表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/77

第6話 今できる全てをぶつければいい!

 ブチギレてビスカじゃない何かが出てきてしまった。

 いや、これもビスカだ。ただし、スバルとしてヤンキーどもを倒してた頃の。

 キレたことで過去の自分が出てきてしまったらしい。でも、今のビスカなら本能でスキルの使い方を理解してる。だから、勝てる!


 合成魔獣はこんなにもやる気に満ちた敵を前にしても命令を遂行しようとする。人間だけを襲うようにいじられた可哀想な生物が元勇者を狙って脚を振り上げてすぐに下ろす。

 その勢いや大きさからして完全に岩と同じだ。そんな物がプルプル震える老人を狙う。


「こっちを見てないの?ダメだよ。強者は見てないと」


 素早い脚より素早くビスカが受け止めた。その衝撃が背後の人々を吹き飛ばしてしまったが、男達は確実に見てしまった。天使が片手で怪物の足を止めるところを。

 どうやら聖力付与(ホーリーエンチャント)と瞬天で奴の力を上回ったらしい。


「どうしたの?これで終わり?」


 ビスカはわざと(あお)った。これで終わりなら本気を出すまでもないからだ。

 その煽りからすぐに怪物は脚を振り上げ直した。これには少しだけ焦った。

 さっきはスピードとパワーがあったから止められたのだ。今度は助走とか出来そうにない。だから、スピードなしで受け止めるしかない。かなりのピンチだ。


「えっ?ピンチとか思ってる?そんなわけ無いじゃん」


 そう言いながらまた降ってきた脚を片手で受け止めた。本当に今度はスピード無しで受け止めてしまった。


「ふふっ。『聖筋力付与(パワーエンチャント)』だよ。ありふれてるけどパワーにエンチャント1回分を全て使ったんだ。だから、この程度は効かないよ」


 そうやって鋭い目つきで笑っていると、今度は素早く振りかぶって蹴っ飛ばしてきた。

 それをまともに食らったビスカは普通に蹴り上げられてしまった。しかし、すぐに空中で静止して体勢を整える。


「あー、人間なら吹っ飛んで死んでるな。でもさぁ。私、天使なんだよね」


 口元の血を拭いながらそう言った。

 空中で大きな翼と昨日買ったばかりのワンピースがバサバサと音を立てた。その姿と音をしばらく見せていると、怪物は何かを思い出したように大きな雄叫びを上げた。

 その声量は建物や兵士達を吹き飛ばすほどの力を生み出した。街の男達をビスカは一瞬心配したが、あのリーダーが残りの力を全て使って結界を張っていた。

 彼に任せればいいと思ったビスカは再び奴に喧嘩を売る。


「叫ぶなよ。てか、私が誰かに似てるのか?なら、そいつの威を借りて脅かしてやるよ!」


 そう言うとビスカは聖力付与(ホーリーエンチャント)の技である『聖過剰付与(オーバーエンチャント)』を自分に使用した。

 すると、濃い魔力がビスカを包み込んで肉体に浸透していく。濃い魔力が身体の全細胞に広がると急に体が成長を始めた。グググッと無理矢理に子供の肉体から中学生程度の肉体に変化させていく。その強制成長に痛みはない。

 ただ、肉体が強化されるのみ!


