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第68話 魔王大発生

 ユンゼは結界を破壊したことで勝ち誇る。

 胸を張ってヘクセ達を襲おうとする。


 その時、神様の声が聞こえてきた。


 《ゾンビのライヒェを魔王と認めます。力を見せなさい》


 その声が聞こえなくなった瞬間に全員の視線がライヒェに集まる。

 その視線の先には祈りを捧げているライヒェの姿があった。

 彼女は魔王になったことによって魔力が跳ね上がる。


 立ち上がると早速その力を使用する。

 バッと腕を広げると一気に魔力を墓場中に広げる。


「魔王ライヒェはチャンスを与えま〜す。未練があって魂が残ってる人達はゾンビとして帰ってきていいよ〜。『死体狂乱宴(ゾンビパーティー)』」


 軽い調子で発動したスキルは墓から次々とゾンビを生み出していく。

 その数はおよそ20万体だ。

 アルマの総人口が約200万なので、1割がゾンビになったということだ。


「知性を捨てちゃったみんな〜、敵はあいつだよ〜。殺そっか」


 ライヒェがそう言うとゾンビ達は急に走り始めた。

 ユンゼに向かってゾンビは殺到する。

 知性は無くても本能で敵を判別してるらしい。


 ライヒェが操ってる様子はない。

 それなのに全てのゾンビがリミッターの外れた物理攻撃を次々に当てていく。

 ユンゼは化け物の群れに飲まれて袋叩きにされていく。

 その光景を見せられた他の種族達はかなり引いた。


「俺様達の出番はもう終わりか…?」


「でしょうね。あれに巻き込まれたくなければ離れるべきでしょ」


「アニマは言います。『それなら早く距離を取ろう!』と。ゾンビの勢いは増し続けている。飲まれるのは時間の問題だ」


「仕方ねえな。オッソの所まで下がるぞ」


 ガルが少しずつ離れていく。

 ヘクセとアニマもそれに従って離れる。


 ここでオッソも覚悟を決めた。

 3人が合流する直前にまた神様の声が聞こえてくる。


 《スケルトンのオッソを魔王と認めます。王であることを証明しなさい》


「ありがとうございます!これで俺も戦える!」


 オッソは魔王になった途端に服装が豪華になった。

 それをスキルで鎧に変えた。


「3人はこの場で待機!魔王になる時が来たら手伝え!それまでは何が足りないか考えろ!」


 それだけ言い残してオッソは敵に向かって走り出してしまった。


 ライヒェはその姿に気づいて一緒に戦うことにした。

 ゾンビ達に『意思疎通』のスキルを使って、敵が逃げられる隙間を作るように命じる。

 それによってユンゼがオッソが居る方から出てきた。

 オッソはそのチャンスを逃さないように立ち止まってスキルを発動する。


「チャンス作り感謝する!これでも食らわせてやる!『魔力弓矢(連射型)』×100!」


 そう叫ぶと黄金の弓矢が空中に現れる。

 その全てがユンゼを狙って弓を引く。

 奴がさらにゾンビの群れから体を出したところでオッソは集中攻撃を始める。


「ぶち込めぇ!!!!」


 その掛け声で無数の矢がゾンビを避けてユンゼのみに当たる。

 全ての矢に追尾性能があるのでユンゼがそこから完全に出てきても逃げ場などない。

 ライヒェとオッソはこの状況になっても油断しない。


 ユンゼはおそらく体内にある何かで肉体を強化している。

 それがまだあるとしたらこれで終わるわけがない。


「グオォォォォォォン!!!」


 完全に人のものと思えない鳴き声。

 その直後にユンゼの背中から大きな翼が生えた。

 ついでに皮膚が鱗に覆われていく。

 それはリヴァイアサンとドラゴニュートの血を自分に混ぜたということだ。

 太い尻尾まで生えて完全に化け物になってしまった。


 ユンゼは翼を大きく動かしてゾンビの群れから脱出する。

 そのついでに弓矢を破壊しながら上空に飛んで行く。

 ライヒェはこうなると何もできない。

 だが、オッソは弓矢を再度作り直して向きを変えればいい。


「逃すか!『魔力弓矢(連射型)』×200!」


 さっきの倍の数で空に居るユンゼに向けて矢を放つ。

 ただの弓矢なら当たらない距離だが、魔力で出来ているのでかなりの距離でも当たる。

