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第65話 ダリアの敵対行為

 今から2日前、ダリア商会シエル支部。

 支部長室のイスにエリカが座っている。

 その周囲を5人の幹部クラスの支部長が取り囲んでいる。

 彼らは最近の失敗続きで怒られるんじゃないかと緊張しているようだ。

 エリカも失敗が続いてるせいでピリピリしてるらしい。


「ビスカは何も考えてません。それなのに邪魔されて何をしてもうまく行かなくなりました。時間稼ぎもできないのが現状です。何かあの子を止められる方法はありますか?」


 いきなりそんなことを言われても誰も答えられない。

 それにエリカはイライラさせられた。


「あの子は絶対に味方になりません。魔王になった以上は殺すことも許されません。では、どうすれば計画を円滑に進められるでしょうか?」


「いい案とは言い難いものが1つだけあります」


 支部長の1人がそう言った。

 エリカはそれに耳傾けることにした。


「それはどんな案でしょうか?」


「魔王のいる国を攻撃するんです。そうすれば、この前のように隠れて何かをすることができます。魔王ビスカは何かがあれば助けに行くような性格をしてるようなので」


「それはいい案ですね。では、誰を犠牲にしましょうか?また1人を犠牲にしなければ魔族への接触は不可能でしょう」


「それなら支部長のカースはどうでしょうか?彼女なら喜んで生贄になるでしょう」


「では、そうしましょう。カースにはファットリーアを襲うように指示をします。あそこは魔王ビスカがまだ訪れていない国の1つです。必ず行くでしょう」


 それからすぐにエリカは指示書を書いてアルマドラ支部に送った。




    -----------------




 現在、ファットリーアの城付近。

 ビスカ達が到着すると城の近くの地面が割れているのが見えた。

 そこからたくさんの魔力を感じる。

 この感じを前に触れたことがあるからビスカにはすぐに正体が分かった。

 これは合成魔獣だ。


「イブリッド!大急ぎで避難指示を出して!誰も近づけないようにして!」


「承知した!」


 魔王イブリッドはくるっと妹の方を向く。


「妹よ!全員に避難指示を出せ!逃げる場所が足りなければ外国にも要請を出せ!」


「分かりました!お兄様!」


 カーネは足に力を集中させて走り始めた。

 そのままあちこちを駆け回って指示を伝えて行く。


 聖騎士達は逃げようとせずに集まってきた。

 やっぱり敵なら倒すのが彼らのやり方らしい。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 ビスカは彼らも守るつもりで構える。