「さぁ、これは誰かに似てるかな?」


 そう言いながらより大きくなった翼を広げてアピールする。

 それを見た怪物は怯えた様子で少し下がった。

 それで確信する。こいつは天使か何かの種族を恐れていて、姿や音に反応しすぎてしまってるのだと。

 もしかしたら恐怖の対象はビスカに似てるのかもしれない。

 だとしても、ビスカにそんなことは関係ない。今は敵を潰すことと逃がさないことしか考えない。


「ビビってくれたのは嬉しいけどさ。それ以上被害増やさないで」


 そう言いながら囲いと土地に聖力付与(ホーリーエンチャント)を行った。これによって建物は壊れにくくなり、囲いは結界の強化で人間も逃さなくなった。


「さて、これでいいかな?じゃあ、もう我慢の限界だからやるね」


 そう言ったビスカは一瞬で敵の視界から消える。そして、見られない速度で千発のパンチをぶち込む。

 怪物自身は何が起こったのか分からなかった。訳もわからずほぼ同時に千発の馬鹿力が打ち込まれてしまった。

 流石にこのダメージで怪物は立てなくなった。丈夫な凶器になった建物の上に倒れていく。


「ちょい待ち。流石にやばいかもだから倒れるな」


 流石に山みたいなこいつが倒れたらエンチャントしててもやばいかもしれない。そう思ったビスカは一瞬で腹の下に入って指一本だけで倒れるのを止めた。


「じゃ、そろそろ終わらせてやるよ。上で待ってな!」


 そう言うと瞬天とエンチャントを拳に乗せて放った。

 指一本で支えられていた巨大は、隕石でも当たったかのような衝撃で上空800mまで打ち上げられた。

 それが落ちるより前にビスカは一瞬で上空900mまで飛び上がった。そこで拳を構えながら新しいエンチャントを用意する。


「さて、これで終わりだ。でも、実験に失敗したらまたやろうな」


 天使は朝日をバックに敵の中心を狙う。

 そのまま腕に『聖魔力付与(エナジーエンチャント)』を巻き付けて魔力に破壊力と即死性を付与した。


「さぁ、悲しき生き物たちよ!この一撃で沈め!そして、眠りなさい!破滅付与ノ拳(ブレイキングエナジー)!!!」


 強化された拳と魔力を合わせて、ついでに急速落下のパワーをプラスして打ち込んだ。

 100m分の力をプラスした拳はビスカの予想以上に深く打ち込まれた。完全にめり込んだ拳はそのまま破滅の魔力を相手に流し込む。


 合成魔獣は死を悟った。動きたい気持ちはあるが、すでにエンチャントされた魔力が体に流れて崩し始めて動けない。

 ヒビが広がってビスカの拳を中心に砕けていく。最後は何もできずに散るしか無い。感情を消された合成魔獣はここで恐怖を完全に思い出した。

 でも、天使の慈悲で痛みはなかった。ただ静かにバラバラになって消えていく。


「そんな悲しそうな顔をするな。街をさらにグチャグチャにしたのは許せないけどさ。でも、楽しかったよ!」


 顔の方に移動した天使は落ちながら消えていく合成魔獣に笑顔を見せた。

 動物にそれを理解する頭脳などないが、こいつは魔獣だから理解できた。だから、心の中でありがとうと言って目を閉じた。

 その直後に破壊は顔まで到達して安らかな顔をあの世に送った。


 完全破壊には2分ほど掛かった。その後には天使の魔力と混ざってキラキラ光る亡骸が降り注いだ。

 その光景に対してビスカは手を合わせてあげた。


「すぐに消せなくてごめんね。ゆっくりお休み」


 それから少しだけ強者との遊びを惜しんだ。

 だが、まだ地上に敵の気配が残っている。それに気づいたビスカは瞬時に目を血走らせて本気状態に戻った。

 それからまた一瞬で地上に降りた。




 地上でどうにか生き残った兵士達は大将の指示を待つ。その時、空で合成魔獣が破壊されるのが目に入った。


「なんだと!あれがやられるなんて……いや、それよりも!天使は生まれたてだと聞いたぞ!それがあんなに強いなんて聞いていない!」


「大将…どうしましょう…結界が我々を通してくれません…解除しようとした魔道士達は魔力を弾き返されて(ちり)になりました…」


 憤慨(ふんがい)する大将に一般兵士が絶望的な状況を伝えた。

 それを聞かされて大将はようやく苦々しい表情を見せた。


 でも、すぐにその表情は最低な案が思いついたことで消えた。


「そうだ!生き残りを人質にするのだ!そうすれば天使も手を出せまい!もうこの手しかない!やるぞお前ら!」


 そう言って兵士達の方をしっかりと見た。そうした時には全てが終わっていた。

 囲いの近くに追いやられた彼らはここが墓場になる。それは天使による決定である。


「あっ、ごめん。もう終わらせちゃった」


 ビスカは一瞬で大将以外の全員に破滅付与ノ拳(ブレイキングエナジー)を打ち込んでいた。つまり、大将の目の前で兵士達が魔力の光になって消えてしまったのだ。

 その恐ろしい状況に大将は青ざめて腰を抜かしてしまった。

 動けなくなった彼にビスカは近づいて(かが)んだ。そして、胸ぐらを掴んで言う。


「さて、あんたで最後だ。言い残すことある?どうせ聞いてやらんけど」


 そう言った直後に腕を引いて拳に魔力を込め始める。今度のは一撃当たれば一瞬で消えるレベルの溜めだ。

 それを打たれたくない一心で最後の大将は弁明する。


「待ってくれ!我らは魔王様に命令されただけだ!あなたのような方がいると知ってたら手を出してない!だからその拳は魔王様に…!」


「………………」


 ビスカはその程度の言葉で拳を緩めない。


「分かった!ここを襲うことを決めた国々を差し出す!我々は各国の支援を受けた寄せ集めなのだ!だから王の命も魔王の居場所も差し出せる!だから!その拳を下ろしてくれ!」


「………………………」


 これでも(おろ)さない。それどころかさらに見下して力を込めた。


「よしてくれ!我にも家族がいるのだ!ここで死んだらあいつらはどうなる!路頭に迷ってしまう!だから家に帰してくれ!そしたらもう来ない!王達にも近寄らないように進言する!」


「……………………信用できるもんか」


 情に訴えようとするこいつにビスカは吐き気を催した。こんなことは前の人生も含めて初めての体験だ。


「落ち着いてくれ!目的はここの加護を取り外すことと勇者の剣とあなただけだ!それのどれかを達成できればよかったのだ!今更で悪いが交渉しよう!元勇者はあの老体で剣を振るのは大変だろう!国に返却してくれれば金でも物でも渡す!それで許してくれないか!」


「………………………………………」


 クズすぎて何も言えない。ここまで命に執着して口が回る奴ならもっと何か出来ただろうに。


「そうだ!あなたを魔王様に会わせよう!そうすれば魔王様になれるかもしれない!あの方々は人間のような者達とは格が違う!魔族の憧れだ!本能で(うず)かないか?なりたいなら話をできるようにしてやる!だから、その拳の魔力を解除してくれ!」


「もう黙っとけ!魔王はかっこいいと思ったけど!なるならクズの手は借りない!だから、さっさと失せろ!」


 怒りが限界を越えたビスカは気付けば腕が千切れそうなほどのエンチャントを掛けていた。

 それは人間の目で見てもオーバーキルな破壊力を持ってることが分かる。だから、大将は絶望して走馬灯を見た。

 そんなことは知らねぇと顔面を全力で殴って瞬殺した。ぶち込まれた大将は一瞬で体が魔力と一緒に散った。

 ここでビスカは日本で有名なあのセリフを言いたくなったが、伝わらないネタであることを思い出してやめた。


「さて、みんなの所に戻ろう」


 ビスカは立ち上がって姿を戻した。足りない細胞を魔力で補っていただけなので、戻ろうと思えばすぐに魔力が霧散して戻れた。

 ただ、これをするにも魔力の使用があるので魔力残量がほぼ無くなってしまった。

 ここまでに無茶ばっかりしたので急なふらっときてからバタリと倒れてしまった。しばらく動けそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