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第62話 ドラゴニュートの秘密

 ビスカはシエルに戻るとすぐに魔王リアンの【山上国家ルチェルトラ】に移動した。


 移動先は王の間の前らしい。

 威厳のある扉に続く階段の前に立たされている。

 やはり戦争準備をしてるようで魔王自身が出てこない。

 代わりに大臣が出迎えてくれた。


「魔王ビスカ様、ようこそお越しくださいました」


「そんなことしてる暇あるの?竜人族(ドラゴニュート)は人間と戦争することになったんじゃないの?」


「彼らが仕掛けて来ることが分かりましたからね。魔王様はお一人で人間達と戦うつもりなのです」


「魔王でもそれは厳しくないか?相手が合成魔獣や兵器を持ってたら話にならないでしょ。私だってそうなったら勝てる気がしないもの」


「おっしゃる通りです。ですが、後に引けないのです」


 大臣は深刻そうな顔を見せた。

 ビスカにはその意味が全く理解できない。


「意味がわからない。どうしてそうなるの?」


「話せません。これは我々の問題です。お引き取りを」


「魔王に会わせろ。ダメと言われても無理やり会ってやる」


「お引き取りを!我らが魔王様はお会いになるつもりはありません!そして、あの扉は魔王様自身にしか開けられないのです!」


「それならしょうがない。また来るよ」


 ビスカは諦めたフリをして一度帰還した。




 しばらくして扉が開いた。

 そこから魔王リアンが現れて大臣に言う。


「もうダメだ。ボクらはここまでなんだよ」


「そんなことを言ってはなりません。この国が終わらぬように手を尽くしたのでしょう。ここで終われません」


「諜報部からの報告を聞いただろ?相手の【戦人国アルマ】はどっかより完成度の高い兵器を複数所有している。勝っても負けても終わりだ」


「どうしてそうなりましょうか。魔王様が居れば安心できるでしょう」


「そんなわけあるか。ドラゴニュートが全滅しても終わり。ボクだけが残っても終わり。ボクだけが死んでも終わり。この国は詰んでるんだよ」


「…………………」


 大臣はついに黙ってしまった。




    -----------------




 しばらくしてビスカがイニーツィオを連れて再訪問した。

 今度は魔王リアンが直々に断るために待っていた。

 あの大臣はイニーがいることに驚いた顔をしている。

 リアンはそれ以上に驚いた顔をしている。


「ビスカ、ここにきたのまちがいだったかもしれない」


「なんで?手を貸してって頼んだだけでしょ?」


「そのせいでみたくないやつにあった。あれはうんめいのひとだよ」


 イニーの運命の人?

 ビスカは目をパチクリさせた。

 その間に魔王リアンが思いっきりイニーに抱きついた。


「イニー!本当に無事だったんだね!よかった!」


「あのときあったよ。それでもしんぱいだったの?」


「そうだよ!イニーは姫様なんだから!」


「リアンはおうじさまだもんね。分かるよ」


 ビスカはついて行けずに頭の中がハテナで埋め尽くされた。

 花畑になりそうなくらいに理解できない。

 それについて大臣が説明しに来てくれた。


「魔王ビスカ様、説明しましょうか?」


「お願い。頭痛くなりそう」


「では、先にイニーツィオ様が人竜姫種(ドラゴスポーザ)なのはご存知で?」


「知ってるよ」


「それならばすぐに分かるでしょう。イニーツィオ様が姫ならば、リアンは人竜彦種(ドラゴスポーゾ)という王子様なのです」


「つまり、種族的に運命を決められた(つい)ってこと?」


「その通りでございます。それゆえに魔王リアン様はイニーツィオ様が封印されたと聞いてやる気を喪失しておりました。それでも魔竜帝スペラーレ様に次ぐ強者であることからこれまでこの国を守っていただいておりました」


「なるほど。魔王にバレてもいいけど、外にドラゴニュート以外が王をしてるという情報が漏れたらやばそうだ」


 大臣は鋭いお方だなと思った。

 実際にビスカはそういうことに気づくことが多い。


「そうなりそうなのです。敵国のアルマは多数の兵器を所持してることが分かっております。ですから、結果がどうなろうとドラゴニュートは終わりです」


「どの結果でも確かに終わりだ。一番いいのはアルマが敗北してこちらに何も起こらないことか」


「それは無理でしょう。諦めるしか無さそうです」


「大丈夫だよ。今頃アルマは滅びてるから」


 そう言いながらその光景を想像した。




    -----------------




 その頃、アルマの兵器工場が破壊されていた。

 犯人はシエルの同盟国達だ。

 アリッサが気を利かせて相手に自分を攻撃させたらしい。


 それによって同盟国にシエルからの救援要請が伝えられた。

 その要請にマキナとオスクリタが応えて転移魔法で助けに来た。

 その2人が暴れるだけで合成魔獣7体と魔法兵器20機が発見された。

 どれも禁術なので、発見された時点でアルマは全世界の敵に認定されてしまう。

 そうなったことでアルマはたった2人の魔王の手によって滅びた。

 その時間たったの10分だ。


 魔王達は利用されたと気づいても怒らなかった。

 それどころかアルマの悪事を止めることに繋がったアリッサの行為を褒め称えた。

 ついでにオスクリタは必要な証拠を手に入れた。

 それを持ってダリア商会のメンバーと照らし合わせる。

 兵器工場にいた人物の1人がダリア商会の元メンバーであることがそれで判明した。


 アルマはダリア商会に踊らされて滅んだ。

 その情報はオスクリタが隠した。

 その代わりに禁術所有の罪で処されたことが世界に伝えられた。


 国が滅んで戦争する必要がなくなったことは近隣のルチェルトラにすぐに伝えられた。

 これによって戦争は未然に防がれた。




    -----------------




 ルチェルトラの大臣の耳にそのことが伝えられた。

 その様子でビスカはしっかりと終えたことを確認した。

 大臣は驚きの話をビスカにする。


「アルマが魔王の2人によって滅びました。本当に」


「うちのアリッサは言わなくても仕事をしてくれるからね。たった1人でも国民が傷つけられれば同盟が平和のために動いてくれる。それで解決したの」


「こんなことがあり得るのか?」


「良かったじゃない。これで魔王リアンの情報が外に出ることはなくなった。感謝してよね」


「感謝してもしきれません。ですが、やはり1度国を滅ぼしてリセットしましょう」


 大臣は真剣な顔で変なこと言った。

 せっかく助けたのに自爆しちゃうの?


