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最近雇ったウチの事務員が可愛くて仕方がない。  作者: 火野陽登《ヒノハル》
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第04話 02月28日~03月07日 

 応募が来ない。


 というか反応がイマイチだ。

 求人に掲載が開始されて、すでに10日。

 ありがたいことに何名かは御応募を頂いたが、いずれも【就業時間】や【就業期間】などの条件が合わなかった。やはり主婦さんには夕方以降の勤務や土曜日勤務が出来ない人も多い。

 ネットと電話の両方から応募を受け付けているが、電話応募に至っては3名しか頂いていない。昨今ではネット応募が主流なので、当然と言えば当然なのだが…。

 だけどウチは小児科医院。整形外科や腎臓内科などのクリニックに比べれば、これでもまだマシだろう。

 すこしでも医療をかじった人間ならば、それらの科は診療報酬算定や保険の取り扱いが難しいことを知っている。

 例えば整形外科はリハビリ用の機器やレセコン、その周辺機器のリース代。シーネ(ギプス)を初めとする固定具に、作業療法士や看護師に掛かる人件費…etc。考えるだけで頭が痛くなりそうだ。



 ※※※



 あれから数日。なんとか3名ほどは面接にお越し下さる約束を取り付け、既に面接も終えた。

 だが実際にお越しになられたのは2名だけで、後の1名は連絡も無しに来なかった。よくあることだが、ショックは大きい。

 しかも、残念ながら面接させて頂いた2名も採用には至らなかった。条件が合わなかった。

 掲載期間も既に折り返し。焦った私は「土曜日や日曜日にも応募があるかもしれない」と休日返上で出勤した。

 出勤と言っても診察を行うわけでもないので、医院近辺や駐車場のゴミ拾い、それに院内の掃除なんかをしていた。

 ただそんな甲斐も無く応募は来なかった。

 クリニックの近くで一人暮らしをしている私にとっては大した手間ではないし、彼女も居ない寂しい独り者の私は、どのみち休日の予定も無かったわけだが…。

 そうして憂鬱なまま再び月曜日が始まった。院長である父は無遠慮に「新しい事務員は決まったか」と尋ねてきた。人の気も知らないで。

 診療開始前の朝礼もそこそこに終えると、私は事務所に戻った。

 ノートPCを開くと、メールが届いていた。掲載情報サイトからの応募通知メールだ。時刻は昨晩の22時。


「……っ!」


早速、私はメールを確認した。だが直後には愕然とする。


「22歳か…」


重々しく放った、その一言に全てを込めていた。

 ネット応募の情報は求職者がどれだけ入力するかに委ねられる。多くは最低限の項目のみで、【氏名】【年齢(生年月日)】【性別】【連絡先】だけだ。だがそれだけでもおおむねの「向き」「不向き」が判る。

 「若い」というのはそれだけ未来がある。それを知ってか知らずか、長く勤めてくれる人が少ない。


「おまけにメールアドレスも書いてないぞ…」


これではメールで面接日の御連絡が出来ない。どころか記載されている電話番号もスマホや携帯電話のそれではなく、市外局番入りの番号だ。おそらく自宅の固定電話だろう。

 私は連絡を入れるか迷った。応募者は企業に個人情報を送ることを恐れているかもしれないが、求人を出している側も怖い。


「でも他に人も居ないし…」


なにより、折角ご応募くださったんだ。この方だけ連絡を入れないのは、クリニックとしても失礼だし私のポリシーに反する。

 私は意を決して、事務所の受話器を上げた。


――プルルル……プルルル……ガチャ…。


『――はい、もしもし』

「あ……お忙しいところ恐れ入ります。こちら、〈つがみ小児科クリニック〉の採用担当でございます。恐れ入りますが――」

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