでも譲歩してあげたんだから!
「じゃあエリアスを呼んで。屋台めぐりでがまんするから」
エリアスはシーラの護衛だ。ふだんは別のお仕事をしているのだけど、シーラの護衛は最重要任務だから、どんなお仕事よりも優先されるのだ。
「わかったよ。伝令を飛ばそう」
「あと、レフちゃんも一緒がいい。ママのご用事は、もう終わる頃でしょう?」