第67話 ダリアの怪物戦
夜中、ダリア商会シエル支部。
エリカはカースがあっさりとやられたと聞いてキレそうになっている。
しかも、遺体がシエルに運ばれたことに誰も気づかなかった。
自分も含めて無能すぎてエリカは今にも暴れそうな状態だ。
「時間稼ぎにはなりました。それと引き換えにバレるのは聞いてません。開き直って私が魔王になりましょうか?そうしたらやりやすくなるでしょうよ」
エリカは恐ろしい笑みを浮かべながらそう言った。
今言ったことを実現すれば確かに動きやすくなる。
だが、その代わりにエリカの目的が達成不可能になる。
支部長の1人が怒られることを承知で提案することした。
命を賭ける価値のある提案だ。
「そんなことをさせるわけにはいきません。そんなことになるくらいなら支部長達が命を賭けましょう。どうせ我々は捕まれば死刑です」
「なら、すぐにでも行きなさい。カースが最後にビスカの居場所が分かるようにしてくれたんですからね」
カースは最後にかけた呪いの裏でGPSのような魔法を仕込んでいた。
それが気づかれる可能性はほぼ無い。
つまり、この先ビスカはどこに居ようとエリカ達に居場所がバレるということだ。
早速それを利用して支部長の1人を旧アルマに送り込む。
「では、ファットリーア支部の撤退ついでに支部長を行かせましょう。彼なら時間稼ぎ以上の働きをするでしょう」
「期待しないで待ってます」
エリカはイライラした様子でそう言った。
それを見れば支部長達は急がなければいけないと思う。
これ以降は報告せずに出来るだけビスカを抑える。
報告の時間さえも無駄だ。
ダメなら最後はビスカを封印してしまえばいい。
それが出来るなら。
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翌朝。
ビスカはすぐに外に出た。
嫌な魔力を感じたからだ。
そこにはダリア商会と魔王ムーミエ達が戦ってるのが見えた。
「ムーミエ!下がって!みんなに任せて!」
「分かった!あとは任せる!」
ムーミエは目くらましにゴースト達を使った。
それで視界が閉ざされてる内にビスカと合流する。
「急にあいつが襲ってきたんだ!しかも、タイミングが明らかに狙ってる感じだ!」
「夜が得意なのを理解してるのか。なら、ちょうどいいや」
「ちょうどいい?」
「魔王に開花させるチャンスだよ。私達はピンチになるまで見てよう」
「それで平気だと思ってるんだね。なら、賭けてみよう、あの子らが魔王になるのは私も望んでる」
そう言った直後にゴーストを回収した。
ダリア商会の男は視界が開けると目の前に現れたアンデット達を見つめた。
それから彼らに問う。
「貴様らが次の敵か。魔王でもない貴様らに勝ち目は薄いぞ」
アンデット達はそれぞれで言葉を返す。
「未来の魔王を舐めるな!俺達は魔王になってないだけでそれなりに強い!」
「私らを舐めてると食べちゃうぞ〜!ゾンビは墓場でこそ最強なんだから〜!」
「魔女としては戦いたくなど無い。だがな!ヘクセって言う個人としてはやらないといけねえんだよ!」
「僕は人狼だから昼間に本気を出せない。それでもやらなきゃいけない時はやるんだ!ガル、いざ参る!」
「ゴーストのアニマは言います。『こんなザコには負けない!』と。だから、アニマは本気で戦います」
全員が本気のようだ。
その他はすでに逃げ終えている。
だから、彼らも好きに暴れられる。
「やる気だけじゃどうにもならない現実ってやつを教えてやる!さぁ!掛かってこい!このユンゼが相手だ!」
元支部長のユンゼは輸血で体を巨人並みに体を大きくして守りの体勢に入った。
ちなみに、巨人は集会に参加できないだけで魔王が存在している。
参加できない理由は人間に血を貸したからだ。
そのせいでユンゼのような面倒な存在を生み出してしまった。
だから、巨人の魔王は大陸から離れた孤島で仲間と暮らしている。
「さて、私から行っちゃうよ〜?」
「俺も同行する!巨人の血を持ってるなら危険だ!」
「なら、ついて来なよ〜」
次の瞬間にライヒェが一気に距離を詰めた。
それからすぐにリミッターが外れたパンチを繰り出した。
それによってユンゼは50mも押されてしまった。
