第69話 合わさった力の強さ
地上に降りたユンゼはさらに血を使った。
今度はオークと魔獣だ。
ここまで来ると人間の原型なんて残っていない。
魔力がユンゼなだけのキメラだ。
新しい魔王達は自分達の過去を思い出して彼を哀れに思った。
そんな魔王達は弔うためにも全力で攻撃を始める。
「アニマは言います。『まずは飛べないように閉じ込めてやる!』と。魔王になって強化された結界は取り逃がさないでしょう」
アニマは『四方結界』を10枚同時に張った。
それによって広くて低い戦闘フィールドが展開させる。
これなら飛べないしゾンビ達ものびのびと戦える。
しかし、結界を張ってからすぐにユンゼが暴れ始めた。
少しだけ飛んで結界にパンチや噛みつきで攻撃していく。
壊れそうにないがそれでもダメージの蓄積が怖い。
壊れる可能性が高いのは大問題だ。
「まあまあ!そんなに暴れんなよ!これでも喰らって落ち着け!『敵種対応弾』」
ガルは指先に銀色の魔力弾を生成した。
それを的確に奴の体に当たるように狙う。
定まったところでバンッと撃ち込む。
それが当たると急に奴は苦しそうに地面に倒れてしまった。
ユンゼ専用の弱点はよく効いてくれたようだ。
「チャンスは出来た!一気に攻めるぞ!」
「ゾンビでまたボコボコにしようか〜。みんな集まれ〜」
「古き使者達よ!俺達の力になるなら命をくれてやる!これで良ければ応えよ!『白骨大軍勢』」
ライヒェはゾンビをまた命令で集める。
その間にオッソはライヒェの真似をして大昔の墓からスケルトンを生み出す。
そいつらに強化魔法をかける。
「一応かけておく。過信するなよ。『魔法武器』『魔法防具』」
魔力で出来た武器と防具が10万のスケルトンに与えられた。
彼らも意識がないが、それでも主人の敵は分かるらしい、
だから、それぞれの得意武器にしてもらってから奴に突っ込んでいく。
ゾンビ軍とスケルトン軍の総数は約30万だ。
やりすぎなくらいだが、ここまでしなければあの怪物は倒せない。
絶え間なく攻撃を続けなければ回復速度に押されてしまう。
だから、巨体に対して数で攻撃を続ける。
「さて、俺様も行くぜ!『月光獣爪』」
「付き合ってやるよ!私もトドメは自分達でって思うからさ!剣召喚『魔法剛剣』」
「アニマは言います。『本気でやってやるぞ!』と。そのためにスキル『死神狂鎌』を発動します」
ガルは金色のツメ、ヘクセは赤色の剣、アニマは黒色の大鎌を装備した。
3人はゾンビとスケルトンに身動きを封じられたユンゼに向けて走り出す。
今なら近距離攻撃をぶつけるチャンスだ。
まずはヘクセがゾンビ達の隙間に潜り込んで剣を振る。
「エンチャント!『斬撃付与』『白炎付与』『筋力増強』」
3種類のエンチャントで強化された剣が奴の腰を切り落とした。
これで上半身と下半身は離れる。
しかも、白炎で燃えているから再生が出来ない。
困惑するユンゼにガルが追撃する。
魔力で伸びたツメを使って奴に細かい傷を入れる。
ツメには人狼にしか使えない月の魔力を仕込んである。
それは体内に入ると感覚が鈍くなって動けなくなる。
これでまたユンゼが暴れることは無い。
最後にアニマが狂ったように大鎌で奴をバラバラにする。
即死効果のある鎌なので一撃目で死んでいる。
バラバラにしたのは醜い姿を消してやるためだ。
ついでにヘクセが炎魔法で火葬した。
これで完全勝利だ。
新たな魔王達はビスカ達に見せつけるようにガッツポーズをした。
ビスカとムーミエは拍手を送った。
この戦いは世界的に知られることがない。
それでもビスカとムーミエにはえげつない戦いとして記憶に残るだろう。
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さて、この戦闘での被害はゼロだ。
それどころかプラスになってしまった。
ビスカはこれを絶好の機会と捉えて魔王達に提案する。
「勝者たるあんたらに提案だ。ここを君らの領地、つまり国として認めよう。その代わりに私にも面白いストーリーを見せて欲しい」
ヘクセは疲れた様子で質問する。
「ストーリーを見せるとは具体的にどうすればいいのかしら?」
「後世にも残る建国記を書いてもらいたい。日記みたいなものだよ。それがあれば私もあんたらのやり方が分かるし、後輩の魔王達も見本があるからやりやすい。いいと思わない?」
「まぁ、いいと思うわ。でも、それの完成には時間がかかるわよ?」
「それでもいいの。何年かかろうとも出来るなら関係ないよ。私が死んでも完成させてよ!」
これはヘクセだけで決めるわけにいかない。
ここは元々ムーミエをトップにしてやっていくつもりだったから。
新しい魔王達はムーミエを見つめる。
それで彼女に決定を委ねられたとビスカは判断した。
「ムーミエはやってくれる?」
「うーん。どんな形でもいいのかい?」
