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( ᐙ )短編小説( ᐙ )

女の影と嘘は四月一日以降

作者: 迷迷迷迷

 ヨダカさんは恋人であるエリザさんに土下座をしていた。

  見事な土下座である。

  なぜそのような、人間が数多く所有する謝罪の方法のうちでかなり上位に屈辱的なやり方を選んでいいるのか、についてなのだが……。


「絶対浮気なんてしていないんだって!!」


  どうやらヨダカは恋人が浮気を疑ったことについて、必死に弁明をしているようである。


  しかし恋人のエリザは平坦な表情をしたままだった。

  むしろ相手への失望感さえ滲んでいる視線。

  そのままで、「どうでもいいのよ」と投げやりなセリフを吐き出している。


「あなたがまさかそこまで鈍感だったとは思わなかったわ」


  エリザは恋人に失望している。

  そして相手を心の底から信頼しきっていた過去の自分自信に絶望している。


「服装からプレゼントの趣味から何から何まで……全部が全部丸ごと、女の趣味を知り尽くしたようなやつだから、だから前々から絶対童貞ではないとは思ってたけれど」


  初対面の時の、飲みの席での下ネタ盛り上がりが今となっては立派な黒歴史である。


  この期に及んでまだ同定という名前の身の潔白具合を主張してくる相手を軽く無視。

  それよりも、エリザは決定的な証拠を相手に見せつける。


「それじゃあ、この下着はなんなのよ!」


  エリザの手に握りしめられているそれは女物の下着。

  しかも使用済みであることが、まあ……その、いろいろと察せられる下着。

  着用していたのを今すぐ洗濯カゴに入れようとして、しかし酔いが冷めきらぬうちにベッドの上にうっかり放置してしまったもの。


「まさかノーパンだったの?!」


  既知の間柄の痴態を想像したくなくて、エリザは必死に頭を振る。


  その様子を自分への失望へと思い込んだ、ヨダカはいよいよ相手を組み敷かんばかりの勢いで詰め寄る。


「ぼくがうそついたのは、悪かったから!」

「ええ、ええ、ええ!」


  嘘であること。

  嘘をついて、自分を騙したことを、エリザは恋人に向けて責め立てる。


「良くも騙したわね!」


  下着姿の、恋人を責める。


「この嘘つき女!!」


「違うんだって!」


  ヨダカは動揺する。

  同様のあまり、身につけているシンデレラカップサイズの可愛らしいフリルのブラジャーの左肩紐がずり落ちている。


「嘘ついてないもん!」

  ヨダカはまるで子供のようにすねる。

  お下げにまとめている髪型とまとめると、まるでロリっ子の如しである。

「だって僕童貞だもん」

「当たり前でしょうが!」


  逆に叱られてヨダカはしゅんとしてしまう。

  恋人に使用済みのセクシー勝負パンツを握りしめられていることも、ますます惨めな気持ちになる。


「別れなくちゃいけない?」


  嘘をついて相手を騙した。

  この場合は性別、についてである。


「そう、ね」


  エリザは少しだけ考える。

  考えて、まだ夜は始まったばかりだということを思い出す。


  そしてエリザは答えた。


「そうねぇ、この前教えてくれたいかにも女ウケが良さそうなイケメンアイドルのライブ映像でも見ながら、いかにも女が好きそうな甘いお酒を飲んで……」


  そのあとは、ちょうど相手は下着姿なので。

  ふむ、実に丁度が良さそうだ。

  恋人は彼女をだまくらかすことにしたようだ。

  幸いにも夜は始まったばかりだった。

  嘘をつくには十分。

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