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第64話 獣人国ファットリーア

 数日後。

 ケイトが【モルカナ】を喧嘩両成敗で制圧したというニュースが伝わった。

 しかも、乗っ取りを成功させて王の座についたらしい。

 それを英雄王ソモンがサポートしたらしい。


 これでエリカが動くかも知れない。

 今はシエルで事業の準備をしている。

 だが、本部がある国の近くをケイトに取られたと知れば何かしらの動きは見せるだろう。


 ビスカは何かがあるまで魔都見学をすることにした。

 一度も行ってない国に行くつもりだが、残っているのはろくでもない連中だ。

 獣人、エルフ、ドラゴン、魔人の4カ国しか残っていない。

 その中でもマシな獣人の国に行くことにした。

 同伴者にはマーチを選んだ。


【獣人国ファットリーア】にはいつもの方法で移動した。

 大陸の最北にあるこの国は自然豊かなことが特徴となっている。





 到着すると城の前にいることに気づいた。

 その周囲をたくさんの獣人達が囲んでいる。

 出迎えてくれたらしい。

 彼らが声をそろえて言う。


「「「いらっしゃいませ!魔王ビスカ様!マーチ様!」」」


 ここまで教育されているとは恐れ入った。

 しかも、その直後に魔王が城の扉をゆっくりと開いて姿を見せた。


「よく来た!我らの歓迎、気に入っていただけただろうか!」


 見た目は女性っぽいのに元気な魔王だ。

 ビスカはその姿が前世の自分に似てるなと思った。

 なんで似てるかなんて考えても分からないだろう。

 深く考えずに言葉を返す。


「気に入るわけないでしょ。私はここまでされることが好きじゃないの。上に立って全員を支配するとか、そんな気はないから」


「それは残念だ!では!何の用で来られたのか聞いても良いか!?」


「過去の技術を見せてもらいたくて来た。こっちはこっちなりにやってるから真似する気なんて無い。でも、比較くらいはさせてもらいたい」


「構わない!我が民よ!ビスカ達に失礼の無いように気をつけて見せてやれ!」


「「「かしこまりました」」」


 どうやら魔王リアンは好かれすぎてるみたいだな。

 ビスカの場合は強者にみんながついて行くって感じだ。

 それに対して魔王イブリッドはみんなで進もうって感じがする。

 その違いがこの統率力の差に出ている。


「いいの?見せてもらって」


「ワッハッハッ!構わんよ!出来ればここの技術を世界に広めたいくらいだ!」


「それならマーチが盗んでもいい?」


「出来ることなら教育役として研究者を連れてゆけ!我の指示とあれば仕事に励んでくれるであろう!」


「そんなにしてもらっていいの?お互いを全然知らないのに?」


「各地の問題を解決したと聞いている!そんなお前になら力を貸しても良いと思った!なにせ、我は神獣の獣人なのでな!」


「そうなんだ。……………そうなんだっ!?」


 伝説級の生き物は聞いたことがあったけど、神獣なんてのも存在するのか。

 あの神に近かったり、神並みの強さがあるなら危険だな。


「ちなみに、強さはどれくらいなんだ?」


「神獣と言っても獣は獣だ!我の強さはラビアラと同等くらいであろうな!本気ならスペラーレと2時間はやり合えるだろう!」


 十分すぎる!