 しかし、ユンゼの強化された肉体には矢が刺さらなくなった。

 弾かれた矢はその場で消滅する。


「そこまで硬いのかよ!これじゃあ、勝ち目がない!」


「どうするの〜?ゾンビを高く積み上げる?」


「そんなことは必要ない。私が行こう!」


 2人の前にヘクセが立った。

 その瞬間に神様が空気を読んで力を渡す。


 《魔女のヘクセを魔王と認めます。連続で魔王が生まれるのも面白いです。もっとやりなさい》


「ありがとう!神様!これで無茶な魔法を使える!」


 ヘクセはいきなり2本の杖を1本に合体させた。

 それによって杖はきらびやかな本来の姿に戻った。

 ビスカ以上の魔力を得たヘクセはその杖に魔力を込めて魔法を発動する。


「落ちろぉ!上から見下ろしてるんじゃねえ!『稲妻連射撃(ライトニングシュート)』」


 ユンゼのさらに上空に巨大な魔法陣を発生させた。

 そこから連続で雷をユンゼに落とす。

 さすがに量も破壊力も凄まじいのでユンゼにかなりのダメージを与える。


 ユンゼは悲鳴を上げながら新たな魔王達を天敵と認めた。

 ここからはもう雑魚と(あなど)ることなどない。

 本能的にビスカとムーミエの前座だと思っていた。

 だが、それをやめて魔王は魔王として戦うことを決めたのだ。


「はぁ!?あいつのダメージが治っていくんだけど!」


「これはやられたな。まさかスライムの超再生まで持ってるとはな」


「こうなったら厳しくない〜?勝てるの〜?」


「やるしかないでしょ!『流星隕石群(スターダストメテオ)』」


 ヘクセは一度魔法を停止させて魔法陣を書き換えた。

 それから属性を混ぜて作り出した隕石型魔力弾を一気に発射する。

 その破壊力は一撃で体の一部を吹き飛ばす。


 ユンゼはそれを喰らってもギリギリで再生を間に合わせる。

 相手の速度の方が早いせいでヘクセのこれもあまり効果がない。


「チッ!これもダメか!」


「こうなったら俺に合わせてくれ!思いつきを試す!」


「何をする気?って聞きたいところだけど時間がないな!しゃーないから合わせてやるよ!」


 ヘクセは魔法を放ったままオッソの手を掴む。

 その瞬間に魔法を止めて合わせることに集中する。

 オッソはすぐに魔力出力を同じくらいにしてもらおうと一定量で維持する。

 ヘクセは大急ぎでそこに合わせる。


 攻撃が止んだことでユンゼは数秒で完全回復した。

 そして、魔力が高まる魔王達に気付く。

 ユンゼは()えてから降下して止めに向かう。

 しかし、間に合わなかった。


「「合成魔法『天弓流星(メテオアロー)』×400!」」


 2人は繋いでいない手を合わせる。

 その瞬間に弓矢が空中に出現する。

 現れた弓矢はヘクセの魔法で隕石と同じ物になってる。

 その全てをよく狙って放つ。


「行けぇ!!!」

「ぶち抜けぇ!!!」


 2人の想いを乗せた矢はとんでもないパワーで次々とユンゼに当たっていく。

 だが、倒しきるまでには至らない。

 魔力で出来ているから矢は役目を終えれば消えてしまう。

 その一瞬でユンゼは傷を治せる。

 だから、数とパワーがあっても倒すには力不足すぎる。


「一撃で倒すレベルじゃないとダメか!」


「クソッ!私達の攻撃でダメなら他に何が効くって言うんだ!それを教えやがれぇ!」


 最悪な状況で叫ぶ。

 その裏で神様がまた魔王を生み出す。


 《人狼のガルとゴーストのアニマを魔王と認めます。5人で力を合わせなさい。共に戦うのです》


 その言葉に従ってガルとアニマは3人の横に立った。

 並ぶと2人は神様に向けて言う。


「了解だ!俺様の力を出し切ってでも勝ってやる!」


「アニマは伝えます。『魔王らしい戦いを見せてやる!』と。ゴーストの強みを出せば勝てるでしょう」


 どちらもやる気十分だ。

 だが、そんなことをしてる間にヘクセ達の魔法が終わってしまった。

 そのせいで完全回復したユンゼが着陸してしまった。

 こうなったら全力をぶつけて戦うしかない。

 新星魔王達は今できる全て絞り出す。

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