第71話 竜人VS指揮者
生き残ったゴーレム達は困惑している。
謎の侵入者、魔王の死、魔王の自爆、役目の喪失、それらのせいで彼らは現状を受け止めきれずにいる。
ビスカはその全員に聞こえるように声を出す。
その声にエンチャントをかけてどんな状況でも聞かせる。
「聞け!魔王アイゼンは敵を倒そうとして死んだ!だが、やり切れずに逃してしまった!無念を晴らしたければ生き残りから魔王を出せ!それまでは私がサポートしてやる!」
堕天使なのに彼らには救世主に見えた。
ゴーレム達は彼女の指示に従うことを決める。
それを示すかのように全員がビスカに祈りを捧げる。
「私についてくるかがあるなら共にシエルに行こう!私の国でしばらく面倒を見てやる!その前に私はやるべきことがある!戻ってくるまでに準備をしておけ!」
ゴーレム達は頭を下げて探し物を探しに行った。
ビスカはその間にコルノの様子を見にいく。
まだ敵の気配が消えていない。
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ビスカは上空から様子を見る。
そこから見えるのは、200人の部下を操るディレットと、本気の姿で戦うコルノだ。
双方が全力をぶつけ合って少しずつ戦力を減らしている。
これなら手を出さなくても大丈夫そうだ。
地上戦を行なうコルノは出来るだけ街を傷つけないように戦っている。
相手はそんなことを気にしなくていいので好きに暴れる。
「こんなことに何の意味があるんだ!」
「そんなことは知りません!僕は時間を稼げと言われただけです」
「彼らは同意しているのか!操られて死ぬかも知れないというのに!」
「同意をいただいています。その上で指揮しているのです」
ディレットは指を踊らせて操る。
その指揮で意思のない人々は怪我を気にせずにコルノを襲う。
コルノは死なないためにも剣と肉体を上手く使って攻撃を防ぎ続ける。
「しつこいですよ!ここでしくじるわけにはいきません!だから、さっさと死になさい!」
「上司に脅されたか!情けない奴だ!そんなことで焦るなんてな!」
「分かってない!エリカ様は恐ろしい方なのです!魔王でさえ敵と思っていない!子供のように扱って殺せるのです!ここで失敗したのに生きて帰ればあの方に殺されます!失敗するわけにいきません!」
「あっそ!なら、本気で楽にしてやるよ!『竜一閃』」
コルノは強力な突きを行なった。
その一撃で約50人の部下が消えた。
本当はディレットを狙ったのだがすぐに防がれてしまった。
彼は操る相手を好きに動かせる。
「それはやめていただきたいものです。そう何度もやられると駒が足りなくなります」
「減らすのが目的だ!そうないと数的に負けるだろうが!」
「確かに!では、ここで終わらせましょう」
ディレットは指揮をして全ての駒を一ヶ所に集める。
その一人一人のスキルや魔法を発動させる。
コルノはマズいなと思う。
その時、神様の声が届く。
《竜人族のコルノを魔王と認めます。切り抜けて見せなさい》
それが聞こえた次の瞬間に一斉攻撃が始まった。
あらゆる属性の攻撃をコルノは全て喰らう。
だが、翼で身を包んだコルノには全てが効かなかった。
それどころか吸収して自分の力にしてしまう。
「やってやる!神様!しっかりと見ていてください!」
そう言うとコルノは少し大きくなった肉体に相手の力をまとう。
吸収したものを吐き出して攻撃を行う。
ツメに、腕に、足に、ツノに、攻撃系魔力をまとって攻撃する。
近くにいる敵から次から次へと攻撃する。
「オラァ!」
バンバン倒していく。
素早く様々な種類の攻撃をしていく。
それで敵の駒は倒れていくが、違和感がある。
少しずつ減らせば減らすほどディレットが強くなっていく感覚。
コルノはもしもに備えて敵の攻撃をわざと喰らってから倒す。
それを繰り返してコルノも強化していく。
しばらくしてディレットの駒は全滅した。
その時にはディレットもコルノもかなり強化されている。
「随分と力がついたようだな」
「そちらこそ」
「オレは『魔力吸収』を所持してるから魔力のある攻撃なら効かない」
「僕は『隷属共感』を所持しています。操っている奴が倒れるとその力は4割が僕のものになります。思い受け継ぐみたいな感じです」
となるとどちらも他人の力で強化されるということだ。
だが、確実にディレットの方が弱い。
コルノの場合はビスカが魔力弾を撃ってやればそれで強化できるから。
この状況でディレットは冷静にビスカの存在を確認した。
そして、それに気づいて負けを察した。
だから、全てを捨ててでも戦う覚悟を決める。
「さて、僕は今から本気を出します。魔王なんて普通の人間が相手したら死にますからね」
