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第7話 終わったら先に進もう

 倒れたビスカはすぐに発見された。

 ケイト達はリーダーが敵の気配が消えたと言ったのでビスカを探しに来たのだ。そしたら動けずに困っている天使を見つけて拾い上げた。もちろん拾ったのはケイトだ。


「心配したぜ。まぁ、あんだけ出来るなら心配なんていらなかったな。兵士も倒してるみたいだしゆっくり休め」


 ケイトは笑顔で褒めるとすぐに持ち上げようとした。しかし、ビスカがプルプルと震える手でケイトの服を掴んで訴える。

 その口もプルプル震えているが、全力で口と喉を動かす。


「まだ終わってない…みんなを助けずに…終われない…いい人達なのは伝わってる…そんな人達を1人も助けなかったら…絶対に後悔する!」


 最後の言葉に強い意志がこもった。それが残り少ない魔力を絞り出してビスカに最後のチャンスを与える。

 それで何をするつもりか分からないが、ケイトにはこれをやらせた方がいいという直感があった。だから、もう少し地面に降ろしてみんなのことを託すことにした。

 その時のケイトは驚きと困惑で満たされていたが、それよりも期待の方が上回っていた。


「恩を恩で返すんだろ?いいぜ。僕はビスカを信じる」


「ありがとう…じゃあ、初めてばっかしだから失敗しても…許してよ…?」


「僕は許してやるよ。でも、みんなは許さないかもな。だから、逃げ道なんて作らないで本気でやれ。気持ちは曲げるな」


 こう言われたのもビスカは初めてだった。だから、日本にいた頃から言われるわけのないセリフで目を丸くした。

 でも、すぐに笑顔に戻ってふふっと笑った。

 それから片手を天に突き上げてる。


「神様!まだ見てるなら参加しなよ!見てるだけはつまらないでしょ!」


 その言葉に返事はない。でも、ビスカは必ず見てるという確信があった。だから、迷いなく手に魔力を集めて地面に叩きつける。

 そこから土地にわずかだけ残った神の力にエンチャントする。

 それからすぐには反応がなかった。だが、しばらくして地面が光り出した。


「やっぱりまだ居た。さっきので消えてなくてよかったよ」


 その言葉に返事するかのように光が強まる。その光は神の力そのものであり、加護を強化されたことで出来ることが増えたのだろう。

 その光から強い魔力が溢れて街の住人達を包み込む。すると、瀕死になっていた人々も即座に完治させた。さらにビスカを含めた全員の傷もどんどん治っていく。


「これは…神様の加護が強まって命を守ってくださっている!ビスカはこんなことまで出来るのか!まさに希望だ!」


 この声はリーダーのものだ。いつの間にか近くに来ていたらしい。

 彼は勝手に話し続ける。誰も聞きたいなんて言ってない。


「あの方はここに住む者達を絶対に死なせない。そんな加護をお与えになった。つまり、あんな奴らに襲われても瀕死で済むのだ。しかし、血を失えば普通に逝ってしまう。ビスカがこうしてくれなければ街は終わっていたな。だから、ありがとう」


 感謝を伝えるまでに彼は時間を使った。でも、感謝の気持ちはよく伝わった。


「感謝は神様にもしてね。この回復は神様がやったことだから」


「そうか。では、後で感謝の祈りを捧げおこう。その前にお嬢さんはわしの家でゆっくり休みなさい。もう魔力が残り少ないんじゃろ?なら、ふかふかのベッドで回復させなさい。他はもう大丈夫だから」


「なら、そうさせてもらおうかな。おやすみ」


 ビスカはそこで眠ってしまった。だから、この後の記憶がない。




 後で聞いた話だと、ビスカは本当にリーダーの住宅に運ばれたらしい。

 そのあと生存確認をして全員が助かったことが分かったらしい。でも、何人かは本当にギリギリだったそうだから、タッチの差で間に合ったことになる。なんて危険な賭けなんだ。


 そのあと数日間ビスカは寝続けたそうだ。その間にまた襲われるんじゃないかと警戒していたけど何もなかったらしい。

 それどころかどっかの魔王の使者が賠償金と、合成魔獣なんていう違法に手をつけた王様の首を手土産にやって来たらしい。

 彼の話によると、魔王達と人間の王達の意見が一致してこんなことが起きたそうだ。

 戦闘好きの神様が目障りだった人間と、勇者の剣と天使を手に入れたくなった魔族が手を組んだらしい。特に反神様の王様と天使族の魔王がこの件に多くの資金を投じたそうだ。

 ここに来た魔王の使者はマーメイドの魔王に忠誠を誓ってるそうなので、それ以上の詳しい話は分からないらしい。でも、そのマーメイドとリーダーは友達だから天使に文句を伝えてくれるようにと伝言したそうだ。おそらく伝わることだろう。