「なんでそんなことをするの?」


「またこのようなことがあれば今度こそバレるでしょう。ならば、一度滅ぼしてやり直したいと思うのですね。見ての通りですが、魔王様はドラゴニュートで無いどころか若すぎます」


 見ると今も魔王リアンはイニーにベタベタしている。

 まるで子供同士がじゃれあってるかのようだ。

 その姿には威厳のかけらもない。


「あの方々は魔族の常識を超えていたのです」


「どういうことなのか説明して」


「あの方々の寿命は10万年です。それほどの長さなら数百年程度では、人間で例えるなら3歳ほどでしょう。それが魔族ということで頭脳は大人並みとなるわけです」


「つまり!イニーも実際に子供ってこと!?」


 あまりに唐突に明かされた事実にビスカは本気で驚いてしまった。

 それに対して大臣は冷静に伝える。


「その通りでございます。しっかりと話せるようになるまで千年近く掛かるでしょう。それまで待てるなら意思疎通は可能です。魔王リアン様は天才ですからすぐに話せるようになりましたが」


「どうしてそんなことがわかったの?」


「大昔の記録を遺跡で発見したのです。それにはあの方々の生まれ方が描かれておりました」


「どんな内容でも聞くから話して」


「はい。あの方々はドラゴンと人の間に生まれます。あるいはドラゴニュートから1億分の1の確率で生まれます。遺跡で見つけた記録によると、魔竜帝スペラーレの12代前の魔王がロマンチックな話をして種族名を与えたそうです」


「この世界は名前に力があるからね。それがルールとなって性別で変わることになったのね」


「そういうことです。魔王リアン様と魔王イニーツィオ様はそのルールに縛られているのです。もし、お二人の間に子供が出来れば更にルールが追加されるでしょう」


「2つの種族から生まれた子供も性別で分ける。とか?」


「そうなるでしょうね。それを見たい気持ちもありますが、魔王リアンの幸せを考えればここに縛るべきではありません。どうでしょう?あの方を預かってこの国が生まれ変わる姿を一緒に見ていてはいただけませんか?」


 それってどうなの?

 一国に魔王が集まるのは危険な気がする。

 他国からの目を考えると、ラビアラとイニーツィオが居るだけでもギリギリだ。

 そこに最強クラスの魔王をもう1人追加すれば騒ぎになるかもしれない。


 それでも魅力的な話だ。

 あのイニーツィオと同等の魔王が居れば戦争には負けないだろう。

 もしものことがあってもエンチャントでサポートすればいいだけの話だ。

 この国が滅びるというのなら預かったらどれだけのお釣りが出るのだろうか。

 それを考えれば断る方があり得ない。


「分かった。それなら今すぐに連れて行こう。あとは任せたよ」


「お任せを。いつか魔王様が誕生したら、その時はぜひ友誼(ゆうぎ)を結ばせてください」


「その時を楽しみにしてるよ。それじゃあね」


 ビスカは大臣から離れてガキどもに近づく。



 魔王リアンはビスカが近づくと真面目な顔になってイニーから離れた。

 そして、威厳を取り戻して言う。


「全てが解決したのだろう。感謝する」


「感謝するなら借りを返して欲しい」


「何をすればいい。ドラゴニュート達の頼みであんたを預かることになった。この国は一度滅ぼして再建するそうだよ」


「そうか。やっと覚悟ができたんだね」


「こうなると予想してたの?」


「いつかはこうなると思っていた。だが、彼らは奇跡を頼ることしか知らない。自力で魔王を生み出して国を守るなんて考えてなかった」


「それが壊れたわけね。私とイニーツィオが来たことで」


「そういうことだ。では、これから仲良くさせてもらうんだ握手くらいしよう」


 魔王リアンは大きな手を差し出した。

 ビスカは小さな手で握手に応えた。


「これからよろしく頼む」


「こちらこそ。シエル側へようこそ」


 2人はしばらく強く握り合った。

 その手を離すとビスカはすぐに3人でシエルに戻った。

 その時、隠れていたドラゴニュート達が姿を見せて、全員で今まで助けてもらった魔王リアンに頭を下げた。


 魔王リアンは移動する瞬間にドラゴニュート達に純粋な笑みを見せた。

 行ってしまった後にドラゴニュート達はあの笑みに応えなければいけないと思った。

 だから、すぐにその情報を手紙や新聞という形でばら撒く。

 それで世界にルチェルトラの罪を告白して出直す宣言する。

 それからすぐに各国からルチェルトラとの関係見直しを伝えられる。

 でも、大臣達はそれでいいと思う。

 国を綺麗にするなら一度まっさらにするしか無いから。


 ついでにルチェルトラは山を降りることにした。

 今まで山頂で偉そうにしていたが、そこから降りてもう一度上を目指す気持ちを思い出すことにしたのだ。

 さて、旧ルチェルトラとアルマの資材を使って再建を頑張ろう。

 そう思った時、1人の青年が魔王候補となった。

 今後はその青年と共に国を作っていくのだろう。

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