彼は驚いて防御を緩めてしまった。
オッソはすかさず細い剣を抜いて連続の突きを繰り出す。
骨の体は軽すぎて本気で動けば瞬天並みに動ける。
その速度で繰り出される突きは易々と硬い皮膚を削ってしまう。
「ぐぬぬ!クソが!」
ユンゼは思わず苦しい声が出てしまった。
それを聞けば誰でも効いてることを実感できる。
だから、このままオッソが抑えて時々ライヒェが大きな一撃を加える。
それを5回ほど繰り返したところでユンゼの行動が変わった。
「っ!?」
ライヒェは彼が何かをすることに気づいてオッソを無理やり抱えて離れた。
その次の瞬間にユンゼから爆発のような魔力が溢れた。
それのせいで煙が発生して何も見えない。
ライヒェとオッソは3人の所まで徹底してからユンゼの様子を見た。
すると、煙の中からゆらゆらと真っ赤な姿に変わった彼が出て来た。
「アニマは驚いた。『あれは巨人と鬼の力じゃないか!』と。あの組み合わせは最悪だ。アニマ達は勝てるのだろうか」
「勝てるのかじゃねえ!勝つんだよ!」
ガルは吠えると戦闘体勢に入るために周囲をぐるりと見渡す。
その途中で探し物の丸い形が目に入った。
それが一瞬でも目に入ると彼は人の姿から人狼の姿に変化した。
「ウオーーーン!」
人狼は変身すると絶対に遠吠えしないといけない。
そのせいで理性を失った様子のユンゼが狙いを定めてしまった。
ターゲットは目立つガルだ。
「俺様が相手だ!来るなら来いよ!受け止めてやる!『防御術』発動!」
突進を始めたユンゼを受け止めるためにガルはスキルを発動した。
そのスキルはどんな攻撃もどんな方向からでも受け止める超反射神経を使う防御だ。
体格差は歴然だが、このスキルなら絶対に受け止められる。
ガシッ!
受け止めたガルは奴と手を組んで押し合う。
これでしばらく動けない。
この隙にヘクセが超難度の星魔法を発動する。
ホウキに乗りながら2本の杖で完璧に魔法を操って見せる。
これはイニーレベルの魔法技術だ。
「流れる光よ!万物を砕け!『星屑流線』」
無数の星型魔力弾がすごいスピードで正確に背中に撃ち込まれる。
ヘクセは本当に魔女としてレベルが高いらしい。
2本の杖で魔法を操るなんて難易度が高すぎて魔王マギアでも出来ない。
これが天才って奴か。
その天才の攻撃は全然効いてる様子がない。
それどころか完全に無視されている。
「無視すんなぁ!『流星魔砲』×20!」
少し怒ったヘクセは魔法陣を同時展開した。
その様子はまるであの時のイニーだ。
ガルはすぐにこれが危険な状況だと思った。
それでも発射ギリギリまで抑え続ける。
「ガル!避けなさい!」
「あいよ!」
サッと避けてガルは距離を取った。
その次の瞬間にヘクセは近距離で20本の星型魔力砲を放った。
相手は避けるのが間に合わずに全部が直撃した。
それによって爆発が起きる。
ドーーーン!!!
魔砲が魔力防御に触れたことで起きた爆発は奴をまた隠した。
それに全員がデジャヴを感じた。
『二度あることは三度ある』という言葉がある。
あれだけの硬さなら本当にそうなってもおかしくない。
「まさか、この威力でもダメなの?」
「キヒヒ!そんな訳あるかよ!あれで生きてたら化け物だ!」
そんなことを言っていると煙の中から急に奴が現れた。
ガルの頭を掴もうとして腕を伸ばしている。
どうやらユンゼはさらに獣人とゴーレムの力を足したらしい。
無駄にフラグを回収しやがった。
このままではまずい。
ガチンッ!
奴は結界に阻まれて攻撃が出来なくなった。
このタイミングでアニマが間に入って救ってくれたようだ。
「アニマは言います。『予想できるだろ!』と。これによってアニマは彼らの代わりに攻撃すると決めた。もう止まることはないだろう」
アニマは余裕を見せて焦らずに結界を増やした。
自分達を囲んでいる結界の外側にもう一枚を張ることで閉じ込めたのだ。
アニマはそのまま両方の結界を動かす。
すると、奴は結界に挟まれて身動きを封じられる。
「アニマは心の底から願います。『潰れてくれ!』と。しかし、願いは叶いそうにありません」
奴は怪力で無理やり結界にヒビを入れた。
それからすぐにバリンッと砕けてしまった。
これはかなりまずい状況になった。