 勇者の剣はマーメイドの魔王が若い頃に人間の国に与えた物らしい。それを勇者となったリーダーが手に入れて、暴走したマーメイドの魔王を切って倒したという伝説がある。その話は本当で、その時から友人となっていつも裏でリーダーを守ってたらしい。

 今回は全12体の魔王の内、9体の魔王が賛同してしまったのでどうにもならなかったらしい。軍が送り込まれる直前までマーメイドは説得を続けたそうだが、天使の魔王が譲らなかったことでこうなったそうだ。

 しかし、天使の魔王も遠くで見て間違いに気づいたそうだ。やはり人間は信用出来ないと言っていたらしい。どうも魔王達は送り込んだ人間達に映像魔法を仕込んで見ていたらしい。それで合成魔獣を見たようだ。それで天使の魔王がブチギレてそれを作った国の王を討ち倒したそうだ。

 なんかよく分からない行動を取って、魔王は何がしたかったのだろうか。




    ---------------




 1ヶ月後。

 街は時間をかけて直されて前より良くなった。いや、中央にビスカの家が建てられたからかなりおかしくなったとも言える。

 しかも、あれ以来人々はビスカを崇めるように扱っている。その光景は滑稽なので、神様も笑ってるかもしれない。でも、当の本人であるビスカは悪い気がしなかった。


「さて、だいぶこの世界に慣れてきたし、そろそろ目的を決めようかな」


 ビスカは自宅の窓から外を眺めながら独り言を呟いた。その数秒くらい後に2階の部屋に誰かが向かってくる足音が聞こえた。

 その足音はドタドタとうるさいのでおそらくケイトだろうと予想する。


「おっ、ようやく魔力が完全回復したみたいだな。よかったぜ」


 予想は当たった。だから、ビスカは窓辺を離れてベッドに腰掛けた。その状態で立ったままの彼と会話を始める。


「お陰様でね。こんな良い家で安静にさせてもらったから完治したよ」


「目覚めた時に、体に無理させたせいで朝日を浴びても魔力が戻り切らないって言われた時は驚いたぞ。結局あれは何が原因だったんだ?」


「エンチャントで筋肉とか魔力の流れとかを変化させたから、それで切れてたり潰れたりしてたみたい。自然回復で治ったから良かったけど、これがもっとひどい状態だったら治り切らなかったかもね」


「そうならなくて良かった」


 そこでケイトは食い物の差し入れを持ってることを思い出した。なので、そっとそれをテーブルに置いた。

 それから話を変えるために真剣な顔をする。


「で、これからどうするんだ?借りを返したならここに残らなくてもいいんだぜ?義理なんて無いんだからな」


「うーん。それなんだけどさ。私、ここで魔王を目指そうかなって思ってるんだ」


 足をぷらんぷらんと揺らしながら魔王になりたい宣言をした。いや、ケイトからしたらされただな。

 呑気なビスカに対してケイトは驚きすぎて目を見開いている。


「それ、本気か?」


 ケイトは見開いたまま真剣な雰囲気で尋ねる。

 それに対してビスカはいたずらっ子のように答える。


「本気だよ。そんでかっこよくなってみんなを守るんだ。ついでに強くなる(たび)にそれで驚かすんだ」


 ふざけてる感じだが、その目は至って真剣だ。

 だから、少しの間をおいてケイトは笑い始めてしまった。


「あんだけ強いのを見せられてるからな。本当になれそうな気がしちまう。こりゃおもしれぇな」


「で、最初の仲間にあなたを選んでるんだけどさ。未来の魔王の友達にならない?」


 ビスカはベッドに座りながらかっこよく手を伸ばす。

 彼女にケイトは選択を迫られている。この手を取ればビスカの下に着くことになる。断った手を取らなければこれまでと変わらない。

 でも、断らないだろう。この世界の人々はあの神様に似て変化を好む。楽しいことになるならそっちを選ぶ可能性が高いのだ。

 ケイトは典型的なこの世界の人間だ。だから、魔王にも匹敵する怪物を倒した小娘に魅力を感じている。選択肢なんて最初から決まってるようなものだ。


「それはビスカから逃げられなくなるってことだ。ま、ビスカになら人生別れてやっても良いかな」


 ケイトは笑顔で手を取って握手する。これで2人に儀式的な絆が生まれた。

 ビスカもケイトもこの先の変化からは逃げられない。

 まぁ、どうせ逃げないんだろうけど。

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