 普通の魔王なら本気を出してもスペラーレとやり合えるのは10分くらいだら、

 それ以上に長く戦えるなら化け物すぎる。

 これは仲良くなる選択をしなければバッドエンドだな。


「規格外か。なら、今は私のことを見ていてほしい。その上で友誼(ゆうぎ)を結ぶか考えてもらいたい」


「承知した!では、また後で会おう!それまでは様子を見させてもらう!」


「分かった。それじゃあ、私は牧場でも見学させてもらうよ。バイバイ」


 ビスカは手を振って離れて行く。

 認められるまで距離を取らなければ常に危険が付きまとう。

 相手の評価が良くてもこちらの印象が良くない。

 いつでも世界をひっくり返せそうな戦略を見せられて信じろと言われても無理だ。




 ビスカはマーチと共に牧場や研究施設を見せてもらうために地図を買った。

 この国は広いから特に地図が必要になるらしい。


 それを見ると獣人のタイプに合わせて区切ってるようだ。

 海や川の近くには魚を食べる獣人集めて、草食の獣人を畑仕事や研究に回して、肉食の獣人を戦士として鍛えてるらしい。

 これが出来るのも魔王イブリッドが人気だからだろう。


 今回用があるのは魔都の牧場と研究施設だ。

 早速そこに向かう。


 研究施設に着くとマーチだけを中に入らせた。

 ビスカはそんな物を見てても暇なだけなので牧場を見学させてもらう。

 そこに魔王イブリッドの妹が現れた。

 妹と分かったのは見た目と魔力が似てるからだ。


「変な国でしょ?お兄様が喧嘩しないように分けたんです」


「確かに不思議だね。で、誰?」


「あっ、初めまして。魔王イブリッドの妹のカーネと申します」


「妹さんか。似てないね」


「よく言われます。姉は元気すぎるけど妹は普通だねって言われてます」


「そうなんだ」


 ビスカはあんまり興味を持てずにいる。

 カーネの魔力量を見ると実力は七妖と同じくらいと予想される。

 その程度なら敵にもならないから興味が湧かないのだ。

 ビスカはつまらなそうに牧場を見つめ続ける。


「これを真似たいんですか?」


「似たものを作ろうとしてるんだよ。妖精のマーチが魔獣から魔を抜く方法を見つけたからね」


「それは会っておくべきですね。この動物達を作った獣人として」


「えっ!?本気で言ってるの!?」


「本気ですよ。私がこの子達を作って安全な肉を量産してるんですからね」


 ビスカは急に彼女に興味が出た。


「なんでそんなことをしようと思ったの?」


「魔王ビスカ様と似たような理由ですよ。これなら安全に肉を食べられますからね」


「私より先にそんな考えにたどり着いてると思わなかった。動物が出来たから増やしてるだけだと思ったよ」


「それじゃやる気が出ませんよ。モチベーションを保つには目的が必要です。それが魔獣を怒らせずに肉食の獣人を満足させるということです」


「なるほどね。それを実現できるなら頭がいいんだ」


「一応そうなりますね」


 ビスカはピーンときてしまった。

 この子を借りられればマーチ以外にも研究に参加できるようになるかも知れない。

 ダメ元で頼んでみよう。


「カーネ。うちで教えてやってるくれないか」


「それは、教育役を任せたいということですか?」


「そうだよ。君にこそ頼みたいと思ったんだ。どうだろうか」


「私は構いませんよ。お兄様が許してくれるかという話になりますけど」


「それは平気だろうよ。でしょ?魔王イブリッド」


 ビスカがそう言うとイブリッドが透明化を解除して姿を見せた。

 神獣はそんなことも出来てしまうようだ。


「別に構わん!妹であろうと連れて行くことを許可する!」


「この子は人質にもなるってことだけど。それでいいの?」


「我はビスカのことを信じている!だから、技術も人材も大切にしてくれると思っている!何の心配もない!」


「信頼されすぎるのも辛いな。私はあんたのことを怪しんでるんだし」


 ビスカは鋭い目つきで睨んだ。

 それに対して魔王イブリッドは鈍感な反応をした。


「我のどこに怪しむ要素がある?」


「あんた自身を怪しんでるんじゃない。あんたの国なら悪さをしても隠せそうだと思ったんだよ。例えば、ダリア商会とかね」


「あいつらか!確かに新たな魔王から話は聞いた!そんなことのないように聖騎士を雇ってるから問題は無いだろう!」


 聖騎士か。

 魔王ミューカスが育てて聖騎士を名乗らせてる連中。

 実力は本物で、名前に恥じない聖なる存在らしい。

 全員が神の加護を魔王ミューカスを介して得ているから、構成員は勇者や英雄のなり損ないと言えるそうだ。

 どこかに本部があるらしいからビスカも会えたら頼もうかと思っている。

 それは信用できるのか?


「本当に信用できるの?国中を歩かせても見つからない時はあるんじゃない?」


「可能性はあるな!合成魔獣の禁術を作り出したのは我らの先祖だ!その術が外に()れた時点で怪しいとは思っていた!」


「誰かが漏らしてる可能性と、聖騎士が無能な可能性?」


「そういうことだ!だが、地上で無ければ見つからなくても仕方がない!彼らは地上を警備する契約だからな!」


「なるほど。難しい奴らだ」


 でも、敵になる可能性は低そうだ。

 ここで会えたらその話をしてみよう。


「とりあえず、今日のところは帰らせてもらうよ」


「それなら歩いて帰るといい!時間はかかるだろうが、夢を叶えるならそれくらいした方がいいぞ!」


 どこで漏れたんだよ。

 こいつにビスカの夢を話した覚えはない。

 あったか?集会でそんなこと言ったかな?

 記憶にないならなんとも言えない。


「まぁ、そうさせてもらうよ。それじゃあね」


「ではお兄様、行って参ります」


 ビスカとカーネはその場から離れようとした。

 その時、城の方から爆発音が聞こえた。

 嫌な予感がする。

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