第73話 聖なる者達の陥落
ビスカ達は一応速く移動している。
だが、それよりも速いエリカは既に到着してしまっている。
聖騎士団の本部は普段から移動を繰り返している。
こういうことを防ぐために場所を固定しない。
だが、今回はそれが仇になった。
エリカは彼らが近くに来るのを待っていたのだ。
運良く近くに来てくれたからついでに襲いに行った。
エリカは魔王の到着を待てずに破壊を始めた。
荘厳な教会のような建物を好き放題に破壊していく。
その途中でエリカは勇者並みに強い聖騎士長と対面した。
「破壊をやめていただきたい。エリカ殿」
「倒して止めたらどうですか?あなたも強いと聞いていますよ」
「規格外に勝てるような訓練はしていません。それに私はもういい歳です。そんなに強くありませんよ」
「嘘はいけませんね。あなたは歳をとった分だけ研磨されてるはずですよ」
聖騎士長イコーナはニコニコなエリカにイライラして剣を抜いた。
一応盾も持って戦闘をする体勢を整えた。
その状態で言う。
「そこまで見抜けているなら分からないはずがない。エリカ殿は私と相性が悪いということを」
「そうですね。確かに相性は最悪です。イカサマみたいなアイテムが通用しない『無効化』のスキルは天敵です。でも、私が対策しないと思いますか?」
「何を…!」
聞こうとしたところで建物のあちこちで火が上がった。
その瞬間に湧き上がった悲鳴でイコーナは察した。
エリカはここを焼いてイコーナを殺そうとしていると。
「無効化できるのはスキルや魔法だけ。なら、魔力を帯びていない火はいかがですか?」
「どこで知ったか分かりませんが、弱点を知ったところで私を倒すことなどできない!」
「攻撃は効かないからですか?それも対策済みですよ。ようは魔力のない武器で襲えばいいだけです。つまり、これで十分ということです」
エリカは普通のライフルを取り出した。
それは本来ならこの世界にない武器だ。
エリカがどうにか模索して再現したということだろう。
それを初めて見るイコーナは距離を取って警戒する。
「いい判断です。ですが、これは近距離武器じゃ無いんですよ!」
エリカはサッと構えてすぐに撃った。
その弾丸はイコーナに当たる寸前まで行く。
だが、『超戦闘術』を持つ聖騎士長には無意味だった。
あり得ない反応速度で弾丸を切ってしまった。
本来なら切れない体勢から。
「はっ?」
エリカは初めて間抜けな声を出した。
それからすぐに現状を理解して素を出して喚く。
「くっ!ふざけるな!ふざけるな!人の反応速度で!人の反射でどうにかなる問題じゃない!ふざけるな!」
「ようやく本性を見せたな。その性格なら何をしても不思議じゃない。全てを警戒してスキルを常時発動してたんだ。また撃っても当たらない」
「ふざけるな!攻守完璧なんて倒せるか!」
「そう思うなら投降しろ。ここで終わりにしよう」
そう言ってもイコーナは近づこうとしない。
まだ何かをやってくると思ってるからだ。
実際にエリカはいつでも撃てるように引き金に指を置いている。
それを離さない限り聖騎士長が近づくことはないだろう。
こうして向き合ってる間も火はどんどん広がっていく。
水魔法でも消火が間に合ってないようだ。
これがイコーナに近づけば勝ち目がなくなる。
逃げる前提でエリカに言う。
「まだやる気があるなら掛かって来い!私は焼け死なないからな!」
このセリフに対してエリカはしばらく沈黙する。
それからクスクスと笑いながら話し始める。
「あー、もう飽きた。いや、飽きました。何度やってもこれなんですから」
「何を言っている?」
「私は『時間操作』のスキルを持っています。だから、何度もやり直してあなたと戦ってます。106戦して106連敗です。どうしてもあなたを倒せない」
「それはつまり、どんな展開でも私が勝ったということか。邪魔も入らずに一騎打ちで」
