表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/77

第61話 海の魔王マーレ

 ビスカはシエルに戻るとすぐにドラゴニュートの動きを確認した。

 今のところ動きはないらしい。

 なので、今は気にせずに海浜国家プライヤに向かう。

 招待状を使って移動した。




 到着すると水を贅沢に使ったお城の前に立たされた。

 そこに魔王ウェルが現れる。


「何の用で来たの?今忙しいんだけど」


 彼女は前に会ったときと違ってピリピリしている。

 それでもビスカはいつもの調子で話す。


「ここで未知の魔力反応が出たの。それを調べないと帰れないよ」


「未知の魔力?なんでそんなのに気づけたの?シエルはここから遠いんじゃないの?意味不明なんだけど」


「仲間の1人が見つけたんだよ。空からね」


「空か。それなら見えるかもね」


 そこからしばらく魔王ウェルは黙ってしまった。

 難しい顔で何かを考えてるようだ。


 考えがまとまったところでビスカに向けて話す。


「あなたになら任せられるかもしれない」


「任せる?何を?」


「お姉ちゃんを止めることだよ。その魔力反応はお姉ちゃんが怒ったことで発生したんだ」


「なるほどね。そのお姉ちゃんはどこにいるの?」


「案内してあげる!今すぐに行こう!」


 ウェルはビスカの手を引っ張って走る。

 どこに行くのか聞こうとしたが、聞けそうな顔をしていなかった。




 走って数分で海岸の小屋にたどり着いた。

 中に入ると薄暗い部屋の中で車椅子に座る女性の姿が見えた。

 相変わらず人魚に見えないが、魔力の質が完全に水を操る人魚の物だ。

 人に化けててもすぐに分かった。


 ビスカは彼女に近づいて挨拶する。


「あなたが魔王ウェルの姉ですね。初めまして、私は魔王ビスカと申します」


「帰れ…」


「えっ?」


「帰れと言ってる!」


 ものすごい形相で怒りと魔力をぶつけてきた。

 それ同時に海が荒れて波が高くなった。

 小屋から見ても危険なのが伝わってくる。

 まるで海と魔王の姉が繋がってるかのようだ。


 ビスカは恐れずに話を続ける。


「話も聞かずに帰れとは、随分ひどいんじゃないか?」


「若い魔王に言われたくはない。ワタシは貴様より長く魔王をしている!現魔王のウェルとは双子で同時に魔王へと昇華したのだ!下の者に機嫌が悪いから帰れと言って何が悪い!」


 これは話が通じそうにない。

 だが、解決しなければ怒りで津波が発生するかもしれない。

 ここで諦めるわけにはいかない。


「それでも勝手に怒るなよ。何で機嫌が悪いのか分からないとこっちも困るんだよ」


「何を困ると言うのだ?貴様が知らなくても困らぬだろう?今すぐに帰れば関係なくなるのだからな」


「関係大有りだね。ここで帰ったらあんたのせいで津波が起こるかもしれない。そうなれば困るのは大陸中の全員だ」


「一理あるな。確かにワタシが怒り狂って津波を起こせばティーア大森林を洗い流せるだろう。だが、ワタシの怒りはどうにもならんよ」


「どうしてどうにもならないの?」


「この足では確認が出来ないからだ。こうした張本人である元勇者クロムの生死をな」


 ビスカは急に彼の名前が出て来て驚いた。

 確かにクロムと人魚の魔王に繋がりはあった。

 人魚の魔王が人間に国に送った剣が勇者の剣としてクロムに与えられていたから。

 それで人魚の魔王は斬られて暴走を止められた。

 彼女がその魔王?


「彼は死んだよ。葬式もちゃんとやった」


「嘘をつくな!あの男が簡単に死ぬものか!貴様も奴と同じか!あの商人と同じなのか!」


 商人?

 なんでそんなのがこの会話で出てくるんだ?

 それよりもここに居続ける魔王の耳にどうして情報が入ったんだ?

 ビスカは疑問を解消するために尋ねる。


「その商人が話してくれたの?」


「偶然ここに来た商人が話した!『元勇者クロムが死亡した』とな!だが、それをワタシは信じぬ!信じぬから怒りで海が荒れた!」


「そうか。なら、もっと怒っとけ。それでも死んだ事実は変わらない」


「なぜ分かるのだ!奴は噂程度の話として伝えてくれた!だが、貴様はまるで目の前で死を見たかのように話す!なぜだ!」


「私達を守って死んだからさ」


 魔王マーレは世界が一瞬止まったように感じた。

 それから世界がぐるぐる回るように感じる。


「本当に…死んだのか…?」


「そうだよ。魔王ラビアラがスキルや魔法を封じたから負けて死んだ」


「それなら納得だ。あいつは他人から得た力で戦うからな。そのほとんどを使えなくなれば勝てなくて当然だ」


「あの時はわざわざ禁術で若返ってた。それでもクロムは負けた」


「剣をうまく使える歳に戻ったのか。それで負けたのなら自己完結のスキルを得なかったな。あのバカ!ワタシはそういうのを使えるようになれと言ったぞ!」


「彼が他人の意見を聞くように見えるか?」


「見えんな。どんなに話しても一周回って元通りだ」


 彼女はため息をついて天井を見上げた。


「もう帰って良いぞ。怒りは消えた。確定なら諦めもつくというものだ」


 実際に怒りは消えたらしい。

 海が穏やかに戻っていく。

 それで終わりにしてもいいが、ビスカはそれで帰る気にならなかった。


「死ぬなんて許さないから」


「そう見えるのか?」


「今にも死にそうだよ。だからって自殺はダメだ。クロムはそれを望まない」


「あいつなら実際に望まぬだろうな。ついて来るなと叫びそうだ。だが、ワタシはもう生きる気力がない」


「なら、生きる目的を与えよう」


「目的?」


「魔王ウェルを最後まで育てろ。可愛い妹だろ?かわいいと思ってないなら後継者として育てろ。ウェルは強さをあんたに教えてもらえなくて困っている」


「どういうことだ?」


「あんたは強いのかもしれない。でも、ウェルはそれと同じになれなかった。強さのランキングなら1番下だ」


 魔王マーレはその事実にひどく驚いた。

 元最強の一角だったマーレの妹なら強くなると思っていたのだろう。

 だが、実際はどの魔王にも勝てないカス魚になってしまった。

 情けないことこの上ない。


「そんな……あんなにも近くで見ていたのに…真似できなかったのか!」


「そういうことだ。だから、妹を魔王としてしっかりするように育てろ。教育なら足が悪くても出来るだろ?」


「確かに出来る。だが、あれでダメなら育てられる気がしない」


「それなら2人で魔王として君臨しろ。そして、死ぬ時まで全力を注いで支え合え。これまでのやり方を捨てろ」


「分かった。そうしてみよう」


「では、帰らせてもらう。もう暴れないでよ」


「肝に銘じよう。そして、今度また招待状を送ろう。双子の名を揃えてな」


「楽しみにしてる。じゃあね」


 ビスカは手を振りながら帰った。

 その後すぐに姉妹でこれまでのことを謝り合った。

 今まで仲が悪かったが、これで少しは良くなりそうだ。

 クロムが来る前よりいい国になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