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第5話 目覚めたら襲われてた!

 翌日。ビスカは外がうるさいせいで起きてしまった。

 目を開けると窓から狭い家に光が差し込んでいた。その光を浴びて天使はその日の分の魔力を回復させる。

 今日の分の力を得たビスカは完全に目覚めた。それからすぐに違和感に気づく。


「ケイトはどこ?」


 彼の姿が見えない。

 そんな時間まで寝てたなら、彼はもう起きてどこかに行ってしまったのかもしれない。

 それにしてはメモも手紙も食事もない。あんな人が忘れるとは思えない。

 なら、外?


「なんでうるさいの。昨日と同じならここまでうるさくなかったのに」


 外はまるで祭りでもしてるかのような騒がしさだ。

 でも、このうるささをそんな楽しい物のせいだと思えない。何故なら日本にいた頃に観た映画で似たようなものを聞いたから。

 つまり、外は阿鼻叫喚の地獄絵図。


 その予想は大当たりだ。ドアを開けてみるとすぐに焼ける建物と倒れる人が目に入った。

 あんなにも素晴らしい街が一夜明けてこんなことになってしまった。

 混乱したビスカは体が動かなかった。でも、目だけはその地獄を覗く。

 どうやらこの家の周辺だけが襲われてないらしい。それ以外は大きな被害を受けている。

 よく見たら少し先の方でたくさんの人が戦っていた。その先頭にいるのはリーダーだ。立派な剣を振って敵と戦っている。


「あぁ、ふざけんなよ……人間はどんな世界でも争うわないといけないのか……」


 大きなショックを受けたビスカは膝から崩れ落ちた。

 そうして目線をさらに低くしたせいで見なくていいものが目に入った。それは大怪我をした近所のおばさんだ。


「あぁ…これは助からない…私にそんな力があれば…」


 そう言った直後にビスカは無力感から絶望の悲鳴を上げた。その悲鳴に街の男達も敵の兵士達も気づいた。

 その敵兵達が天使を見つけるとニヤリと笑った。

 どうやら敵の狙いは天使ビスカのようだ。



 敵兵の1人が街の男達の隙間を縫って天使のもとに走る。

 それを見てまずいと思ったリーダーが叫ぶ。


「いかん!誰か!あの子を守れ!ビスカはわしらの希望じゃ!」


 その声で我に帰ったケイトが後を追う。


「テメェ!あの子に指一本触れさせるか!」


「なんだ貴様!我らが魔王様に逆らうどころか邪魔をするのか!」


 敵兵はそう言いながら鎧の胸に刻まれた翼の魔王の証を見せた。

 そんな物にあそこら逃げ出したこの男は引かない!

 それどころか積年の恨みを代わりにこいつにぶつける!