 その時、割れ目の中から声が聞こえて来た。


「キャハハハ!我らが主は神に等しきお方!あの方のためならこの命など惜しくない!」


 その声が聞こえなくなってからすぐに地面が崩れて合成魔獣がはい上がって来た。

 トカゲのような巨体に傷だらけの女がしがみついているのが見える。

 その女が話してたようだ。


「あなた方はどうせ死ぬんだ!隠す必要もない!」


 そう言って服に描かれたダリアの花を見せた。

 つまり、ダリア商会の人間がついに隠さずに動いたということだ。


「なんでここを狙うの!てか、どうやって移動して来たの!」


「魔王ビスカか!ここを狙う理由など無い!移動方法は地下で育ててたこいつらに掘らせたんだよ!」


「こいつら?」


「そう!こいつらだ!」


 ダリアの女は立ち上がると両手を上げた。

 その指示に従って穴から6体の合成魔獣が現れた。

 ライオン、ヘビ、カラス、クマ、カンガルー、コアラの6体は女に従っている。

 どれも魔王クラスの魔力を放っている。


「そんなに操れるものなのか?」


「あたしの名はカース!呪術を扱う魔人だ!」


 彼女は人間ですらなかった。

 なんなら魔王マギアの同族ということだから、それなりに魔法を扱えることは確定した。

 簡単に倒せると思わない方がいいだろう。


「カースとやら!我の国を傷つけてタダで済むと思うなよ!」


「魔王イブリッド!あなたとはやり合ってみたかったよ!でも、今回はダメ!魔王ビスカと遊びたいからさー!あなたはこの子達と遊んでなさい!」


 そう言って指差すとトカゲ以外の合成魔獣が一気にイブリッドを襲った。

 その1体の攻撃によってビスカから引き離されてしまった。

 そうなったらビスカはカースを睨み続ける。


「さて、これで魔王ビスカとの戦いに集中できる!さぁ!その力を見せてよ!」


「ああ、見せてやるよ。一瞬だからしっかり見とけよ」


 ビスカは200個のエンチャントを重ねた。

 それで魔力の剣を装備した。

 その剣を構えてトカゲの下を通り過ぎる。


 その瞬天の速度にカースはついていけなかった。

 全く見えない間にビスカが後ろにいるという状況だ。


「トカゲ!後ろだ!」


 その指示でトカゲの合成魔獣は振り返ろうとした。

 しかし、すでに切られていたせいで足が崩れて倒れてしまった。

 カースは何が起きたか理解できずにトカゲから降りて確認に向かった。

 それでトカゲの足がないことに気づく。


「こんなことがあり得るのか?これが魔王だと言うのか?化け物じゃないか」


「化け物だよ。あんたらと比べればね」


 ビスカの声が聞こえた。

 カースは慌てて魔法と呪術を同時発動した。

 それで完成した結界にビスカが瞬天で剣を当てた。


 その魔力剣が結界を破壊することに成功した。

 しかし、魔力剣は呪いの力で重くなってビスカの腕ごと地面に刺さってしまった。


「これが呪いか」


 ビスカは剣を解除して腕を引き抜きた。

 今度は別の方法で行くために普通に構える。

 それに対してカースはいくつもの呪いを用意している。


「呪いは肉体が受かれば大きな影響を受ける!でも、魔力防御には意味がない!」


「それを話しちゃうってことは秘策があるんだね」


「無いなら話さないよ!さぁ、合成魔獣よ!立ち上がれ!『呪法支配(カースドミネイト)』『隷属完全回復(スレイヴリフレッシュ)』」


 絶対支配の呪いと支配対象の回復魔法を同時に発動した。

 それによってトカゲの合成魔獣は完全回復して立ち上がった。

 それからすぐにトカゲはビスカに向けてスキルを発動する。


融解の息(ポイズンブレス)


 吐き出された息は周囲の物をどんどん溶かしてドロドロにしていく。

 それに気づいたビスカは空に逃げた。

 カースは魔法でその後を追って来た。


「あなたなら逃げなくてもいいと思うんだが。やっぱりダメなのか?」


「やろうと思えばどうにでもなる。こんな風に!」


 そう言いながらビスカは拳を全力で地面に向けて振り下ろした。

 拳圧だけで毒の息が吹き飛んで薄くなる。

 それを見せられたカースは驚いた顔を見せた。


「これはすごい!やっぱり早めに潰すべき敵だ!」


「ダリアからすればそうだろうね。でも、あんたじゃ勝てないよ?」


「そんなことは分かってる!でも、やらないといけないんだよ!1分でも長く抑え込む!」


 ここでトカゲが背中から光魔法を発動した。

 10本の光がトゲのように背中に装備された。

 この光が当たりそうになったビスカはサッと避けた。

 その時に落ちた羽が光に触れると一瞬でジュッと消える。


「これが完成した合成魔獣か。魔法まで合成されてるのか?」


「合成魔獣は魔力の性質も混ざる!そのせいで魔法まで混ざるんだよ!光なのに毒の特性を持ってたりね!」


「そりゃ完成すれば兵器になるわけだ。私に意味が無さすぎるけど」


 ビスカは魔力弾を作った。

 それに破壊系をエンチャントする。


「これで終わり。破滅付与ノ弾(ブレイキングエナジー)


 魔力弾をポイッとトカゲに落とす。

 それに敵意も何も感じなかったせいでトカゲは避けられなかった。

 当たると一瞬で肉体が魔力と混ざって散った。

 その短い間に起きたあり得ない出来事にカースは目を丸くする。


「はっ?えっ?なんで死んでるの?」


「回復不可能な攻撃をしたからだよ。私が本気なればいくらでも破壊できる。さて、消える準備は出来るかい?」


 カースは今のビスカを見て死を感じた。

 まるで目の前に死神が立ってるような感覚だ。

 絶対に死にたく無いと思ったカースは生まれて初めて全身に呪いをまとった。

 そのせいで全身に痛みが走る。


「死んでたまるか!死ぬよりは痛い方がマシだ!」


「その痛みも死ねばなくなる。消え失せろ!」


 2人の実力差圧倒的だ。

 魔王になる前のビスカなら苦戦しただろう。

 しかし、今なら楽に勝てる。


「滅びろ。破滅付与ノ拳(ブレイキングエナジー)


「呪われろ!呪法ノ拳(カースフィスト)


 2人は同時に殴ろうと動いた。

 もちろんビスカの方が速い。

 だから、相手の準備が終わる先に顔面にぶち込んだ。

 それで相手は吹っ飛んだ。


 最近は魔力の操作も出来るようになった。

 破壊しかできなかったこの技も、今では狙いを定めてそこだけを破壊できるようになった。

 今回は殺すけど遺体を回収することにした。


「あっさりと死んでも油断は出来ない。もう一発!」


 今度はカースに掛かっている魔法を狙って殴った。

 それによって遺体が消える可能性は無くなった。

 代わりにビスカの右腕が呪われて使えなくなった。

 さて、どうしたものか。

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