「それならさっさと掛かって来い!オレは『逆流』で返してやるから!」
「では、踊りましょう」
そう言うとディレットはただのナイフを取り出した。
それを振り回しながらコルノを襲う。
しかし、スキルも魔法も使わないのなら勝ち目などない。
いくら素早く振っても相手はドラゴニュートだから刃が通らない。
その上、吸収した攻撃を吐き出せるので20人分の攻撃を同時に出すこともできる。
ディレットは頭がいいようだが力が不足している。
だから、ここでどんなに努力しても勝てっこない。
「諦めろ!オレの方が強い!お前じゃ勝ち目はないんだよ!」
「死ぬために戦っているのです!どうせ勝てなければここまでです!だから、最後まで諦めません!」
「クソッ!それなら望み通りにしてやるよ!」
コルノは素早く飛び上がると特大の魔法陣を展開した。
そこから全ての攻撃を返すつもりだ。
それを見たらディレットはナイフを捨てて受け入れ態勢を整えた。
そして、目を閉じる。
それからすぐにエリカが戻ってきた。
その大きすぎる魔力に気づいたディレットは目をパッと開いた。
その彼にエリカは武器を与える。
サクッと地面に剣が刺さる。
「全力で戦って死ぬ覚悟があるんでしょう?なら、最後のチャンスです。それで戦いなさい。拒否するなら滅ぼすだけです」
空中から言われた言葉はマジだ。
エリカの目が本気すぎる。
それにビビったディレットは仕方なく剣を手に取る。
抜かれた剣は操りの秘術が仕込んであったらしい。
ディレットは急に動けなくなった。
「さぁ、最後のダンスといきましょう。良いものを見せなさい」
それだけ言ってエリカはまたどこかに飛んでいく。
残されたディレットは命令に従って剣を振る。
それによって魔法陣は空間ごと切られてしまった。
どうやらあの剣を渡したらしい。
「マジかよ!さっきの女が渡した剣、やばくね?」
そりゃやばいよ。
一振りで狙ったものを距離関係なく切れる剣だ。
それが弱いわけがない。
それを手にしたディレットは正気のない目で剣を張りまくる。
地上から魔王コルノを狙い続ける気だ。
「クソが!当たったらどうなるか分からない攻撃なんて受けられるか!」
確かに空間を削り取る攻撃なら触れるわけにいかない。
だからと言ってこのまま飛び続けても勝ち目がない。
なら、ドラゴニュートらしく戦うしかないでしょ!
魔王コルノは隙を見て地面に降りた。
そこから相手の動きを『予知』して避けながら近づく。
かなり近づくとコルノは近距離で『竜王光線』を発動した。
それはとんでも破壊力のレーザーで当たれば人間なら即死だ。
ディレットは無意識でそれを剣で受け止めた。
しかし、いくら武器が良くても使い手がザコじゃ本来の力を発揮できない。
剣は20秒くらい受け止めたところで砕けてしまった。
そのせいでディレットは静かに吹き飛んだ。
勝ったコルノは肺を休めながら言う。
「やろうと思えばやれるもんだな。もう少し苦戦するかと思った」
それだけドラゴニュートが種族として強いということだ。
ビスカは勝者の近くに降り立って拍手を送る。
ついでに辛辣な言葉も送る。
「ザコ相手に苦戦するようじゃまだまだね」
「魔王ビスカか。しょうがねえだろ?一瞬で消すつもりだったのに妙な気配を感じてたんだから」
「ずっと近くに居たってこと?」
「そう言うことだ。奴はずっとそこらを飛び回ってたんだ。そして、部下が使えないと判断したら一死報いてから死ねと命令したんだ」
「本当にクズだな。私はそれと戦うつもりだ」
「オレも手を貸そう!仲間を仲間とも思えない奴は放置できない!」
2人は想いが合致した。
それで手を噛む流れに行きそうだ。
そこにゴーレム達が合流した。
ついでに獣人達も合流した。
彼らも想いを口にする。
「我々ゴーレムは魔王様をあの者に殺されました。我慢なりません!あの者と戦うなら協力します」
「私達も迷惑してます。ファットリーアがまた襲われるなら、先に奴を倒しましょう!」
その場にいる全員が「そうだそうだ」と声を上げる。
これだけ見ればエリカの扱いなんて決まってしまう。
逆にここで敵対しない選択なんて出来るか?
無理だね。絶対に敵対する。
ビスカはその場にいる者達に宣言する。
「あんたらの想いは理解した!ならば共に戦おう!そのために力をつけるんだ!魔王を強くするんだ!全員で手を取り合って力を得るんだ!これ以上被害者を出さないために!私はここで【魔王同盟】の目的追加を宣言する!打倒ダリア商会だ!」
この発言に全員が歓声を上げる。
そして、魔王コルノがすぐに正式加入した。
そのあとゴーレム達が正式にビスカの下についた。
すぐにシエルに帰って作戦を練ろう。
魔王の育成と同盟とダリア商会について。