「そうです。必ずこうなって負ける。過去に見たスキルは全部で15個でしたね。どの組み合わせでも攻略できませんでした」
「なら、諦めて捕まれ」
「そういうわけにいきません」
エリカは懐中時計を取り出した。
それがスキルの起点になってるらしい。
それのスイッチを押そうとしたところで鐘が鳴り響く。
エリカは今までになかった変化に戸惑う。
「これは一体…」
「神託が降りたんだ!司祭はやってくれたんだ!」
イコーナは興奮気味に喜ぶ。
エリカは完全に置いてかれてるので聞いてみる。
「どういうことですか?意味が分かりません」
「聖騎士はトップに司祭を置いている。聖なる仕事であることを主張するために司祭が神の力を借りているんだ。その神様から時々神託をいただくんだ。それで神敵を決める」
「つまり鐘が鳴ったといことは…」
「あなたが神敵と見なされたということだ。これで派手に戦える」
聖騎士長イコーナは持っている剣を捨てた。
その代わりに魔法で神々しい剣を召喚した。
その剣を一目見てエリカは驚く。
「なんでその剣を…!【神滅の剣】を持ってるんですか!」
「これが人類の起こした奇跡だ。オーバーテクノロジーを実現させた証だ!」
「そんな…!私の見立てが甘かったの…?」
エリカはあからさまに動揺している。
隙だらけだが逆にそれが怪しく感じる。
あれだけ自分が優位だと言ってたのに急にこうなれば怪しすぎる。
だが、イコーナは最後のチャンスを見てるだけで失った。
「オーバーテクノロジーは無茶しなければ実現しません。例えば数人が力を合わせるとか、スキルや魔法を頼るとかでないといけません。それを実現するなんて!」
「そんなに悔しむ必要があるか?あなたとは関係ないだろ?」
「関係大ありですよ!だって、私は『実現不可技術』をスキルとして持ってるんですから」
「えっ?」
エリカはイコーナが驚いてる間に神滅の剣を作り出した。
しかし、今やこれは不可能な物じゃなくなってしまった。
そのため剣はすぐに消えてしまった。
「こんなことが私には出来ます。ついでに言うと私は神のようなことが出来ます。時間、空間、転生、他にも扱えます」
「それが何だと言うんだ?」
「あなたを倒せるということです。知識もそれなりにありますから」
そう言いながら【空斬りの剣】を生成して振った。
その一撃は空間の距離を無視して相手を斬った。
腹を斬られたイコーナは意味が分からないという顔をする。
エリカは冥土の土産に話す。
「神滅の剣は切りつけた相手の魔力を封じます。それの持ち主はリスクとしてスキルと魔法が使えなくなります。もう分かりますよね?」
「なる…ほど…!本気を出した…つもりが…自分の首を…絞めていたのか…!」
「そういうことです。なので、弱体化ありがとうございます」
「お礼は…早いだろ…!使えないなら…手放せばいい…!」
そうすれば回復できると考えて剣を手放す。
だが、そうしても回復魔法が発動しない。
イコーナは困惑して何度も魔法を試す。
エリカはイコーナの滑稽な姿を見て笑った。
かなり笑わせてもらったのでお礼に説明する。
「空斬りの剣はスキルや魔法も斬ります。つまり、残念ながらあなたはもう何も出来ません」
「そんな…!」
「諦めてください。もう遊ぶ時間はないので撤退します。楽しかったですよ」
火がもう近くまで迫っている。
エリカは速く逃げようと思って外を目指す。
イコーナは完全に無視された。
だから、ここで最後の手段を使っても気付かれないだろう。
イコーナは最後の力を振り絞って薬を取り出した。
それをためらいも無く一気飲みする。
すると、イコーナの肉体が作り替えられて別人に変わる。
いや、別人ではなく別種族だ。
人間をやめて他の存在に変わってしまった。
そこまでしなければ失敗をやり直せない。
イコーナは強くなってコンテニューする。