「内容がしっかりしてるなら文は適当でもいいよ。なんなら工夫してもらっても構わない」
「なら、提案を受けよう。ここにいる六魔王の国を認めてもらおうか」
「それじゃあ、紙はめんどくさいから魔法で世界に伝えるよ。その前に国名を決めなよ。その間に私は出かける支度をするから」
そう言ってビスカはこの場を離れた。
残った魔王達は国名について意見を出し始める。
それぞれ我が強いから時間がかかりそうだ。
30分ほど経ってビスカ達は出かける準備ができた。
なので、ビスカだけが魔王達と合流しに行く。
カーネ達には食料の確保に動いてもらう。
ビスカが魔王達に近づくとすぐに集まってきた。
どうやら決まったらしい。
「それじゃあ、何にするか聞こうか」
「話し合って出たのは【死霊国家ストラーノ】だ」
「それでいいんだね?」
全員が首を縦に振る。
確認が取れたので、ビスカはそれを世界に認めさせるために魔法を各国に放つ。
それが届いた各国はすぐに魔王が6人も居る国の対策を考え始めた。
さて、これでシエルのビスカも国の代表として接しなくてはならなくなった。
ここからは少しだけ王様の先輩としてアドバイスする。
「さて、国として認められたからアドバイスしてやる。全員で聞きなよ」
「分かった。何を話してくれるんだ?」
「まずは各国に認められるように形を整えろ。次に生活レベルを上げろ。シエルがサポートしてやるから困ったら来てもいい。それと、あんたらはもう友達だ。悪い奴じゃないのは分かってるから、これからも仲良くしよう」
急に色々と言われて魔王達は目をパチクリさせてしまう。
でも、魔王ムーミエだけは笑い始めた。
「確かに友達の方が楽だな!それでも笑わせるな!急に話を変えるから笑っちゃったじゃないか!」
「それでも友達になってくれるんでしょ?なら、何かあったらお互いに助け合おうじゃないか」
「そうだな。それじゃ、これから忙しくなるからもう行くと良い」
「そうする。それじゃ、またね!」
ビスカはくるっと方向を変えてルチェルトラを目指す。
獣人達は魔王ビスカが行く方向について行く。
しばらくして魔王達の視界から魔王ビスカが見えなくなった。
ムーミエは早速ここを国として完成させるために仕事を始める。
その前に現在の仲間達の数を数える。
「さて、まずは種族ごとの人数を確認せんとな。おおよそでいいから分かるなら教えてくれ」
「ゾンビは下位形態が約20万、上位形態が約3000、最上位が3人だよ~」
「スケルトンは下位形態が10万、上位形態が1000、最上位が俺1人だ」
「人狼は下位形態が2万くらい、上位形態が500くらいだな」
「魔女は元人間だから形態なんてない。数は100よ。ここに居ないのを含めるなら100万になるわ」
「アニマは教えます。『ゴーストは約60万だ』と」
この数が暮らすための家なんて足りない。
元々の街はあの時の戦闘でほとんどが吹き飛んでいる。
建て直すしか無さそうだ。
ムーミエはボソッとつぶやく。
「その数を住ませるなら働かせるかな。はぁ、こんな時に仲間が居ないのが悔やまれる」
その時、誰かがムーミエに向けて叫んだ。
「おーい!おーーーい!」
その声に聞き覚えがあった。
ムーミエはバッと声のした方向を向く。
すると、そこには黒くて短い杖を持った集団が歩いてきているのが見える。
それはかつてムーミエが暮らしていた里の住人達だった。
ネクロマンサー達はたった300人だが、ムーミエを驚かせるには十分だ。
「ちょっと!なんでこんな所にいるの!?」
「ムーちゃんが魔王として立派になったから助けに来たんだよ!」
「助けてなんて言ってない!」
「でも、嬉しかったでしょ?里抜けしてまで探してくれてさ!」
「まぁ、確かに嬉しいよ。でも、わざわざ来てどうするの?ここに居たら私の下につくことになるんだぞ?」
「何言ってるの?そのために来たんだよ!」
ムーミエはその言葉で許された気がした。
大昔に1億のアンデットを操ったムーミエは、あの頃最強だった堕天使の魔王と戦ってしまった。
結果は惨敗で、1億のアンデットは全滅してしまった。
魔王間の世界規模の戦闘は御法度だったので、ムーミエは罪を重ねすぎて一度処刑されそうになった。
それを魔竜帝スペラーレが助けてくれた。
それでも大罪を犯したことは変わらない。
だから、ネクロマンサーの里から永久追放を受けた。
二度と同族と会えないと思っていた。
このまま終わるのだと思っていた。
それが戦った相手と同じ堕天使のことを見てるだけで変わった。
先代魔王ストラーナ・ブーゼに負けて、現代の魔王シエラ・ビスカと友達になった。
とても複雑だ。
ムーミエは過去のことを忘れるくらいに涙が溢れてきた。
新たな魔王が生まれて、1人の魔王を先に進む。
ビスカが起こした影響は新しい時代を作っていく。
これからも。