「あいつはふざけた魔王だが、無理やり連れて行かせるような真似はしない!どうせ貴様らの独断だろう!それどころか魔王の配下を名乗る偽物か!ならばここで倒れろ!」


 妙に力が入ったケイトは勢いに任せて兵士をぶっ倒した。

 やられた兵士は無念の表情で倒れる。


「リーダー!こっちは倒したぞ!」


 勝ち誇ったケイトは片手を振り上げてリーダーに報告する。

 それを聞いたリーダーはニヤリと笑う。そして、目の前で一歩も引かずにぶつかり続ける敵の大将を揺さぶる。


「だそうだ。こんな老いぼれに大将が抑えられてる上に、部下もやられるなんて情けないのぉ?このままではこちらが数で押し切るかもしれんぞ?」


「ほざけ!ダメなら退くまでだ!それに、最終的には独立を許さなぬ連合軍で終わりだ!我らなど前座に過ぎぬわ!」


「ならばどうする!やれたのは女子供ばかり!わしらの側は主戦力を失っておらんぞ!」


「グッ!仕方ない!撤退だ!」


 言葉で押し負けた敵大将は撤退を指示した。それが聞こえた手前の者から徐々に逃げていく。

 街の男の何人かは追おうとしたが、リーダーが剣を地面に突き立ててそれを静止した。


 この間にケイトはビスカの元に駆けていく。

 その足が着くよりも先にビスカは意識が途切れだ。プツンという音が頭の中で響いてしまった。




    ---------------




 撤退した敵軍は森の手前に入った。

 それからすぐに大将が奥に待たせた魔道士達に命ずる。


「奴らはやはり強い!我らだけではダメだっ!だから、それを使う!やれ!」


「本当によろしいのですか?我ら魔道士ではこいつを制御できませんよ!」


「構わん!どうせ天使は死なんのだ!勇者の剣と天使を回収できれば後はどうでもいい!神も降りて来ないのだぞ!今しかチャンスは無い!」


 魔道士長は断ろうと思ったが、大将はこの場で一番偉いからさらに何かを言うことは無かった。

 なので、諦めた様子で部下達に指示を伝える。


「転送魔法用意!同時に奴の封印を解け!」


「「了解!」」


 魔道士達は命令に従う意志を見せた。中には怯えて震える者いるが、仲間が大丈夫だと支え合って魔法の発動準備を始めた。

 特大の魔法陣が森の中に展開されたのを見届けて大将が再び出陣の用意する。


「さぁ!次で終わらせる!こちらも疲弊しているが、奴らはたったの100人だ!こちらは200人もいるのだぞ!疲弊していても勝てる!それに我らには最終兵器が存在するのだ!負けるわけがない!だから、行くぞ!」


「「おぉー!!!!!」」


 大将は自分のスキル『率いる者(ジェネラルオーダー)』を発動して士気を上げている。

 この軍は大将を潰さない限り少数でも厄介だ。それを知らない街の人々の勝ち目はほとんどない。

 バレてないことを確信している大将はもう勝った気で街を見ている。


 それから3分も経たずに魔道士達の準備が出来た。

 それを大将に伝える。


「準備できました。そちらのタイミングで送れます!」


「ならば今すぐだ!混乱に乗じて目的の物を狙う!勝ちも大切だが我らに与えられた指示は奪還と入手だ!それを忘れずに出陣だ!」


 その掛け声と同時に兵士達と魔道士達が動いた。

 そして、兵士達より先に転送された兵器なるものが暴れ始める。


 送られたそれはとても(みにく)い合成魔獣だ。

 牛がメインのようだが、その丸っこい巨体と赤黒い肌は元の面影を残していなかった。

 その怪物は頭の中をいじられて人間だけを襲うように仕込まれていた。つまり、人間からすれば敵味方関係ない無差別兵器だ。

 そいつが最初に目にしたのは天使のところに集まる男達だ。

 活きの良い人間を優先にするようにいじられているので、そこらの死に損ないを無視して彼らを真っ先に襲う。

 それに続くために兵士達はある程度の距離を取りながら天使と剣を目指す。




 こんな巨大な敵が突然現れたことで街の男達は一瞬思考が止まってしまった。

 他の男達は動けないが、すぐにリーダーは正義感だけで動いた。大将とのやり合いでだいぶ体力を削られてるせいで、次の大技が最後になるだろう。そんな状態でもみんなを守るために前に出た。


「やらせはせん!ここは勇気ある者達と希望を求めた者達の街だ!この程度では終わらせん!」


 リーダーは最後にかっこつけようとした。確かに大技を一発残しているが、それだけでは足一本を切り落とすので精一杯だ。

 それを理解してるからかっこつけた。でも、元勇者だからかっこつけなくてもかっこよくなったかもしれない。

 まぁ、結局は死ぬんだ。なら最後くらいかっこつけさせてやってもいいだろう。



 彼は死を目の前にして想う。

『助けられんでごめんな』『こんな奴が元勇者で申し訳ない』『生きてくれよ』『幸せにな』『自分の居ない未来に光を灯してくれ』

 口にはできないような恥ずかしい言葉ばかりだ。そして、これは彼の本音で本当に残したかった最後の言葉だ。

 それを自分の中だけに秘めて剣を強く握る。


『神様!あんたはわしを祝福して勇者にした!なら最後まで責任持って支えてくれ!あいつらを護りたいんだ!』


 心の中で強く願って叫んだ。その言葉は神様には届いている。

 彼女はドラマチックな場面が大好きだ。そして、絶対に正義が勝つ場面を愛する。だから、地上に手を伸ばしてくれた。

 しかし、その手は元勇者を無視して別の者に向かう。

 そう。神様は今一番のお気に入りであるビスカに触れたのだ。


 それによってすでに怒りが頂点に達していたビスカが立ち上がった。

 その目は血走っていて、敵のみを見つめる。

 そして、吐き捨てる。


「デカいだけで勝てると思うな。チビだって強いぞ!脳なし!」


 そう言った直後にビスカはみんなを絶対に守るという覚悟を決めた。

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